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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第五試練:渦巻くは覇者の息吹
141/221

 早期撤退をした翌日、再び水壁の迷宮に訪れた五人。彼らの装備は見たところ大きく変わっているのはチェシャのみ。そんな彼の変更点は両手槍を片手槍に持ち替えて、空いた左手に小ぶりな|鉄を主体にミスリルを少々混ぜた合金製の丸盾ラウンドシールドを持ったことだ。


 装備変更を行ってから初めての接敵、現れたのは剣魚が数匹。

 水飛沫を上げて水壁から飛び出し、突進してくる剣魚を丸盾で横から叩くようにいなす。クオリアの大盾のような防御力はないが槍では回避しか選択肢がない、もしくは難しい攻撃に対して防御が可能になったの非常に大きい。


 叩き落とした剣魚にはいつものミスリルの両手槍ではなく、スカーサハから貰った長さ一メートル強の片手で持つには丁度いいプロトグングニルでとどめを刺す。絶命してもすぐに消えるわけではない。まだ穂先に刺さったままの剣魚の頭部を踏みつけて引き抜き、引き抜いた勢いで二匹目を打ち上げる。宙に浮いた剣魚は最高点に達してわずかに滞空した瞬間にアリスが打ち抜くので、チェシャは既に水壁に向き直り迎撃の姿勢をとっていた。そんな彼に今度は左右から二匹の剣魚が挟撃しにかかる。


「左は防ぐわっ!」


 最後尾にいたクオリアが鎧を鳴らして駆けつけてくる。どうやら後方の剣魚達はソリッドたちがすでに焼き払い終えたようだ。防御をあきらめて回避に移ろうとしていたチェシャが身をひるがえし、右からの襲い来る剣魚を刺し貫く。チェシャを挟撃するはずだったもう一体の剣魚の攻撃は難なくクオリアに防がれて、地に落ちたところをアリスに撃ち抜かれた。


「慣れないけど、新鮮。」

「の割にはあっさりだったけど、使いにくくないの? 槍も新しいし。」


 超硬金属の槍と丸盾を見つめてチェシャがつぶやく。彼の後ろからひょっこり飛び出したアリスがプロトグングニルのボタンを覗いて少しの凹凸もない表面を撫でながら尋ねる。丸盾は八百万で揃えたもの。店番をしていた双子の姉、ライラ曰く売れ筋商品だとか。


「盾はそうだけど、槍は逆。気持ち悪いぐらい手に馴染んでる。」

「そっか、不思議だね……。」

「チェシャくん、前と比べてどう?」

「気持ちが楽。ここを探索するならこっちのほうがいいと思う。」

「よし、じゃあそれでいきましょ。聞いてたボイドー? ……ボイド?」


 顔を明るくさせて振り返ったクオリアがボイドに呼びかけるも彼は何やら腕を組んでチェシャの槍を見つめていた。見つめるというには少し厳しい目つきだったのでクオリアが近寄って再度ボイドの名を呼ぶと彼はハッと我に返る。


「っと、すまん。少し考え事をしていた。……何の話だった?」

「チェシャくんの武器の話。盾持ちで行くって。」

「了解した。確かに余裕が見えているし、心配はなさそうか。」

「あの魚以外に変な迷宮生物が居ればまた変わるかしら?」

「それは進んでみないと分からん。とにかく余裕があるうちに進めるだけ進みたい。持ち場に戻れ、すぐに行くぞ。」

「はいはい。」


 チェシャが盾を持つことになったのはこの迷宮の壁が壁ではないという性質によって持ち味の機動力が生かせないから。壁を蹴って瞬時に反転するのも出来やしないし、戦闘中では起きなかったものの両手槍の長さのせいで気付かぬうちに槍が水に入ってそのまま手から奪われそうになったこともあった。チェシャが敵を捌けなければその負荷はクオリアに掛かる上にクオリアでは防げない攻撃もある。アリスはまだ零距離射撃という荒業があるものの、ソリッドとボイドは接近されると出来ることが少ない。故に防御力の落ちたチェシャが敵を捌く方法として丸盾を持つことになった。


 それから幾度か数匹の剣魚と交戦すること三回。チェシャも盾槍の扱いもそれとなく様になってきた頃、先頭を歩くチェシャが突然水壁から噴き出た黒い墨に覆われる。


「ふがっ!?」

「えっ……!?」


 チェシャの後ろを歩いていたアリスは思わず半歩身を引いて、銃口を墨が噴き出た場所に向ける。そこには群青色の光で満ちた水壁の中で八本の足を遊ばせる大きな(たこ)が居た。全長は曲がっている足の長さも含めれば五、六メートル程か。現在は足を曲げているので、外見上三、四メートル程度の大きさになっている。


「いたっ!」

「なんだよ、あれ。」

「……知らん。見たことがない。」

「蛸よ蛸。意外と美味し──あっ。」


 クオリアが蛸を物欲しげに見ながら舌なめずりをしていた瞬間。なぜ接近に気づけなかったのか不思議なくらい大きな蛸が怯えた身じろぎを見せると水壁の色に合わせて透明になっていく。また墨を吐くこともなく、


「保護色か!」

「あら、逃げられちゃった。」

「臆病な奴だな。」

「……助けて。」


 蛸がまた戻ってこないか警戒していた彼らは墨で真っ黒に染められて切実な声で訴えるチェシャに気づいた。彼の体は可哀そうなくらい何もかもが真っ黒で、悪戯を受けた子供のようだった。


「ふふ、ははは、真っ黒ね。」

「またべとべとだよ……。」

「どんな感じなんだ? でっけえミミズのと同じか?」

「あれとは違うかな……それに、俺そんな違い分からないから。どっちも気持ち悪いから。」


 アリスが黒騎士の様に皮膚が変化したのとは違うチェシャの真っ黒具合にどこか気の抜けた笑いと共に布巾を取り出し彼の体を拭き始める。不満たらたらなチェシャに周囲はどっと沸いた。


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