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そこに眠るは夢か希望か財宝か  作者: 青空
第五試練:渦巻くは覇者の息吹
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忍者

「ボイドー。地図はどのくらい埋まったんだー?」


 ソリッドが後ろで蒼の森の地図を描くボイドに尋ねる。この森を探索し始めて三日目。

 一日目は剣魚の群れと戦い、二日目は探索というよりは森の大きさを把握するために船で森の外縁を見て回った。そして今日が本格的に一日すべてを小迷宮の探索に使える日になった。


「まだ全然さ。見たほうが早い。」


 ボイドが両手でピンと張らせて地図をソリッドに見せつける。蒼の森の外縁は円状になっていて、彼らが剣魚の群れと戦った広場が南東寄り、今日はその反対方面なので南西辺りが埋まっていた。


「半分も埋まってねぇな。」

「これでも早いほうだぞ? この森もさほど広くない。大雑把になら今日も入れて七、八日で探索できるはずさ。」

「ぜーんぶやるならもっとかかるんだろ?」

「そこに関しては……。」


 ボイドは自身の後ろを警戒しているアリスに顔を向けた。


「ここの大迷宮に直行は無理だったな?」

「ええ。多分としか言えないのだけど、三つの小迷宮で何かしないと無理だと思う。」

「──と、言っているのを踏まえれば、しなければならない何かがどれだけ早く見つかるかで話が変わる。」

「じゃあ、さっさとそいつを見つけなきゃな。」


 ソリッドが話を締めくくって前を向く。彼の前にはチェシャがいるのだが、なぜか立ち止まっていたチェシャ今とまで前を向いていなかったソリッドがぶつかってしまう。


「った、おいチェシャ?」


 身長はチェシャのほうが高い。彼の肩に頭をぶつけたソリッドがなぜ立ち止まったかを尋ねようと、かぶりを振ったところで、全員が悟った。


「どこにいるか分かる?」


 クオリアが訪ねる。彼女がチェシャに尋ねたという意味はさておき、チェシャもまた周囲に槍を向けていた。


「アリス。十時方向の大きな木の天辺。」


 小声の指示にアリスは銃声で答えを返す。彼女が放った弾丸は枝葉を揺らしたのみ。


「しっ──た!?」


 タァン! 


 鞭打つ音。クオリアがボイドに襲い掛かる赤い鞭を弾いた音。鞭の持ち主は二足歩行で、攻撃が失敗したとみるや宙返りをしながら後方へ逃げていき茂みに姿を隠した。


「っ!」


 今度はチェシャがとっさに屈んだ頭上を襲撃者が潜んだ茂美とは反対方向から液体状の何かが通過した。そのまま勢い良く木に着弾し、命中した幹の部分を溶かした。勢い良く煙を登らせて、木を侵食したそれをまともにもらえば、人肌など簡単に溶けるだろう。


 地に屈んだチェシャにまた赤い鞭が降ってくる。


「こっの──!」


 斧槍の柄で鞭を防ぎ、柄に絡みつかせる。そして勢いよく引っ張る。宙に浮いていた赤い鞭の持ち主は地面に叩きつけられた。


 襲撃者の姿は第一試練で主に近接武器を持つチェシャとクオリアを苦しめた大ガエルとそっくりだった。異なるのは後ろ足で立って、前足──今は両手となった部位──に尖った木の苦無を持っている。赤い鞭と思わされたものは大ガエルの口から伸びる舌だったのだ。


 まさしくカエル忍者というべき風貌の迷宮生物はもとの四足歩行のように地面に伏せていた。

 動きはただの大きなカエルだった時よりは格段に良くなっているが、無防備なところをさらせば、アリスによってハチの巣になって終わるのみ。


「げ……。もう一体いる!」


 カエル忍者の舌でべとべとになった槍を握りなおしたチェシャが不快感丸出しながらもう一体のカエル忍者を探る。


「どーせその辺だろ、燃えなっ!」


 ソリッドが甘い出来の爆炎の印で炎を生み出す。収束しきらない火炎が扇状に広がって酸弾らしきものを飛ばしてきた茂みを雑に焼いていく。すると、茂みから宙へと何かが飛び出してきた。


「そこっ!」


 リズミカルなアリスの三連射。飛び出してきたのは見込み通りもう一体のカエル忍者。後ろ足と前足にそれぞれ一発命中し、バランスを崩したカエル忍者は墜落。落ちた先でチェシャの斧槍の餌食となって霧散した。


「おもしれーやつだったな。」

「どうみても厄介なやつだろ。」

「べっとべとなんだけど……。」

「あたしの盾もよ。あいつの胃液か知らないけど酸弾を防いだ絶対ろくなことにならないわ。」


 赤い鞭もといカエルの舌を防いだ二人が不快感で顔を歪める。特にチェシャは躍起になって斧槍の柄を拭きとろうとしていた。


「でもよー。かっこよくねえか? シュバって現れて攻撃して消えるの。」


 ソリッドの役割上、そういった立ち回りをすることもなければできる能力も足りていない。それ故に惹かれるものがあったらしい。彼の眼はキラキラしてるといっても過言ではなかった。


「……バランスは良さそうだよね。遠くからも近くからも攻撃してくるわけだし。」


 奇麗になった槍を手に顔は険しいままだったが、素直にチェシャが分析する。彼の言う通り、近接戦は先ほど使われることがなかった木の苦無、中距離は舌による鞭、遠距離は酸弾。

 剣魚のような一極化した強みではないが、フットワークが軽い攻撃で隙なくじわじわと相手を追い詰める武器を持っていた。


「舌で攻撃したところが狙い目だな。何かしらで引っ張ってやれば落ちてくるだら。」


 ボイドの言葉に前衛組がそろって嫌な顔をする。


「まじで言ってる?」

「やるならあなたがやりなさいよ?」


 脅迫じみている二人の鋭い言葉にボイドは苦笑するが肩をすくめて言い返す。


「できることならやっていたさ。しかし、力という面では君たちのほうが適任だろう?」

「……言ったわね? じゃあ次やってみなさいよサポートしてあげるから。無理ならおとなしくやるわ、仕事だもの。」


 怒気迫るクオリアと勢いよく頷くチェシャにボイドは言い返せず、頬をひきつらせた。


「大変そうだなぁ。」

「どうせならソリッドもやりなさいよ。」

「オレ、ちょっと思いついたことがあるんだよ。そっち試して無理だったらやってもいいぜ。」


 けらけらとボイドの苦い顔をみて笑っていたソリッドにクオリアの矛先が向けられる。思いのほか素直なソリッドにクオリアが面食らっていた。また、アリスもこっそりと笑っていたが、一連の会話を見て黙り込んでいた。


「そう? それならいいわ。」

「話はまとまったか?」


 頃合いを見たボイドがバックパックを背負いなおす。


「もともとあなたの話よ?」

「分かっているさ。」


 そういったボイドの手には長い鉄製の棒が握られていた。


「どこにしまってたのよそんなもの……。」

「こいつは携帯性を重視した実験品だ。大した用途がないからもしもの時の武器代わりに持ってきていた。ほら、意外と便利だぞ?」


 長い棒に等間隔で付いている突起を棒の内側に押し込む。突起が内側に引っ込むと、ボイドが鉄棒を逆さにするだけで、手首から肘くらいまでの長さに縮む。最大まで縮むとカチリという音が鳴って再び突起が一つ現れた。どうやら突起を使って長い短いを固定しているようだ。


 誇らしげに胸を張っているボイドにクオリアは呆れながら定位置の最後尾に戻っていった。

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