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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第三試練:踊るは大蛇の氷炎
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お駄賃

 

 五人は凍結地底湖での探索を繰り返し、組合でもらった地図の東側、未踏破息をほぼ全域を埋めることができた。

 かかった日数はおおよそ炎熱の月のピークに差し掛かるころ。


 次の小迷宮に行くかどうかの相談も兼ねて朝ではなく昼集合で探索は休みとなった日のことだった。

 ボイド達よりも一足先にバー・アリエルに着いたチェシャとアリスはいつもの席で果実のジュースを飲みながら話をしている。


「──だったの!チェシャも読んでみて!」


 アリスが力説していたのはとある本の話だった。その話の内容はよくある王道な話のようだ。


「へぇ、アリスって勇者みたいなのが好きなの?」


 アリスが力説していたのは勇者達が魔王を倒しに行く場面という物語全体において佳境にあたる部分。


「うん!カッコよくない?あっでも、お姫様も良いなぁ」


 上の空で顔を緩ませるアリス。


「クオリアが仕えてたって言うお姫様の話は聞いたの?」

「聞いたよ。すごく良い人なんだって!お姫様になって勇者様に助けてもらう…。ベタだけど憧れるの」

「ふーん」


 雑に相槌を打ったチェシャは果実のジュースが入ったコップを口につける。が、すぐに机に戻す。

 中身は空だった。





 *


「元気かい?若人さん達っ!」


 陽気なテンションで入ってきたのはクオリア。いつもの鎧姿ではなくラフな服装。後ろ二人も同様……かと思えば、ボイドは白衣のままだった。


「ボイド、それ洗ってるの?」

「勿論だ。心配するのは分かるが同じものを5着持っているから気にするな」

「どうして白衣…?」

「カッコいいからということにしておこう」


 ボイドは答えなのかそうでないのか分からない返しをすると、三人の飲み物の注文をサイモンに向かって叫んで席につく。


「とりあえず、そろそろ次の小迷宮に行こうと思っているが希望はあるか?」


 ボイドは皆を見回して確認する。


「どういう迷宮があるんだ?」

「今の所は二つだ。狩人の森と氷中洞窟。第一試練のようにまだ見つかっていない小迷宮がある可能性もあるがそれは置いておこう」

「地図の写しは貰ってきたよ。ついでにこれも」


 チェシャが狩人の森と氷中洞窟の地図を取り出し、財布から金色の硬貨を15枚取り出した。


「こっちは情報量のやつだって、採取地点二つと地図埋めで十五万ゼル」

「すげぇ! ついででこんなに貰えるんだな!」


 興奮するソリッド。一度にこれだけの金額を手にした記憶はなかった。


「十万ゼル白金貨に変えられる程か……本来の利益と別に貰える量にしてはやはり破格だな」

「五人で分ければ一人三万ゼルね」


 クオリアが十五枚のそれを三枚の組に分けて配る。


「多くない? ってアルマに聞いたらその情報だけでどれだけの利益が出せるか云々ってうるさかった。あと装備を整えるためにも必要云々って」

「確かにそれも一理ある。一度これはプールするか?」

「プール?」


 アリスがおうむ返しをして首を傾げる。


「パーティの共有資金として必要な時に使うのさ。恐らく私が預かることになるから信用が無ければ別に拒否してもらっても構わんよ」

「難しいことは分からないし、お金は十分貰ってるからそれで良いよ」


 即答するチェシャ。アリスも同意を示すように頷く。

 それをみたボイドがクオリアとソリッドの方も見る。彼らも同じように頷く。

 即答できる程度には彼らはボイドに信頼を寄せている。


「もう少し考えて欲しいが……。ありがとう、有効に使うよ。使ったらその都度連絡する」


 困惑すれど、信頼されていることを素直に喜んだボイドが口端を少し上げて微笑んだ。

 話は戻り、どちらの迷宮を探索するかの話に。


「狩人の森は少し特殊。……だよな?」


 ボイドはチェシャに確認をとる。頷いた彼がもう一枚の迷宮の地図、氷中洞窟の地図を取り出す。


「ん。狩人の森は迷宮生物が実質一種類だけど、そいつが神の悪意らしいから普通に危険だって」

「で、こっちの……氷中洞窟は出てくる迷宮生物が凍結地底湖のスライドタートル以外は同じで、そこになんか変なのが加わった感じ。多分こっちの方がいつも通りっぽい」


 机の中心に並べた三枚の迷宮生物の絵。

 アイスゲルとパラライザー。そしてダルマのような見た目に大きな口のついた迷宮生物、氷喰い。


「この氷喰い?も気になるけど、このアイスゲルってのもあった事ねぇぞ?」


 ソリッドがアイスゲルの絵を指差しながら言う。


「僕らが使ってたルートはあんまり出ないんだって。逆にこいつが出るルートは亀が出ないらしいよ」

「ふーん、こいつなら燃えそうだから楽そうだな」


 高速で動く亀ではソリッドの錬金砲はあまり機能しなかったため消化不良になっていたソリッド。


「それより、この氷喰いはどういうものなの?」


 金貨を使って遊び出したクオリアが問う。その手並は鮮やかだったが、宙を舞うのは何日かは贅沢に暮らせるお金である。


「そいつは氷を食うらしい。名前の通りにな。それを繰り返して強くなる…つまり出会う個体によって強さにばらつきがある」


 そこまで話した時、テーブルにトレイが置かれる。


「おまちどうさん。ご注文の品だぜ。……ん? 氷中洞窟か?」


 ちらりと地図に目をやったサイモンは確認するように問いかける。


「ああ、何か?」

「ん?いや確かそこなら丁度良いのが──」


 徐に歩き出して掲示板の前に立ち、一つの依頼書を持ってくる。

 そこに書かれていたのは氷を持ってきて欲しいという依頼。


「氷ぐらいここで頼まなくとも何処かで買えば良い話じゃないか?」


 ボイドの疑問に対してサイモンは無言で報酬が書かれている欄を示すことによって答える。


「千ゼル……。ここで氷を探す探索者を雇うなら圧倒的に足らん金額だな」


 ボイドをその報酬の額を見てから返す。彼ら五人が一日に使う費用がおおよそ数万ゼル。第三試練の探索者の中でも高額だ。主な理由として、アリスやソリッドの攻撃が消耗品を使っていることが挙げられる。


「流石に千ゼルは安くねぇか?」


 ソリッドもそれに便乗する。

 他の三人も同意見のようだった。


「元よりここの掲示板はギブアンドテイクってよりかは善意で成り立ってるモンだからなぁ。俺が言いてぇのはここに行くならついでに取ってきてくれねぇかって話だ」

「ふうむ」


 ボイドはもう一度依頼書に目を通す。

 依頼書を要約すれば、母親が熱になったから氷が欲しいとの事だった。母親ということは依頼人がその子供であることは一目瞭然で、そのことを考えればこの千ゼルの理由も推測がつく。


「ならこの千ゼルは依頼人の小遣いが何かか?」

「そういうこった。まあ、やらなくても全然構わねぇ。酷い熱じゃないとはその母親を見た薬師から聞いてる。まあ子供が見ただけのことを話しているだけだし、信用があるかどうかは別だかな」


 断れれても仕方ないとサイモンは口で言いつつも、ちらちらとボイドに意味ありげな視線を送って来る。こう言えばボイドが断らないとサイモンは知っていた。


「言い方が狡くないか?」

「気のせいだろ」


 ボイドは皆を見る。母親のために何とかしようと財布を逆さにして集めに集めた金額で出した依頼。不覚にもボイドはこれを断りたくなかった。ボイドが悩むうちにいつの間にか寄せられた眉を見かねて、チェシャが口を開く。


「目的が無いよりかはいいんじゃないの?」


 チェシャの言い分。アリスもそれに頷く。


「そうね。どっちでも良いくらいならこっちに行けばお駄賃も貰えるって事でしょう?」

「一石二鳥ってやつだなっ」

「二鳥も取れてない気はするが…まあいい、乗せられてやる。氷は氷嚢に入れて持ってくれば良いのか?」


 諦めた風にサイモンを見やるボイド。そして、降参だと片手を挙げた。


「お、受けてくれるのか。氷嚢はこいつで良いか?」


 まるで準備していたかのように、嬉々としてサイモンがカウンター裏から出したのは一般的なものよりも大きいサイズの氷嚢。そのサイズに一杯の氷を詰め込めば、どう考えても必要量以上に入りそうだ。

 中の氷が簡単に溶けないように特殊な素材で作られているそれだけで数万ゼルの値が張る。

 それがあっさりと出される。思わずボイドが抗議の視線サイモンに送った。


「おい」

「受けるんだろう?」


 ボイドがもう一度皆を見る。

 四人の反応は一様だったが反対はなかった。


「……分かったよ」


 彼は手をひらひらと振って遂に折れた。


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