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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第五試練:渦巻くは覇者の息吹
131/221

始動

すみません、ちょっと切り際の関係で短めです。

また、この話から会話文でつながっている部分は一部を除いて改行をなくしました。

見にくいようでしたらまた戻します。

 アリスとシェリーが話し始めてから十数分経った頃。木の軋む音と共に店の扉が開き、リンリンとベルが鳴った。三人の来店者に加えて朝の冷気が再度店内に入り込み、扉正面のカウンターにいるサイモンは体を震わせながら声をかける。


「いらっしゃい。もう来てるよ」

「あぁ。……トーストのセットを頼む」


 ドアを開けて最初に店内に入った白衣の男、ボイドが片手をあげてサイモンに応じるとちらりと視線をやってお腹をならす少年ソリッドを確認して注文する。次に店内を見渡してアリスの姿を探す。いつもの五人席に二人座っているのを見つけて一瞬表情を変えたが、アリスの対面に座っているのがシェリーであることを認識するとその表情が落胆と安堵が入り混じったものになる。


「……シェリー君か、アリス君の様子はどうなんだ?」

「さあな、娘のほうがよく分かっているからそっちに聞いてくれい。俺が言いたいのはここに依頼を持ち込むな。それだけだ」

「それは保証しかねる」

「もうちょっとましな返事はないの? すみませんサイモンさん、この人も結構気にしてるんですよ」


 曖昧な答えを返すボイドの横から呆れ顔のクオリアがボイドをたしなめた。


「俺としちゃー冷静に気遣いできるあんさんのほうが中々だと思うよ」

「いま必要なのは嘆くことじゃありませんから」

「ボイドがここまで来れたのはあんさんのおかげなんだろうな」


 毅然とした態度で微笑むクオリアにサイモンはくつくつと笑って注文の品を作りに行った。


「なークオリア、なんでサイモンのおっさんは笑ってたんだ?」

「さあ? とにかく、早く席に行きましょ。アリスちゃんのことも心配だし」

「昨日、あれから黙ったまんまだったしな」

「お前もだろう」

「それはそう、なんだけどさ」


 一言会話を交わしながら三人は席へ向かう、ソリッドの声はいつもの自信に満ち溢れた何かが欠けていた。席に近づいた三人にシェリーが微笑みかけた。アリスも顔を上げて三人を見上げた。


「おはようございます」

「おはよっシェリーちゃん、アリスちゃん」

「ん、おはよ」

「調子はどうだ?」


 ボイドの問いにアリスは声を発しなかったが、力強く頷く。ボイドは彼女の瞳に宿る決意の光をみて、眩しそうに目を細めた。その間にギギギと椅子が地を擦る音を鳴らしながらシェリーが立ち上がった。


「そろそろウチはお暇させて頂きます。ご注文は少々待ってくださいね」

「ありがとう──さて、会議をしようか」


 シェリーと入れ替わりに皆が席に着き、五人席は一つを残して埋まる。


「……どうやって探すんだよ?」


 ソリッドの声はとても低かった。


「それを考えるんだ」

「時間がないんだろ、早く行ったほうがいいじゃねえか」

「否定はしないさ。だが、チェシャ君一人が生き残るのはさして難しくない。アリス君との別れ際に黒騎士になっていたなら尚更。彼は防御が得意じゃないから五人でいる時なら怪我を負うこともあるだろうさ。それでも、仲間のことを気にしないなら生き残るのが最も得意のはずだ」

「……」

「失態を取り返したい気持ちは分かる。今は落ち着け」

「おう……」


 黙り込んだソリッドに変わって次にクオリアが口を開く。


「正直、考えるも何も前の広場を中心に片っ端から探すしかなくない?」

「そうするつもりではるんだが、あの王様のような蛙を無視できないだろう?」

「それはそうなんだけどねー。あいつ、誰の攻撃も効かなかったし」

「無敵ではないと思うが出現した状況を鑑みるに面倒な相手には違いない」


 近道をしようとしたものを咎めるように出てきた。そんな相手が簡単に倒されるように作られるはずがないというのはすぐに思い至る話だ。しかし、彼らの会議の主題である王蛙はチェシャによって倒されているのだ。


「そうよねー。でもあいつあたし達を追ってこなかったわよね?」

「ご丁寧に王冠まで載せていたんだ。単体で強いというよりは迷宮生物を手足に数で攻めるような個体、なんだろうな」

「あたしとしては量より質のほうが楽ね」

「それはどっちにしても程度によるとしか言えん」

「まーそうなんだけどね」


「あの」


 進まない会議にアリスがポツリと声を発した。


「どうした?」

「わたしが倒すよ。あいつ」

「……出来るのか?」

「あの時は迷ったけど、もう迷わない」

「無謀、ではないんだな?」


 彼女の小さくとも芯のある声と煌々と輝く瞳を見たボイドがその姿にまた目を細めながらも念を押した。アリスは強く首を縦に振るだけで答えた。彼女の返事を見てボイドが考え込んだせいでできた沈黙の間にシェリーがトーストの乗った皿とコーヒーのカップを運んできた。


「お待たせしました。トーストセットです」

「あざっす。うげ、コーヒーじゃん」

「お水、足しましょうか?」

「頼む」

「いや、要らん」


 カウンターに戻ろうとするシェリーを引き留めたボイドはコーヒーを一気に飲み干して立ち上がる。


「ソリッド移動しながら食え、出るぞ。……代金はこれで釣りはいい」

「あ、はい。ありがとうございます」

「えっ、ちょ、アリスちゃん行くわよっ」

「ん」


 シェリーに銀貨を一つ渡し、白衣を翻してドアへと歩いて行く。アリスとクオリアが慌てて立ち上がって彼を追った。


「……おひふけっていっへひゃへーか!」


 思わず立ち尽くしていたソリッドもトーストを咥えたまま走り出すのだった。

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