表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第三試練:踊るは大蛇の氷炎
43/221

探索・緑中洞窟

 

 チェシャはアリスが見張っていた甲斐もあり、五日で復活。

 そして、チェシャの槍の素材を集めるために第一試練で新しく発見された迷宮へ向かうことになっていた。


「あら、チェシャさん。今日はどうしましゅ……しましたか?」


 チェシャはアルマの元へと赴いており、それを出迎えたアルマが噛んだのをチェシャは優しくスルーしてアルマの対面に座る。

 そこまで触れられないとそれはそれで羞恥心を煽るものなのか、アルマが赤面したまま硬直した後に話が進む。


「第一試練に新しく出た迷宮に行きたいんだけど、情報見せてもらえる?」

「えーと、緑中洞窟ですね。かしこまりました。少々お待ち下さい」


 まだ顔がやや赤いアルマは早足で資料室へと向かった。チェシャはそんな彼女を笑っていた。


 戻ってくる頃にはもういつも通りの凛とした佇まいでチェシャの前に資料を並べた。

 並べられた資料は地図と出現する迷宮生物のもの。


「見た事ない奴らが多いね」

「そうですね。採掘ができるとは言っても銅や鉄などは鉱山で沢山産出されますから。迷宮内での採取で稼げるものは迷宮内でしかあまり手に入らないものに絞られる以上、ここを探索する方は少ないです」


 迷宮生物の資料は五枚。

 一枚は第一試練によくいる大ネズミ。

 もう一枚は同じくよくいる毒アゲハ。

 残りの三枚はどれも他の迷宮にはいない迷宮生物。


「こいつでかい?」


 チェシャが手に取ったのはポイズンワームと書かれた迷宮生物。緑色の体に紫色の斑点を付けた芋虫のような姿。サイズは絵の中では大ネズミの数倍だった。


「そうですね、絵の通りで大ネズミに対してこのくらいの大きさです。脅威なのは体の大きさより体内で生成される毒です。場合によっては倒しても一時通れない場所が出来ますから注意してください」

「面倒……」

「全体でみれば生息数は少ないようなので、そこまで気にしなくても大丈夫です。どちらかといえば……」


 アルマは別の資料をチェシャの前に持ってくる。それに描かれているのは苔ヤドカリというヤドカリだった。

 名前の通り、殻に苔が生えているだけのヤドカリ。


「これ?」


 色々と場違いなそのヤドカリにチェシャは疑問符を浮かべる。サイズも大ネズミぐらいで抱えるにはちょうど良さそうなので、むしろ可愛げすらあった。とても厄介には見えない。


「はい、気持ちは分かるのですが、意外と厄介で殻に篭られるとほとんどの攻撃が通りません。代わりに動きませんから良いのですが、他の迷宮生物の盾になられると非常に面倒です」

「殻に篭られる前に倒せる?」

「どうでしょう……。幾分情報が少ないので……。でも、敵を見つけるとすぐに殻に篭るらしいです」


 それを聞いてチェシャは笑みを浮かべる。


「そっか。それなら多分大丈夫かも」

「あ、そうですか?」


 アルマは意外そうに目を見開いた。いまだ組合には殻に籠った苔ヤドカリに対して有効な攻撃手段を見つけていないからだ。

 しかし、彼女なりにチェシャには信頼があるのかすぐに話を変えた。


「なら安心です。あとはこちらの迷宮生物なのですが……」


 そう言ってアルマが前に持ってきた資料には何も描かれていない。正確には、情報が記載されている欄には記入はあるが、迷宮生物の姿はない。名前の欄にはアサシンとだけ書かれている。


「これ、気になってたけどどういう事?」

「探索者さん曰く、遭遇はしたけど姿が分からないらしいです」

「え?」

「皆さん、突然攻撃された。噛みつかれた。吹き飛ばされた。と言っていまして、職員も探索に行きましたが同様の話をしていました」

「姿が見えない?」

「みたいです。強いて言えば皆さん奥の方で採掘をしていたみたいです。奥に行かれるのでしたら気をつけてください」

「ん、わかった」


 今回は自分の槍の素材のため、何かを覚えるにしろ、モチベーションがとても高い彼は話を全て真面目に聞き終えた。

 写しを要求するのは変わりないが、事情を知らぬアルマはそんなチェシャに驚いていた。



 *


 数日ぶりでバーアリエルに全員揃った五人。近況の話をした後、久しぶりに転移装置を使わず、正面から神の試練に入り、緑中洞窟に向かいながら、チェシャが緑中洞窟についての資料の写しをみんなに見せる。


「迷宮の場所がそもそも第一試練の端なのか、見つからないわけだ」

「むしろどうやって見つけるのかしら?」

「迷宮の入り口自体は大体分かりやすいだろう? 分かりにくいのも存在はするが、今回のものは分かりやすいタイプだったからだろうな」


 クオリアの疑問をボイドが答える。どちらにせよ、わざわざ何もないと思われている試練の端に行って、迷宮を見つけ出すほどだ。第一発見者は根気強い探索者に違いない。


「このヤドカリやろうは俺の攻撃も効かねぇのか?」

「ほとんどの攻撃は効かないって言ってた。多分無理」

「爆発でも?」


 アリスが追加で聞く。爆発弾を所持しているので、通るのであれば有効打たりえる。


「それは分からない。でも、敵を見てから隠れるから遠くから撃てば良いかも」

「試しても良いが、洞窟だからな、無闇には撃てないから様子を見てから考えよう」


 皆が頷く。

 色々と相談するうちに一行は緑中洞窟にたどり着く。

 ソリッドが魔術ランプで照らした洞窟内は緑中とだけあって洞窟の中でも背の低い雑草が生えていたり、壁面には苔が沢山生えている。


 第一試練なので人もそこそこいるようで、丁度帰路につく人ともすれ違う。


「もう帰るのか?」


 ソリッドが迷宮を出て行った探索者がいた方を見て言う。


「もう、でもない。真昼はとうに過ぎている。地図がある以上最短ルートを通れば採掘だけなら時間はかからないんだろうな」

「ふーん」


 基本的には神の試練を攻略する事を目標にするソリッドにとっては日々を暮らすために迷宮に通う人はあまり理解できないようで、理解はしても納得はしていなかった。


「じめじめしてるわね。鎧の中が蒸し暑いわ」


 手を仰いで鎧の中に空気を送り込もうとするクオリア。彼女の言う通り雑草に隠れてはいるものの、その雑草を踏めば水を踏んだ感触が返ってくる程度には水が張っており、そのせいで洞窟内には水気が満ちている。


「我慢しろとしか言えん。どうしてもキツければ休憩はとる」


 五人が雑草を踏み締めるたび、水の音が鳴り響く。

 五人が通るのは深部へと向かう最短ルート。しかし、ここは第一試練のため浅い部分で採掘をする探索者もちらほらと居て、その度にピッケルなどが岩石を叩く音が響く。


「よっと」


 大ネズミや毒アゲハがたまに見かけるが、チェシャとアリスがすぐに仕留めるので五人の障害にはなり得ない。

 この状況から進展があったのは大ネズミと毒アゲハ以外の迷宮生物が現れたときだった。


「芋虫いたよ」


 曲がり角から顔を出して先を確認したチェシャが四人に伝える。


「できれば正面からは避けたいな……ソリッド、氷冷瓶を使え」

「あれ、味気ないぞ」


 嫌そうな顔をするソリッド。地味なのはやはり嫌いだった。


「そう言う問題ではないだろう?」

「へいへい」


 渋々と言うように角が錬金砲だけを出してバレないように射出。冷気の玉はポイズンワームに命中。

 辺りに低温の液体を撒き散らし、ポイズンワームの動きを鈍らせ、次第に力を失くして地に横たわる。


「行ってくる」


 それを確認したチェシャが接近してポイズンワームに槍を突き刺す。

 痛覚などが無くなっている訳でもないためもがき続けるポイズンワーム。

 しかし、力は入らないようで抵抗もできぬまま地面に体を横たえて霧散した。


 槍を抜き、その際に出た血を浴びぬようにしながらチェシャは四人の元へ戻ってくる。


「毒さえ吐かれなければ楽だね」

「一体当たりの出費としては馬鹿に出来んがな。出来れば倒す方法は他にも欲しい」


 ボイドはため息をついた。


「わたしが遠くから撃てばいけるかな?」

「それも含めて次試すとしよう」


 奥へとまた足を進めた五人が次に出会ったのは苔の生えたヤドカリ。

 殻に隠れず、雑草が茂っている場所で佇んでいる。


「あっ、ヤドカリ」

「アリスちゃん、あれ当てられる?」

「多分」


 遠くから狙いを定めたアリスは引き金を引くが、銃声音に気づいたのか素早く殻に篭るヤドカリ。銃弾は弾かれて地に落ちる。

 その様子を見たアリスの口は小さく開いたままになっている。


「今のが無理となるとアリス君では厳しいな。特に害は無いはずだから近づこう。クオリアもしもの時は頼む」

「はいよ。ソリッド、炎構えておいてね」

「ん? 火ぃつかうのか?」

「一応よ、錬金砲に入れなくても良いわ」

「分かった」


 ボイドから火炎瓶を受け取って手に持つソリッド。


 五人はクオリアを先頭にヤドカリの下に近づく。ヤドカリは殻に篭ったまま動かない。


「どうするの?」


 チェシャが槍の先で少し触って反応が無いことを目にしてから振り返る。


「叩く?」


 アリスが金槌を振る真似をする。

 少し前にチェシャと宝石の話をしていたことに引っ張られている。


「叩くものがな……採掘用のハンマーならあるが」

「それ貸して」


 チェシャがボイドからハンマーを受け取ってヤドカリの苔の生えた殻に向かって振り下ろす。


 全体的にバランスよく鍛えられている筋肉質な体から振り下ろされたハンマーはかなりの速度を伴って殻へとぶつかるが、それは弾かれた。当然勢いよく振るったチェシャはその反動で尻餅をつく。


「これは硬いわね」


 クオリアは苦笑し、チェシャを助け起こす。


「ありがと、これ、無理じゃない?」


 チェシャがハンマーをボイドに返す。

 ハンマーの方にヒビが入ってしまっている。


「安物だからか? ……だとしても硬すぎだな。──仕方ない。ソリッド、弱火で燃やせ」


 少々の葛藤の後、ボイドはソリッドに言う。


「いいのか? てか、弱火?」

「それの火力はお前の魔力の出力の関係上、どれだけ錬金砲に燃料を入れたかで変わる。つまり、少なめで撃て」

「始めからそう言えよなっ!」


 いつでも撃てますと言わんばかりに準備していたソリッドは瓶の中身を半分そそぎ、直ぐに錬金砲から炎を吐き出させる。

 弱火というだけあって放射ではなく、調理のために炙る程度の炎。

 しかし、篭っている状態で炙られては流石のヤドカリも敵わないのか、殻から身を出した。


 そんな無防備なヤドカリが許されるはずもなく、チェシャが槍をその身に貫かせた。ヤドカリは程なくして霧散する。


「火は効くんだ」

「密室だからな、洞窟だからこれ以上時間も火力も上げれないが、この程度ならまあ大丈夫だろう」


 ボイドは苔ヤドカリの写しにメモを書き込む。

 すでに地図の方にも彼なりの書き入れが詰まっていて、彼以外からすればやや見にくいほどになっていた。


「鋼玉は何処で取れるの?」


 出番のなかったアリスは暇そうにボイドの地図を覗き込む。

 そして、文字でびっしりと埋まったそれに少し引きながら問う。


「もう少しだな。そろそろ鉱脈ある場所に着くはずだ」

「芋虫、いるよ」


 先の方を偵察していたチェシャが警告する。


「氷冷瓶はいるか?」

「……無しで、クオリア、一瞬だけ注意を引いて。アリスはフォローお願い」


「まかせなさい!」

「分かった」


 クオリアが道の先にいるポイズンワームに大盾を露わにしながらやや左側から近寄る。


 それに気づいたポイズンワームは何かを吐き出そうと顔を上に向ける。


 姿勢を低くして、クオリアの影に隠れていたチェシャは素早く飛び出す。

 彼が槍を突き出したのはポイズンワームの喉部分。


 ポイズンワームが今にも吐き出さんと顔を向けた瞬間にチェシャの槍はポイズンワームの喉に命中。柔らかい虫の体躯に気持ちの悪い音が槍を伝う。


 吐き出そうとしたものを吐き出せず、しばらく苦しそうにもがくポイズンワーム。しかしチェシャは何もせず喉元に槍を突き刺したままである。


 追撃をしたのはアリス。

 毒を吐き出すために体が持ち上げられている。お陰で晒されている腹に何発も銃弾を撃ち込む。


 それが命中するたびに薄紫の血が飛び出し、ポイズンワームからは声にならぬ声が響く。逃れようと暴れだすが、チェシャがそれを許さない。

 ボロボロになったポイズンワームは力なく地に倒れて霧散した。


「狭い場所はやりにくいなぁ」


 チェシャがぼやく。


「通路の半分もあるものね。さっきの状況、あたしにも何か手伝えるかしら?」

「抑えるのが疲れるからそれを手伝って欲しい」

「分かったわ。次からそうする」


 チェシャとクオリアは三人がこちらに来るのを待つ。

 待っている間にうんと伸びをしたクオリアの視界が蠢く何かを捉えた。

 暗闇の中で鋭利な爪がきらめく。


「チェシャくんっ!」


 唐突にクオリアがチェシャを突き飛ばす。チェシャは事態を理解できぬまま腑抜けた顔で尻餅をつく。

 どうしたんだと尋ねる頃にはチェシャもその蠢く何かを見つけた。すぐに彼が槍を持って立ち上がるも、次の瞬間には大盾をあらぬ方向に構えていたクオリアから鮮血が吹き出し、宙を舞った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ