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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第五試練:渦巻くは覇者の息吹
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死線を抜けて

「ソリッド! 光だッ!」

「え、あっ、おう!」


 チェシャが倒れて思考が止まる三人、それでも尚冷静を保っていたボイドがソリッドに指示を飛ばす。我に返ったソリッドが爆炎の印を描き終えて魔力の残り香が付いた指で閃光の印を描く。込めた魔力は最大出力。余波を受けてソリッドの腕の増幅器にも二つに分かれる場所に光の線が走っていた。


「目ぇ閉じろよ──!」


 極光。無数の光の線が周囲の迷宮生物の目を焼き尽くす。暗い迷宮で戦うことを想定された彼らの目には地上でも眩しすぎる光は劇薬に等しい。それを直視した迷宮生物が悲鳴を上げて辺りは混沌と化した。


「クオリア! 拾えるか!?」

「もっちろんっ。」


 クオリアが片腕でチェシャの腹を抱えて彼を拾い上げる。来た道を急いで逆走する。子供騙しに過ぎない光の爆発とはいえ、時間を稼ぐという点において簡単かつ効果的な手法でこの場を切り抜けることを成し遂げた。しかし、前を切り開いていたチェシャが瀕死となってしまっているので次の混戦はもう抜けられないだろう。ソリッドの魔術も前線なくしては発動が間に合わない。なし崩し的に順番が入れ替わり、ボイド、クオリア、アリス、ソリッドの順に走っている。


「クオリア。私が持つよ、チェシャ。」

「あらそう? お願いね。……なら私が前に出るわ。ボイド、次は?」

「左だ!」


 先頭に飛び出して、空いた手に剣を握ったクオリアにボイドが叫んだ。言われるがままにY字路を左に曲がって、道なりに走る。その彼女を狙って剣魚の上顎を突き出しながら魚人が突貫してくる。


「邪魔!」


 大盾で受け止め、止まった隙を殴打。転がした魚人を放置して尚駆ける。両脇から突撃してきた剣魚は片方を大盾で、もう片方は剣で相手の勢いを利用したすれ違いざまの撫で斬り。綺麗に分断された剣魚の死体が後ろを走る三人の目の前に飛ぶものだから彼らはぎょっとするも足を止めることはない。普段防御を担うクオリアも、元は剣の腕で近衛兵にまでのし上がった腕利きの剣士だ。


 切っ先を見切る目も、正確に弱点を切り裂く正確さも衰えていない。だからこそ、チェシャの代わりを担うことが出来ている。しかし、その腕で後方を守っていた彼女が前に出たということは。


「ボイドぉ! こいつ撃ってくれぇぇ!?」

「一瞬持たせろっ!」


 最後尾を走るソリッドは追いかけてくる迷宮生物達を定期的に焼いていたが、炎と炎の間を狙われて真後ろにまで接近されていた。


「ひょわっ──!?」


 刺突。ソリッドの服を掠めて、ほつれさせる。その間に錬金砲の照準を定めたボイドが熱線を撃つ。突き出してすぐの態勢の魚人には剣魚の体を用いた防御が追いつかずに顔面を焼かれて熱線の勢いと共に後ろへ転がっていった。 


「こえぇぇ!」

「叫ぶ元気があるなら後ろを焼け! 追いつかれたら死ぬぞっ!!」

「わーってるよ!」


 余裕を取り戻したソリッドが残量お構いなしに雑に魔力を込めた印から再び炎を吐かせる。位置を周囲に教えることの危険性よりもすぐ近くの敵を遠ざけることのほうが至急だった。


「……耐えてね。」


 チェシャを背負っているアリスは願望のこもった声でチェシャに囁く。チェシャを背負うアリスの腕や手には彼の体から依然として漏れ続けるドロッとした生暖かい液体を度々感じていた。ここを逃げきれても彼が出血多量で死ぬのは時間の問題。剣魚の上顎を何本もまともに貰っているので臓器にまで攻撃を受けていてもおかしくない。しかし、生きていることは彼の体が脈打つ感触を感じているアリスが知っている。


「次の角を曲がれば行き止まりよ!」


 天井の水晶に目を向けたクオリアが後ろに届くように叫ぶ。返事を返す余裕は他三人にはなかった。しかし、最後の角を曲がった彼らは同時に息を飲む。行き止まりの先にあったのは見覚えのある黒水晶の横穴だった。人一人が屈めば入られる穴のサイズ。これがもし門番へとつながる道ではなくても彼らが取れる選択肢は一つしかない。


「飛び込めッ!!」


 ボイドがそう叫ぶ前にもう全員がラストスパートを駆けていた。全員息を荒くして、くたびれた足に鞭を打って全速力で行き止まりまでの十数メートルを駆け抜け、次々に横穴へと飛び込んだ。しかし、横穴に逃げ込んだところで追っては巨大ミミズのような巨体ではない当然彼らを追って横穴を潜ろうとしてくる。


「クオリア!」

「ええ!」


 横穴を潜った先の空洞に抜けたクオリアは、踵を返して横穴を大盾で防ぎにかかる。大きさは侵入を許さぬ程度には十分だったが、群れが次々と押し寄せて穴に蓋をする大盾に圧をかけてきた。アイリスの花盾を展開出来ればなんとかなりそうだが、身動きの取れないクオリアには展開するための僅かな溜めさえも出来なかった。


「ソリッド、光だ! 隙間からやれ!」

「おうよ!」


 返事と共に素早く描き上げた閃光の印をクオリアの近くで発動させたソリッド。盾の内側から漏れるように解き放たれた極光は例え少しの隙間でも十分な光量で横穴に迫る迷宮生物達の目を潰す。効果はさっきよりも薄いが、クオリアに掛かっていた圧が一気に消え失せた。


「下がれ二人とも!」


 後ろから来た声を駆けられたクオリアとソリッドが振り返ってボイドが斜め上を狙っている姿を視認する。その態勢の意味を理解したクオリアがぽかんと口を開けるソリッドの腕を引いて離脱。二人が動き出したのを確認したボイドが熱線を発射し、同時に視界が回復してきた迷宮生物達が蓋がなくなったことにこれ幸いと動き出そうとして。


 ガラガラガラッ──!


 崩落。熱戦が横穴の出口付近を破壊して、瓦礫が動き出さんとした迷宮生物達を押しつぶしていく。土煙を盛大に立てながらしばらく続く崩落。耳を叩きつけるような音に離れた場所で崩落を見守る四人は顔をしかめていた。


 音が止み、土煙が完全に晴れた後には大量の瓦礫で埋め尽くされて完全に閉ざされた横穴だったものが出来ていた。


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