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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第四試練:唸るは英雄の剣
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防衛機構

 


「ここよね?」

「ああ」


 目的地手前のドアに辿り着いた五人。アリスの確認にボイドが答える。


「開けるよ?」


 チェシャは四人に確認を取ってからドアに手をかけて横にスライドさせた。

 また監視者に見つかってしまっては大変なので、とりあえず早足で部屋に入る。

 ドアの先は奥にある大きな端末以外には特に何もない部屋。


「あれがロック?」


 チェシャがその大きな端末を指差す。

 端末にはコントロールルームにあったような電光板の小さい版が埋め込まれてはいるが、動いてはいなかった。


「ええ、多分そうよ」


 アリスは早足でその端末へと近づく。防衛機構はアリス以外の接触を防ぐものだったはずというおぼろげな記憶で、他の四人が誤って近づく前に作業を終わらせたかった。


「多分、わたし以外が触れたら警報が動くからあまり近づかないでね」


 触る前に四人に警告をしてからその電光板に触れる。

 アリスが端末を操作し始めると暇になった四人。


「このままこれやって帰れるのか?」


 ソリッドが地面に足を伸ばして座る。


「ああ、多分な。帰り道が大変なくらいだ」


 この部屋には転移装置は存在せず、帰りはまた監視者たちが蔓延る場所を通り抜けなければならない。


「そっかぁ」

「あたしも休もうかしら」


 アリスの作業が直ぐに終わるようには見えず、ソリッドは仰向けで寛ぎ始めた。

 クオリアも大盾と荷物を下ろし、息を吐いた。


「万が一もあるからあまり気は抜くなよ」

「へーい」


 ボイドの忠告を素直に聞いてソリッドは寝そべるのを辞めて座るに留める。

 特に会話もなく、アリス以外の皆がぼーっと過ごす時間。

 その空間にある音は誰かが身動ぎする音と、アリスが操作する端末から響く電子音のみ。


「多分これで終わりよ」


 しばらく端末を操作していたアリスが振り返った。

 彼女の指が端末に触れた瞬間アナウンスが響く。


『ロック解除命令確認。解除前に設定された敵性生物の確認を行います。』


 五人がそれに反応する前に、端末からレンズのついた棒がしばらく伸びると折れ曲がり、ぐるりと一周する。棒の先に付いている赤いランプによって、彼らの姿が一瞬赤く染まる。


『……敵性生物、黒血種(ブラッディ)を確認。排除行動を実行します。』

「ブ……?」


 ボイドがその単語をメモしようとメモ帳を取り出した瞬間。

 天井が開き、そこからキャタピラの付いた鉄塊が落ちてくる。

 それは着地と同時に落下の勢いを風に変えて五人を吹き飛ばした。


「──戦車っ!」


 尻餅を付いたアリスが叫んだ。名前はしっていたが、どういうものかは具体的に覚えていなかった。しかし、それが平気であることと、生身で相手する者ではないことは直感できた。

 アリスが皆に危険性を伝える前に鉄塊はソリッドの錬金砲を長く伸ばしたような筒状の物をチェシャに向けた。


「避けてっ!!」


 アリスの必死の叫びにチェシャは横に飛び込んだ。

 その行動後の刹那、彼のいた場所を轟音が通り過ぎた。

 そして、彼のいた場所が爆発する。

 辛うじてそれを避けたチェシャもその爆風に吹き飛ばされて地面を転がった。


「──ってー」


 痛みに少し顔を歪めながらもチェシャは立ち上がる。サイズ感は違っても、アリスが持つ銃と雰囲気が似ていたので、何かが飛んでくることは察したものの、爆発するとまでは彼に想像できなかった。


「あれ、受け止めれるかしら?」

「まともには無理に決まっているだろ……とりあえず、あの図体なら近くは狙えんはずだ!近寄れ!」


 ボイドの声に従って、鉄塊の近くに五人が集まる。

 鉄塊は標的を見失ったように砲身をくるくると回している。


「こいつが動いたらやばくねぇか?」


 ソリッドが問うた。


「爆撃よりはマシだ。最悪、クオリアに止めてもらう」

「え、あたし?」


 クオリアがその言葉に怪訝な顔をした。


「他に誰がやるんだ?」

「……確かにそうね」

「それは今はいいでしょ。とにかく、これを止めなきゃ」

「燃やすか?」


 ソリッドが腕を構える。


「中に人がいるならともかく、こんな図体を止めるのはキツくないか?」

「うーん。でも、壊すのは無理だろ?」

「転ばせれば、なんとかなると思う」


 アリスがキャタピラを見ながら言った。

 依然として鉄塊は砲身のついた上半身を回すのみ。


「爆発は……。ダメだな。普通に何かを食い込ませればどうだ?」

「こんな感じ?」


 先程から腰につけたポーチを探っていたチェシャが、番犬の歯だった物をキャタピラに投げ込んだ。


「動かさなきゃダメか」


 入れたとはいえ、キャタピラが動かなければ意味はない。


「俺がアレの前に出る。クオリア、何かあったらお願い」

「中々重いお願いよ? それ」

「出来ないとは言わないでしょ?」

「あったりまえじゃない?」


 信頼されているとあれば、クオリアが断ることはなかった。短い言葉を交わし、チェシャは鉄塊の前に飛び出る。

 標的を探していた鉄塊の砲身はチェシャに狙いを定め、弾を発射する。


「こっわ」


 淡白な口調とは裏腹に慌てて飛び退くチェシャ。

 彼の動きに合わせて鉄塊もキャタピラを動かして彼を追おうとして、動きを止めた。

 それを止めたのは不快な音を出すキャタピラ。しかし、もう片方は回り続けている。


「押し込め!」


 ボイドの声に四人で鉄塊を押して、バランスを崩させる。

 グラグラとし始めた途端、巨体の半分が地を離れる。


「離れろっ!」


 ボイドがそれを見て叫ぶ。

 四人は散り散りにその場を急いで離れた。

 それに少し遅れて鉄塊がゆっくりとその身を倒す。


「もう少し横に長ければ倒れなかったのに」


 アリスがそう呟いた。


「確かにな。……端末はどうなった?」

「見てくる」

「これ、まだ撃つかしら?」


 アリスが小走りで端末に駆けていく。彼女がどうにかするまで鉄塊を見張るクオリアが大盾を構えたままボイドに尋ねた。


「この状態じゃ砲身を回せないから、見張っておけば大丈夫だろう。撃たれても当たらん」


 そう言って、戦車の砲身とは反対側に近づくボイド。彼の目は好奇の色に満ちていて、先程の言葉が半分建前のようなものは長く付き合ってきた二人には明白だった。


「ボイドが一番リスク管理できていないと思うのよね」

「だよなぁ」


 顔を見合わせてクオリアとソリッドは笑い、何かが起きた時に守れるよう、彼を追った。

 その間にアリスは端末にたどり着き、操作を始めた。


「どう?」


 遅れて彼女の側に来たチェシャが進捗を問う。


「多分ロックは解除されてると思う。この辺りのシステム誰が作ったのかしら。穴が多すぎるわ。戦車が破壊されたわけでもないのに」


 もう守る必要は無い場所に防衛手段を発動させる意図を理解できず、アリスは嘆いた。


「分かんないけど、壊れてるんじゃない?」

「かもね」


 返事をしてからアリスは鉄塊の近くにいる三人に声をかける。これ以上ここに長居は無用。さっさと帰って、休みたかった。


「ロックは解除出来てるわ。帰りましょう!」

「少し待ってくれ、こいつを調べたい」

「まだ動くかもしれないのよ?」


 戦闘時よりも素早いのではないかと思うぐらいの勢いであちこち調べ回るボイドにクオリアが呆れ顔で言う。無駄な時間に見えて、いつかクオリアやソリッドの装備に還元するのだから、止めるのももったいない。

 ボイド達が三人で古代遺跡を探索していた時によくやったやり取りだった。


「壊れていないのに放置は勿体無いだろうよ」

「……諦めろよクオリア。いつもこうだろ?」


 やれやれと手を振るソリッド。そんな彼らを見てチェシャとアリスは腹を抱えて笑った。


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