閑話・珍素材ハンターコンビ
一章で出しきれなかった一部の裏設定をそれとなく交えた閑話です。興味がない場合は飛ばしていただいても大きな支障はありません。
「感電死で落とす……と」
「ねぇ、それいつまでやるの?」
第一試練、小鹿の水飲み場。
そこにいるある男性と女性の二人の探索者。
男性はいかにも剣士と言わんばかりのロングソードに皮鎧のスタンダードなスタイルの装備、かたや女性はいかにも魔術師と言わんばかりのオーソドックスなローブを着ていた。
男性は女性が雷撃の魔術で仕留めた毒アゲハが落とした複眼の絵をメモ帳に描いている。
元は研究者だったのだろうか、綺麗ではなくとも特徴捉えたデッサンだった。
「……今終わったよ」
立ち上がる剣士の男性。
「こんな事するより組合でパーティ組んでもらった方が良くない?」
「いいや、この迷宮を作ったやつはたぶん意図的に……ほら。これみたいに特殊な条件下でこんなことが起きるようにしているのさ、まさしく珍素材だ。高く売れるぞぉ」
「はぁ。前の大ネズミの毒牙もそうだけど本当に何に使うのよ、こんなの、買い取る方も買い取る方もだわ」
対照的な二人のやる気。
「後はホーンラビットだったな、俺の感はあの角が怪しいと踏んでいる! 後はどうやるかだ」
「付いてくる人、間違えたかしら……」
苦言に耳を傾けない男性に女性は頭を押さえてため息を吐いた。
*
「焼死、凍結死、感電死は無しと」
「私、今一番無駄な魔術の使い方していないかしら…これでも学院で好成績……って、あんた聞いてる?」
「次は毒殺だ!」
「ダメだわこれ」
剣士の男性は次なるターゲット、単独行動するホーンラビットを見つけ、小さい丸盾で背後から頭に打撃を与えて昏倒させ、毒アゲハの鱗粉を振りかける。
「口、抑えとけよ!」
鱗粉を吸わないように布で口を覆う剣士の男性。
「分かってるわよ……」
魔術師の女性は言われるがままに布を取り出して口を覆った。
しばらくして目を覚ましたホーンラビットは今度は毒で苦しみだしてから力尽き、霧散した。
「毒殺は無しと、んー、後は何がある?」
「本当にその思考もっと違うことに割きなさいよ」
「角が関係しているのは分かっている……よし、折ろう!」
「話聞きなさいよぉ!」
次なる被害者こと第二ホーンラビット。
またしても丸盾で昏倒させられ、今度は金槌を角に振り下ろし無理やり角を折られる。もはや哀れみすら抱きかねなかった。
当然ホーンラビットも……目を覚ますどころか霧散した。
「角は手に入ったけど、これなのか…?」
何か言いたそうに口を動かす魔術師の女性。しかし、声を発することは無かった。
「時は金なり! とりあえず次だぁぁ!」
「……」
もう口すら動くことは無かった。
「お、いた。二匹か……眠らすやつ頼んでもいい?」
茂みに隠れる二人。その先は二匹のホーンラビット。
「便利グッズ扱いかしら? ──できるけどどうするの?」
「当然角を折るのさ!」
「ホーンラビットが可哀想になってきたわ」
「何か言ったかい?」
「何も!」
そんな馬鹿らしい会話をしている合間に女性は印を書き上げ、そこから生まれるのは青い螺旋状の光。それはホーンラビットに触れて消える。
そして、ホーンラビットを眠りへと誘った。
「さっすがぁ。さて、もう一度試しますかっ」
「探索に来ているのに学院で実験をしている気分ね……」
意気揚々と、しかしひっそりとホーンラビットに忍び寄った男性は金槌で二匹の角を思い切り叩く。
一匹は角が折れ、二匹目は角が砕け散った。
両方ともそのまま霧散して、辺りには角と角の残骸らしき粉末が残った。
「粉? んー、これ使えるかな?」
「知らないわよそんなの。前に売りに行った怪しいおばちゃんに聞けば良いんじゃない?」
「よし、そうしよう! 帰る!」
即断即決、男性は早歩きで出口へのルートを進み出す。
「え!? ちょ、待ちなさいよぉー!」
それを慌てて女性は追いかけて行った。
*
「ばあちゃん、これどう?」
「おやおや変なのを売りつけてくる坊やじゃないか、今度は何さね」
男性は怪しげな店の老女に手に入れた珍素材を見せる。
「毒アゲハの複眼、ホーンラビットの角、それにこれは?」
「ホーンラビットの骨の粉末? かな」
「にしても綺麗に粉末ね、もっと欠片が残るはずなのに」
加工をいくつも挟んだくらいに思えるさらさらな粉を老女は虫眼鏡を使ったり、手に取ってみたりと興味深そうに調べる。
「とりあえず、複眼とこの粉は預かりで良いかい?値段がつけられん。角は5000ゼルでどうだい?」
「二匹で5000も…」
「嬢ちゃん、こいつの入手はなかなかに面倒なのさ。それに用途も有るからね」
「そ、そう」
眠らせて安全に手に入れたそれが時間をかけて採取する植物類よりも高値になることに女性は複雑な顔をする。
「そいじゃ、用途が見つかったら相応のお金を用意するさね、またおいで」
「はーい」
「失礼します!」
二人の性格が如実に現れる光景の後、二人は外に出た。
「稼げるし、楽しい! こんな良い仕事は中々無いね!」
「……一歩間違えば命が無くなるけどね」
「だからお供を連れてきたんだよ」
「私お供!? 仲間じゃないの?」
「あ、そうそう仲間」
「学院に帰って良いかしら?」
ため息をついて背中を向ける女性。
「でも取り分美味しいでしょ?」
「……それはね、そういえばどうして7:3なの? 半分で良いのに」
「そりゃあ、わざわざ引っ張り出して来たんだからそれ相応の見返りは必要でしょ?」
大真面目に、当たり前と言わんばかりの口調だった。
「なんでそういうとこだけ真面目なのよ…」
女性は呆れる。そして、彼のよく分からない真面目さと危なっかしさに何度も付き合わされたからこその深いため息をついた。
「心外な、俺はいつでも真面目に生きてるさ」
快活な笑顔で真剣に返す男性。
「はいはい、そうですね」
女性は応答を諦める。同時にこいつは放っておけないと静かにしばらくの同行を決意したのだった。