良心
神の試練から出たチェシャ達はフードを深く被った人を背負っている為、数人から奇異の目で見られながら探査者組合に入った。
現在は組合にある応接室のようなところで五人は待たされている。
森人は相変わらず縛られたままであり、目が覚める様子もない。
あれから二時間は過ぎている為、起きてもおかしくはない。
そんな森人の頬をペチペチと軽く叩きながらソリッドは口を開く。
「連れて帰れちまったけどよ、ここで良いのか?」
「どう言う意味だ?」
「いや……さ? 殺されたりとかするのかなぁって」
殆ど人にしか見えないそれに情が湧いたようで、そしてそれをダメだと分かっているのも合わせて複雑な気持ちをソリッドは述べる。
「気持ちは分からなくもないがな、見た目も中性的だがどちらかと言えば女性……少女? に寄っている。が、接敵して一番に魔術を撃とうとする奴を放置もできん」
「わーってるよ、それは」
ソリッドの気持ちは周りの三人も同様らしく、複雑そうに顔を歪ませる。
「出来ることはこの子が迷宮生物でないことを祈るくらいだ」
そう言ってソリッドは目を閉じた。
雰囲気がやや悪いまま数分が経ち、応接室の扉が開いた。
入ってきたのは女性だった。
「すみません、現在組長は別の要件で出張っていまして……。代わりに代理の私、クシャトリアが対応させていただきます」
そう言ったクシャトリアは急いできたのかやや汗ばんだ肌をハンカチで拭き取りながら五人の対面のソファーに座った。
「早速本題ですが、この子が例の?」
「ええ、私の推測ではエルフかと思っているのですが……」
「私も資料でしかエルフの存在については知りませんが……見た目としては伝聞通りですね……」
クシャトリアは殆ど筒巻きの状態の森人に近づきその容貌を観察する。
そして、容易には手に入らない美貌を見て感嘆の息を漏らすと立ち上がって席に戻った。
「この子をどうするか、ですか……確かに殺せとは言い難いですが、私個人として、ひいては組合の方針としてはそうするべきだと思います」
「やはりそうですか……。森人が外の何処にいるかは分かりませんが怒りを買いそうですね」
軽く口調で言い放ったボイドは鞄から黒みを帯びた液体の入った瓶を取り出した。
「それ、なんだ?」
「毒瓶さ。分かりやすい見た目だろう?」
淡々と言い放ったボイドにソリッドは目を見開いた。彼自身も分かってはいたが、いまからやることは殺人に近い。どうしても、忌避感を捨てきれなかった。
「殺す……のか?」
「あぁ、どうせ殺してしまうなら意識の無いうちの方が良いからな」
それは彼なりの精一杯の善意だった。
私情が許す範囲内でのそれは大衆からすれば正しいもので。
「けどよ……」
大衆からの善意と言うものは個人の感情を無視したもの。多数決において少数派の意見などは取り入れられない。
それはソリッド以外も複雑そうな顔をしていても止めはしないことから証明されてしまう。
「……分かってくれ」
「……」
ボイドの僅かに震えた声にソリッドは言い返すことは出来なかった。
「んんぅ……」
身悶えするような声。
この場にいる者の視線が一点、森人の元へと向かう。
全身が縛られている状態に抗うように身をよじりながら目の焦点が整っていく。
チェシャが槍に、アリスが銃に、クオリアが大盾に手をかける。
目の焦点が合った森人は途端にもがき出す。
「チェシャ」
「ん」
ボイドが名前を呼ぶ。
先程は手こずったとはいえ、体を縛られた状態で何かができるはずもなく、森人はチェシャの手刀を当てられて再度昏倒した。
バタリと絨毯の上に倒れ、虚しく響く。
「……すまないな」
ボイドは一言謝ると今度こそ毒瓶の蓋を開けて中身を少女の口へ注ごうとした。
その刹那、部屋が閃光で満たされた。
「何っ!?」
閃光が晴れても視界が回復せずに動けない五人。
荒々しい足音だけが部屋を駆け抜け、そこには茶髪の少年と緑髪の森人は居なかった。




