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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第五試練:渦巻くは覇者の息吹
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蛙の王

 蒼き森の畦道で五人の探索者たちと三匹の忍者カエルが対峙していた。


 先陣を切って飛び込んできた忍者カエルの舌鞭をボイドが鉄棒に絡ませて捉える。


「そっら!」


 そして、引っ張って落とす。

 忍者カエルはこの森の水の中のような世界をすいすいと動くが、地につけば所詮はカエル。アリスの銃撃から逃れられるすべはない。脳天に弾丸を撃ち込まれた忍者カエルが魔力の霧に変化する間に、チェシャが切り込み、引いた一体を無視して逃げ遅れた忍者カエルを回避も許さぬ一呼吸の突きで腹に風穴を作る。


「おーにさんこっちらっ!」


 引いた一体はクオリアが詰め寄っている。この水のような空間に慣れてきたクオリアは直線移動だけならば地を駆けるよりも早く動くことができていた。大盾持ち相手に苦無で応戦するのは嫌なのかどんどん逃げていく忍者カエル。


「あらら。あれは追いきれないわ」

「任せて」

「とどめはオレっ!」


 こちらに背を向けずに走る忍者カエルの足をアリスが撃ちぬく。間髪入れず飛来した燃え盛る火炎によって、その場から動けない忍者カエルは灰も残さず消え去った。


「慣れてきたわね」


 忍者カエルを追うために離れていたクオリアが満足げに皆の元へ戻ってくる。五人は忍者カエルとの初めての接敵から二日間で十数戦ったことでかなり安定した動きに仕上がっていた。

 ボイドが一体を止めて、アリスが倒す。チェシャが強引に一体以上を倒すか誘導してソリッドの攻撃範囲に入れる。クオリアは後衛陣を守ることに注力し、余裕ができたら相手に接近する。


 現れる忍者カエルが三匹より多くなることがないので、その点も安定する要因だった。


「地図のほうは芳しくないがな」

「そっちは知らないわ。正直どこ目指しているかもわからないし」

「ボイド、やっぱり遠回りさせられてる?」


 肩をすくめるクオリアの横からチェシャが口をはさむ。彼の問いにボイドは改めて地図を睨み苦々しく頷いた。そして地図をチェシャとクオリアに見せながら説明し始める。


「中央に穴ができているんだ。そして、私たちは渦を描くようにして少しずつ中央に向かっている」


 ボイドが見せた地図は外縁が円形なのも合わさってドーナツ状に埋められていた。そして、中央にできた空白地帯を少しずつ削るように道ができている。まるで中央には何かがありそうな地図だった。ボイドが進む道は分かれ道で中央により近づけるような道を選んでいるが、結局はまた渦のような道に戻ってくる。外側は単なる迷宮で、中央に行く道はほとんど一本道に近かった。


「へー、子供が作った迷路みたいね」


 クオリアの言う通り、見た目だけがややこしい地図になっていた。よく見てみれば行き止まりが多いわけでもなく終着点は多くないところも彼女の見解を強めていた。


「じゃあよ。燃やせばいいんじゃね? 魚の群れに襲われた時みたいにさ」


 ソリッドが名案だといわんばかりに胸を張って言う。ボイドは苦い顔で首を振った。


「そんなことを迷宮の作り手が許すと思うか? 不正として扱う程度は知らないが、大群で無理やり突破しようとした者が神の悪意によって全滅させられたのは前に話しただろう」

「でもよ、俺らは五人だし、それを言うなら第三試練の氷燃やした奴はどうなんだよ。あれもズルみたいなもんじゃん」

「……」


 ボイドは沈黙する。彼が言い返さない意味を知っているソリッドは小さなガッツポーズを作ると意気揚々と増幅器を起動させた。彼の詠唱に伴って腕輪が光り始めた。


「“駆動(drive)開始(start)”!」


「止めないの?」


 アリスがソリッドの方を不安そうに見ながら尋ねる。直接止めないのは彼女なりに納得できることがあったのだろう。


「近道できるなら越したことはないないけど……。アリス、あの銃。準備できる?」

(magic)拳銃(revolver)のこと?」

「ごめん、なんて言ってるか分からないけどたぶんそれ」


 アリスはそこでチェシャが古代言語を知らないことに気付く。この手の話はボイドとしか話さないので、母語でもあるこの言葉が通じないということを忘れていた。


「ん、分かった。“機能(mode)変化(change)──双銃(dual)── (magic)拳銃(revolver)”」


 アリスが銃を宙に優しく放り投げる。銃は光を放った後、二つに分かれて彼女の手元に帰ってきた。

 チェシャはその様子を羨ましそうに見つめていたが、アリスがそれに気づくことはなかった。


「出来たよ」

「それって、何かデメリットってあるの?」

「魔力が切れると何もできないし、一度変えちゃうとしばらくは元にも戻せない」

「ふうん」


 こくりと頷き魔力を集めるソリッドのほうに目線をやった。陽炎のような揺らめきが現れ始め、もうすぐチャージ終わることを示していた。ボイドは最後までソリッドを止めるか悩んでいたようだが、結局口を出すことはなかった。


「準備万端! はっしゃあぁぁ!」


 ソリッドの魔力を灯した指が二重円を描く。発光していた腕輪が分離して二つの大きな円環を作り上げる。苦し気なソリッドの顔が笑みに代わり、彼の描いた二重円から炎が吐き出される。

 印から飛び出た炎は一つ目の円環で爆炎に代わり、二つ目の円環で業火に代わり蒼い森をことごとく焼き払いながら進んでいった。


 そして、この上ない自然破壊を見せつけていた炎は突然何かに遮られて溶けるように消滅した。


「あり?」


 想像もしていなかったことにソリッドは思わず首を傾げた。


 炎が消えた次に起こったのは激震。五人の体は凄まじい地面の揺さぶりによって宙へと打ち上げられる。幸い、この森の特異さによって強く地面につけられることはなかったが、ソリッドの炎によって作られた道に大きな影が降ってきていた。


「大丈夫?」


 チェシャが奇麗に着地できんかったアリスとボイドを助け起こす。


「ありがと」

「すまない。……やはりろくな目にはならないか、止めなかった私も同罪だな」

「そういうのは後。どうやって止めるか考えよ」

 チェシャはこちらに向かって動く影の主に向かって槍を向けながらそう言った。

「チェシャ? どこ向いて……ひゃあ!」


 再びの激震。今度のものはさらに強い。それは、振動を起こした主がすぐそこにいたからだ。


「あははっ」


 チェシャが哂う。実に楽し気に。


 彼の視線の先には大きな蛙の姿があった。何かに例えるならその大きさは家一つはあるだろう。巨大というには小さいかもしれないが、この場にいる誰かがその体の下敷きになれば五体満足などはあり得ない。大きな体躯の天辺、即ち頭の上にはご丁寧に王冠が載せられていた、これ以上ない王の強調を示していた。


「アリス、援護お願い」


 再びバランスを崩したアリスを助け起こしてチェシャは地を蹴った。弾丸のように飛び出した彼を見送ったアリスは一瞬呆けた後、直ぐに気合を入れなおす。


「クオリア。チェシャのフォローお願い! ソリッドはもう一回溜めれる?」

「分かったわ!」

「……もう一回ならいけるぜ」


 クオリアは直ぐにちぇしゃの後を追い、ソリッドは自身の失態を取り戻すために真剣な表情で二度目の増幅器の駆動を始める。


「らあっ!」


 開口一番、先陣を切ったチェシャが堂々とその場で佇む王蛙に斧槍を振り下ろす。大きく振りかぶられたそれを大蛙は避けようともしない。


 ガキンッ!


 斧槍は空を切って、王蛙に命中すると思いきやその寸前で何かに阻まれた。


「私の出番を奇麗に取られては、仕事を見つけないとソリッドを叱れないな」


 ボイドは脱力の魔術印を描き始める。剣魚に使った二重構造のものではなかった。すぐに書き上げた印から黒色の球体が吐き出され、チェシャの攻撃の後隙をかばうように彼に続く。


 しかし、これもまた王蛙に触れる寸前で何かに阻まれた球体は溶けるように消えた。


「……?」


 その様子を訝しげに見ながらアリスが発砲。二発の銃弾が王蛙の頭めがけて飛来する。


 カカンッ!


 これもまた王蛙に触れる前で弾かれる。


「効かない?」

「みたいだな。ソリッドの攻撃が効かなければ撤退を考えよう。……簡単に逃がしてもらえるとは思っていないがな」


 ボイドの言葉通り、王蛙が魔力を集めるソリッドのほうに向き直り、


 ゲココォォォォ!


 大気を揺るがす咆哮をあげた。

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