終章 もう一度あの場所で(Another story)
もし、
もしもこの物語の主人公がロイ・グロードベントではなくアメリア・ヒューリスであったなら、私が涙を流した時点でその物語は完結していたに違いない。
だから、これはきっと後日談などではなくて、私にとって蛇足と言うべきものだ。
第九八番天蓋区画での戦闘の後で、ロイはジンと名乗る“獣”の男に目的の場所まで連れて行ってもらうことになり、行くあてのなかった私も彼らに同行させてもらえることになった。
ロイの言う“目的の場所”が何処かは私には分からなかったが、その場所に辿り着くまでにとても長い時間を有したのははっきりと覚えている。
正確な距離が言えるわけではないけれど、出発したのが冬半ばで、到着が冬を終えた初春だったから陸路で数か月はかかっていたと思う。
そうしてたどり着いたのは一面を白詰草に覆われた草原。
一面の緑の中には初春の暖かさに誘われて咲いた白い花が所々に垣間見え、草原の間を縫うように流れる川の水は飲料水よりも澄んでいて、群青の空に輝く太陽の光を反射して煌めいている。
〈ベガルタ〉のコクピットの中、スクリーン越しに初めて見たその景色は天蓋区画内の人間が作った偽物の自然などとは比べ物にならないほどに美しく、私はその美しさにしばらくの間見惚れてしまっていた。
そして今。
その草原には二人の男女が立っている。
一人は黒い特徴的な獣耳と橙黄色の狐の尾を持つ黒髪の少女で、もう一人は私の良く知る黒髪緑眼の青年。
“獣”の少女はまだ彼に気付いていない様子で群青の空を見上げており、青年がその後ろからゆっくりと少女に歩み寄る。
――良くないんじゃない?盗み見なんて。
脳内に響く声。私の中のもう一人の人格、アリシアの声だ。
「……別に、そんなんじゃない。多分」
そう、決して盗み見などではない。景色を眺めていたら偶然〈ベガルタ〉のカメラがそれを捉えてメインスクリーンに映し出した。ただそれだけなのだ。
――気になるならアメリアも行けばよかったのに。
そんなことを言ってくるアリシアに首を横に振って応じる。
ロイにも一緒に来ないかと言われたけれど、私が行くとなるとまず間違いなく彼に背負ってもらわなければならないし、そうまでして彼と“獣”の少女の再開を邪魔する気もない。
だから、黙ってこの景色を眺めているくらいが私にはちょうどいいのだ。
――このままだとあの娘に取られちゃうんじゃない?
「……何を?」
――ロイ。
彼の名前を出されて一瞬固まる。
丁度画面に映る獣の少女が、後方から歩み寄って来た彼の存在に気付く。それから彼が口を開いて、言い終わらないうちに少女が彼に抱き着く。
その姿がまるで絵に描いたように様になっていたから私は思わず微笑んでしまった。
「……いいの。だって、あの娘のほうが、お似合いだから」
――そう。
応えたアリシアの声は酷く突き放すようなものだった。
――だったら、どうして今、アメリアは泣いてるの?
唐突にそう問われ、少しばかり眉を顰める。
アリシアはよく冗談を言う人ではあるが、もし今の言葉がそうであるなら流石に笑えない。
そんな中、ふと右の目尻に感じた違和感に思わず手を伸ばす。指で拭ってみれば、それには確かに私の瞳からこぼれた水滴が付いていた。
「……あ、れ……?」
次から次へと溢れてくるそれを止めようと、何度か目尻を拭ってみるけれど、止まる気配は無い。
「……どう、して?」
頬を伝った涙。しかし、もうそれを拭う気にはなれなかった。
もはや言い逃れなどできないと心の中で悟る。アリシアの言う通り私は泣いていたのだ。
スクリーンの外側で彼と抱き合っている獣の少女が酷く羨ましく思えて、同時に私がどんなに背伸びをしても届きそうにない彼女の存在に打ちのめされて泣いている。
ああ、やはりそうなのかと私は改めて認めざるを得ない。
――私は、ロイが好き、なんだ……。
皆さんこんにちは。狐森なとです。
この度は「デュアル・インパルス〜人と獣、相容れない二人に幸せな再会を〜」をお読みいただき本当にありがとうございます!
今回の第80部分の投稿をもって第2章の「Glory of the living」を完結とさせて頂きます。
第2章は第1章の第41部分と第42部分の間にできた空白の時間を埋めるお話として書き上げましたが、都合によりメインヒロインであるリンの登場が少なくなってしまったことに関しては本当に申し訳ないです。
別にリンをハブったわけではなくてですね。今回は話の流れ的に出すに出せなかったのですよ……。
その代わり、と言っていいのかは分かりませんが、今回は主人公のかつての同僚で第1章では後半部分でしか登場しなかったアメリアの登場を増やしています。というか登場が多すぎてメインヒロインが入れ替わっちゃってます。
そういうわけで、私の中では勝手に第1章がリン編で第2章がアメリア編という認識になってしまっているわけですが、皆さんにとってこのアメリア編、もとい第2章はいかがだったでしょうか?
個人的には機神との戦闘を書くことが出来なかったのが少し心残りです。
それと、第1章から引き続き、機体紹介と称しておきながら私の画力の都合でイラストを掲載出来ていないことに関しては本当にすみません。
機体の構成を考える際にスケッチを行ったりはするのですが、とても人様にお見せできるようなものではなくて、結局、文章のみの紹介になってしまいました。
この物語に登場する機体の文章では伝えきれない情報は、読者の皆様が想像力で補って素晴らしいものに仕上げていただければ、作者としてもこれほど嬉しいことはありません。
さて、長文になってしまいましたが、後書きを終了とさせていただきます。最後までお付き合いくださりありがとうございます。
そして私の小説を最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。




