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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第二試練:駆けるは神馬の多脚
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探索・グングニル第二層

 探索途中、計二体の機械人形と遭遇した。

 こちらに気づかないところから燃やし、オーバーヒートさせる事で苦なく探索は進んでいる。


「あいつ、変じゃない?」


 先行するチェシャが突然戻ってきて行く先を指さした。

 そこにはより重装備な機械人形が徘徊している。両手が鉄球なのは変わらないが、腕が四本になっている。


「とはいえ、規則的に動くのは変わらんようだ。ソリッド、焼いてしまえ」

「へいへい」


 作業をこなすようにソリッドが火炎を放つ。

 しかし、機械人形は炎を察知してその場を俊敏に飛び退く。

 炎を避けた機械人形がぎろりと顔をソリッド向けると、彼めがけて走ってくる。


「はぁ!?」

「重いのに動けるのね。わたしの攻撃は効かなそうだけど、どうする?」

「とりあえず、散開だ! クオリア、注意を!」


 ボイドの声を皮切りに広がる五人。機械人形は他四人に目もくれず、ソリッドを執拗に追い回す。彼の運動能力は高くない。機械人形から逃げるのさえも危うい。


「くっそ、しつけぇよこいつ!」


 鉄球を振り回しながら機敏に追いかける機械人形。もう振り回される鉄球の間合いにソリッドが入りかけていた。


「こっち向かないわ!」


 注意を引くためにクオリアが横から盾を打ち付けたりするが、一切の反応を示さない機械人形はソリッドのみを追いかける。異常な執着心だ。


「はっ!」


 チェシャが鉤爪ロープを機械人形に巻きつける。


 拘束されて動きを止めた機械人形だったが、ソリッドへの追跡は止まらない。


 あまりのパワーにチェシャが引っ張られそうになるも、彼が耐えられなくなる前にロープが引きちぎられた。

 残された慣性で転んだチェシャが唖然とする。


「つっよ」

「……止まれ!」


 ボイドが黒い球体を作り出して放つ。

 宙を漂い、四散。


 魔術は機械人形に効果が薄く、動きを鈍らせるのみだった。


「仕方ない、アイス君! あれを使ってくれ!」

「良いの?」

「命には変えれん!」

「分かった!」


 アイスが銃の残弾を吐き出して、いつもの弾とは違うものを込める。


「とっておきっ!」


 吐き出された弾は機械人形の胴体に命中して、


 爆ぜた。


 その様子はソリッドの放つ物と似た現象。


 彼の連鎖爆発とは違い、一度のみの小規模な爆破。

 しかし、さすがに爆発をまともに受けて何ともない事はない。胴体を少し抉り、爆風でバランスを崩して転倒した。


「ソリッド!」

「言われなくてもっ!」


 その隙にソリッドが火炎放射を放つ。 

 彼の息はずいぶんと上がっているが威力には遜色ない。

 一般の機械人形よりも時間をかけて体を赤く染め上げ、オーバーヒートを起こした機械人形。

 やがて駆動音が止まると、もう動かなくなった。


「はぁ。出費が痛いなこれは」


 危機を退けるために消費した金額は安くない。

 ボイドが内心頭を抱えながら停止した機械人形を調べる。


「アイス、今のは?」

「さっきの? ボイドから貰ったの。ソリッドの爆発するやつの、れんかばん? だって」

「さっすがアイスちゃん!」


 後ろから抱きつき、アイスの顔を自身の胸に埋めるクオリア。

 テンションの高いように見えるクオリアだが、俯いて隠された顔は果たせなかった責任に歪んでいた。


「んんっ! 重い……、痛い……」

「女性に向かって重いは禁句よ!」

「アイスが言ってるのは鎧じゃないの?」

「分かってるわよ、外すわけにもいかないから仕方ないじゃない」

「だってさ。ソリッド」


 チェシャに便乗してクオリアもソリッドを見つめる。


「そこオレ!?」

「なんとなく」

「なんとなくかよ……クオリアー。さすがに離れてやれよ、顔色悪くなってるぞ」


 血が回らないことでアイスの顔は青くなっている。指摘されてクオリアは慌ててパッと手を離した。解放されたアイスは肩で息をしていた。


「あらほんと!? ごめんねアイスちゃん」

「……死ぬかと思った」


 アイスはチェシャを盾にクオリアから隠れる。さすがに笑って流せることではなかったらしい。ここぞとばかりに口端をいじらしく吊り上げたソリッドがクオリアの頬をつついた。


「やーい、嫌われてやんのー」


 クオリアはソリッドに無言で近づき、ガントレットをはめている手でソリッドの頬を締めた。

 ソリッドがどうなったかはさておき、言語にならない悲鳴が響いたことは確かである。



 *


 重装備な機械人形を倒した奥の部屋には今までとは違う生活感のある部屋があった。

 年月が過ぎているのでどの家具もボロボロだが、放置されているであろう年月に対して埃は少ない。


「誰が住んでいたのか?」


 ベット、テーブル、タンス、その他もろもろ。一晩過ごすなら簡単な程度には揃っていた。


 ベッドの布団が誰かが起き上がった後のようにめくられているのも生活感がある一つだ。


「でも、何もないね」


 しかし、その他で怪しいものもなく、弄れそうな端末もなかった。探せそうな場所は多いので手分けして部屋の中を漁り始める。



「おーい、なんか本あるぞ」


 頬を物理的に赤くされたソリッドがボロボロの本を掲げる。


「見せてみろ……」


 ボイドはページをパラパラとめくってその中身を見る。

 そこに書かれている言語はチェシャたちが普段使うものではないため、四人には読めなかった。


 だが、少なくともそれは手書きであることはわかる。

 ページごとで左上に記されている文字は日付にも見て取れ、誰かの手記と推察できるものだった。


 それを読み込んでいたボイドがしばらくして顔を上げる。


「これは持ち帰ってゆっくり読みたい。恐らくかなりの情報量だ。これだけでもかなり進む、一度帰還しよう」

「内容は教えてくれないのか?」


 ボイドが読み終わるのを焦ったそうに待っていたソリッドが不満を述べる。


「ざっと見た感じなら、恐らく……。アイス君の手記ではないかと思う」

「えっ!?」


 アイスが身を乗り出してボイドが開いているそれを覗き込む。

 自分で書いたものだ。少なからず記憶を刺激するものかと思われたが──


「でも、読めない」

「記憶喪失ならな、仕方ない。後で内容は教えるが、あまりプライバシーに関わるものは深くは読まないことは約束しよう」


 読むことすら叶わない。

 自分のプライベートが書かれているものを読まれるのは気が進まない。

 しかし、真摯に語るボイドを見たアイスはしばらく悩んだ後に頷いた。


 *


 セントラルに帰ってきた時点で既に暗かったため、また明日いつもの所に集合とだけ決めて解散した。


「そんなに気になるの?」


 時刻は朝、二人がパンをかじっている頃。チェシャは浮かない顔をするアイスを見て声をかける。


「だって」


 “言わなくてもわかるでしょう?”とそんな雰囲気と仕草を返す。


「分からなくもない、でも日記とか書いた事ないし」

「そもそも書いたことすら覚えてないのに、人に見られるのは流石に嫌よ。記憶のためじゃなかったら絶対に拒否したわ!」


 アイスが怒りをパンにぶつけるように力強く咀嚼する。

 しかしその姿は非常に可愛らしいものにしか見えず、チェシャも何とも動じない。むしろ微笑ましく、僅かに口角を上げた。


 苛立ったのか彼女はチェシャの皿からパンを一つ奪い取る。


「あっ」

「……ごめん」


 悲しそうな声と顔。ただの八つ当たりなことに気付いたか、冷静になっただけかはともかく、アイスは怒りの顔を取り下げてパンを返した。


「とりあえずさ、先にアイスが内容を聞きなよ。俺らは聞かないようにしとくから」


 少し的外れではあるものの気遣うチェシャ。パンを返された皿はしれっとアイスから距離を置かれている。

 警戒されていることにアイスが苦笑。のちに頷く。


「……ん。ありがと」


 それがアイスの望む物では無いにしても気遣いには礼を返した。

 けれど、彼女が少し落ち込んでいるのは変わらない。


 チェシャは椅子を引いて立ち上がり台所の棚を開けた。取り出したのは彼女が好きな甘味──苺のジャム瓶。


「……ジャム買ってあるけど、要る?」

「要る!」


 少女は単純だった。



 *

「いらっしゃい!」


 チェシャがドアを開ける。

 鳴子らしきものがそれを店主に伝え、その音の返しは店主、もといサイモンの声だった。


「おっと君らか、あいつらは奥のテーブルにいるぞ」

「ありがと」


 皿を洗いながら少し泡の残る手でボイド達がいる席を示してくれた。

 チェシャは会釈と共に礼を返してテーブルへと歩いていく。


 遅れてチェシャの後ろから現れたアイスはサイモンにペコリと一礼して後を追った。


「おはよう」

「おはよっ」


 二人はボイド達に声をかける。


「ああ、おはよう。席についてくれ、早速だが昨日の話をしたい」


 クオリアとソリッドもそれぞれ反応を返してくれる。

 チェシャとアイスはそれぞれとなりの空いているテーブルから椅子を確保して一つのテーブルに集めて座る。


「さて、アイス君、これが昨日の手記の大まかな概要だ。話して欲しく無いところだけ線を引いてくれるか?」


 ボイドから羽ペンと千切られたメモ帳を何枚か渡される。


「一応、プライベートにかなり寄っていたものは事前に避けてある。それらはこっちのページだ」

「……」


 熟読するアイス。

 文字列を追って、目を横へ横へと動かす彼女は途中で双眸を大きく開いた。


 やがて、羽ペンを手に取り、一回だけ横に手を水平移動させてからボイドにそれらを返した。


「ふむ、そこか。了解した」


 一つ頷くと羽ペンに蓋をして、鞄にしまってから語り始めた。


「基本的にはあれは日記だった。とはいえ、重要な情報も転がっていたな。まず一つがグングニル、あれは色々噂されているが恐らく何らかの目的を持って作られた施設だな」

「その目的っつーのは分からねぇのか?」

「ああ、この手記の持ち主、恐らくアイス君の事だと思うが、彼女も施設で運送作業を手伝っていたらしい。転移装置を動かせる人は限られていたようだ」


 はいっ、と声を上げてクオリアが手を上げる。ボイドが無言で視線を向けて、質問の了承を示した。


「でも、どうしてアイスちゃんって分かるの?」

「それに関しては最後の方の記述にあった。アイス君の時代の人達は人体を保存するものがあったらしくてな。恐らくアイス君とチェシャ君が会った場所のことだろう。アレに入る記述があった」

「へぇ」


 興味深そうに聞き入るチェシャ。

 アイスがキビキビと作業をこなす姿が彼には浮かばない。以前の彼女の性格も違うのだろうか。


「他は断片的なものにはなるが、私達に関係があるのはソリッドが使っている武器、錬金砲ということ。アイス君が使っているのは銃、と呼ばれている。…まあそんなところだ」

「練金砲……」


 ソリッドが手から外しているそれを撫でる。


「これでいまいち使い方が分からなかった遺物や設計図が読めるかも知れん、だが良くも悪くも分かったのはそれだけだな」


 そう言って話を締めくくり、アイスに軽く目配せをする。

 彼女は頷きを返した。


「じゃあまた試練を進まないと情報は得れない?」

「そうだな、一層で聞いた声の主が言っていたことも気になるがどちらにせよまだ情報が足りん。気に食わないが進むしか無い」

「んっ、んっ、んん。今日はどうするの?」


 コップに入っていた水を飲み干したクオリアが尋ねる。

 司会、リーダーとして話を進めるボイドとは違い、話の流れを外から整えていた。


「流石に情報がないまま第二試練に行きたくは無いからな。チェシャ君、聞いてきてもらえるか?」

「わかった、その後、少しだけでも潜る?」

「ああ、第二試練の雰囲気だけでも見ておこう」


 話は纏まり、探索前にチェシャが組合へ赴くこととなった。




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