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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第六試練:振るうは贋作の黒槍
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閑話・契約者

お待たせしました。予定より少し早いですが七章の掲載を始めます。

 薄汚れた大広間。扉から玉座にまで伸びた赤い絨毯はどこもかしこも薄汚れていて、とてもきれいには見えない。天井に吊るされているシャンデリアだったものも同様だ。真下には残骸が散らばっている。柱は砕けていて、辛うじて立っているのみ。

 まるで廃墟のようだった。

 そんな場所で薄汚れた玉座に腰かけている小柄な白衣の男がひじ掛けに頬杖をついていた。


『マスター・クロウに連絡します。現在、アリス嬢一行が人造龍リヴァイアサンを撃破し、第五試練を突破しました。大迷宮・蒼の回廊を一度の突入でガーディアン撃破まで行ったため、各自、死亡には至らなかったものの、相応の重軽傷を負って現在入院中です。第六試練突入までは約一ヶ月弱を要すると思われます』

「そうか……。黒騎士(odin)は?」


 黒騎士(odin)。チェシャの機能(mode)変化(change)先。それを具体的に、そして、その名称をチェシャの口から聞いているのはアリスだけのはずだった。


『順調に黒血の獣(ブラッドビースト)へ変化中です。既に第三フェーズに移行し、偽黒騎士(デミ・オーディン)計画は実行可能です』

「順調だな。しかし、彼ら以外の探索者は第四試練の攻略中。やはり千年では人間の発展は間に合わないか」

『一概にそうとは言えないと思われます。海都オルディンでの俗称、神の修練場の難易度設定はこちらよりはるかに上であるものの、攻略速度自体は想定の二倍で進行しています。あちらは余裕で間に合うと思われます』

「ほう……? その差はやはりシステムのせいか?」


 頬杖をついていた腕を外して、両腕を組む。そして体を玉座に預けた。


『そうだと推測しています』

「ふむ、所詮潜在能力を拡張しようと能力が育つのが遅いのではやはり攻略は遅くなるか。せめてこの施設が早く発見されていれば問題なかっただろうに」

『それについてはザッカリア含めマスター達の妙なこだわりをしなければ──』

「いいや、それはない。隠すことは必要だったんだ。あの悪魔連中のせいでな。全く、自分たちの世界でやりあうなら勝手にすればいいが、それをこちらに持ってきたのはいつまでたっても許せんな」

「それは聞き捨てならない。契約者よ」


 凛と響いた幼さの残る女性の声が窓から場内に響く。しかし、窓の外には蒼空しか見えない。

 顔を歪めて愚痴を吐く男がため息を吐いた。


「何がおかしい?」

「この世は弱肉強食。弱き者が道理を述べたところで、強き者の力は止まらない」

「知っているさ。だから、君たちと契約したんだろう? ──そもそも。僕からすれば、君たちも立派な敵だ。手伝ってやっているのはあくまで利害の一致。その範疇を超えることに協力するつもりはない」

「承知している。我が欲しているのはこの試練を乗り越えて新たな才能の目を咲かす者だ。それが現れるまで貴殿の計画に付き合う。それが作り物だとしてもな。──間違ってはいまい」

「納得は出来ないがな」


 玉座の後ろでポコポコと泡音を立てるカプセルを見上げた男は静かに肩を落とした。

 カプセルの中の異形は変身したチェシャそっくり、寧ろそれ以上に異形で埋め尽くされた人型だった。背丈こそ彼と変わらないものの、手足の原型が人のそれを留まっていない。

 腕は右手首から先が槍に変わり、左手首から先は盾へと変わっていた。

 足は指先が鋭利かつ巨大な爪へと成り代わり、その足だけで何かを使めそうなほど外周が大きくなっている。

 その他も単に黒くとがったもので全身が覆われていた状態から両肩に触手のような黒い何かが生えている。兜も顔の表面部分が逆に鼻の尖った部分、目元のへこみ、顎にきっちり沿わせた膨らみ、人の顔のパーツらしきものを形作っている。

 まるで、人間の顔に張り付けて型をとったようだ。そして、呼吸しているように見えないそれに中身が居るとは見えなかった。


「スカーサハ、アリスの記憶はどうなっている」

『指示通り、親族、友人、知人の死に際の記憶を排除し、それにまつわる記憶も消すことでフラッシュバックを封じています』

「そうか、ご苦労。彼女の足を止めるわけには行かないからな。……道徳に欠けると思うか?」

『ワタシの考えとしては──』

「AIが考えを語るな」

『……』


 理不尽な返しにスカーサハは不機嫌そうに妙な息遣いを残す。その沈黙がむしろ人間らしかった。


『──アリス嬢の精神的には、それが一番安全だと計算されました』


 ぎこちなさはあれど、スカーサハは不機嫌そうに声を低くしてそう答える。


「そうか。ならばあとは新しい黒騎士から血をとって完成だな。厄災(ロキ)の様子は?」

魔力吸収機構(スイーパー)に収容されているものの、順調に魔力を取り込み、成長を続けています。完全体までは猶予が数年あるものの、すでに今の人類では討伐は厳しいです』

「全く、だから言ったんだ。アイツの考えは甘いと。結局、僕が片付けるしかない」


 悪態をつく男の顔は愉悦に歪んでいて、とても楽しそうだった。


『前マスターの計画はやはり実行なされないおつもりで』

「当たり前だ。僕が記憶を弄ってやらなければあの娘はとっくに精神崩壊でも引き起こしていただろうよ。最後に信頼できる人に生きて見送られたといっても、所詮は見送られただけ、記憶を取り戻せば死んだと考えるに違いない。好意を寄せていたなら尚更だ」

『……』

「何より、僕が持ち掛けた計画に賛同し、マスター権を移したのは君じゃないか」

『ワタシは命令に従って行動したのみです』


 どこか縋るように、祈るようにスカーサハは答えた。その声を聴いた男はせせら笑う。

 その命令の甘さと中途半端さが娘の旅路を妨害するのだから男にとって片腹痛かった。


「全く、アイツのネーミングセンスは最悪なこった。僕にしても自分の名前にしても、言葉遊びが好きでも巻き込まれた側はたまったもんじゃない。なんだよ“彼女から彼女を無くすな”って。無理やりにもほどがある」

『でしたら、前の名前──烏路(からすじ)様とお呼びしましょうか?』

「やめろ、その名前はもう捨てた。人間の体じゃないからな」

『了解しました』


 男は手をひらひらと振ってスカーサハの提案を断った。

 同時に彼の中で存在する劣等感が叫び出す。


 烏路健介としてこの計画を成功させてこそ、ザッカリア、もとい有坂修を見返せるのだと。






次話以降はいつも通りの0時投稿です。

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