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同士討ち

 〈ベガルタ〉が構えたショートバレルライフルが咆哮。

 それをバックステップで〈ラーグルフ〉が回避する。

 次いで〈ベガルタ〉が急接近、瞬く間に間合いの内側に滑り込むと銃剣を大きく振りかぶる。


――避けきれないッ!


 止む無く背部にマウントしていたタクティカルバイターを抜き放って銃剣の一撃を受け止める。

 受け止めたのは良いが、相手は二刀流だ。直ぐに余っていた方の手に持った銃剣が振るわれる。

 頭部に迫った横薙ぎの一線を機体を仰け反らせて回避。次の一撃が繰り出されるその前に地面を蹴って距離を取る。


「この反応速度、間違いないッ!」


 素早くヘッドセット型デバイスを取り出して頭に装着。相手と同様のシステムを起動させる。


「RAGE!」


 機体頭部の二つの瞳。クリアブルーの保護装甲の下にあるそれらが一瞬輝く。

 視覚が同調し、機体のカメラが捉えたものがモニターを介さずにそのまま見えているような感覚を覚える。

 少し遅れて機体そのものと一体化したかのような感覚。〈RAGE〉システムが完全に立ち上がった。

 鳴り響く接近警報。〈ベガルタ〉が銃剣を構えた状態で目の前にいた。


「……ッ!」


 反射的に後方へ動こうとする僕の脳信号に反応し、〈ラーグルフ〉が後に身体を仰け反って後退。振るわれた銃剣を回避する。

 すかさず追撃してくる〈ベガルタ〉。立て続けに振るわれる二本の刃を回避し、あるいは大剣で受け止めて受け流す。


「アメリア!なぜこんなことを!僕に戦う意思は……」

『……無関係。私は作戦の遂行を優先する』

「目を覚ましてくれ!」


 銃剣を受けた大剣を力任せに押し返す。押し負けて飛び退った〈ベガルタ〉がショートバレルライフルを発砲。遠距離攻撃に対しての防衛手段も反撃手段も持ち合わせていない〈ラーグルフ〉では回避せざるを得ない。

 砲弾が地面に着弾し、抉られた大地から土煙が上がる。

 すぐに距離を空けられると不利だと判断し、左右の操縦桿を前へと押し込んだ。

 〈ラーグルフ〉が地を蹴って前進。一瞬で間合いを詰め、大きく振りかぶったタクティカルバイターを振り下ろす。

 〈ベガルタ〉が最小限の動作でそれを回避。振り下ろされた大剣が空を切り、地面へと突き刺さって盛大に土煙を巻き上げた。

 〈ベガルタ〉の反撃。〈ラーグルフ〉が地面に刺さったままの大剣を手放して半歩後退し、横に振られた銃剣の一閃が立ち込める土煙ごと〈ラーグルフ〉が立って()()場所を切る。

 彼女の繰り出した物とは思えないそれに、僕は思わず息を呑んだ。

 続いて至近距離でショートバレルライフルが咆哮。咄嗟に後方へ跳躍して飛来した砲弾を回避する。

 足裏の駐鋤(スペード)を展開、摩擦を大きくして着地時の滑りを減らしつつ着地。


「恐怖心が全くない!本当にアメリアなのか?!」


――見りゃ分かんだろ。調整食らって駒にされてんのさァ。


「レイ?どうして君が?」


――どうしたもこうしたもあるかよ。てめぇがいつまでたっても気づかねぇから言ってやったんだろうが。


「……」


――まぁ、こうなっちまった以上。リアシアのやつらと一戦やるしかねぇわけだが、どうする相棒?


「正直乗り気はしないけど」


 僕はおもむろに操縦桿を握り直す。


「それでリアを連れ戻せるなら、やるよ」

「よく言ったぜ。ロイ!」


 言うと同時ににレイが操縦桿を全身位置に叩き込んだ。

 〈ラーグルフ〉が急速前進、一気に〈ベガルタ〉との間合いを詰める。

 当然、相手も停止しているわけではない。間合いを詰められるその瞬間に構えた銃剣を振りかぶる。

 相手の首を落とす軌道で横に振られたその刃をしゃがみ込むことで回避し、さらにその際の膝の屈伸の勢いを利用しつつ〈ベガルタ〉の胴部に蹴りを入れる。

 ノックバックした〈ベガルタ〉を追ってさらに前進、その途中で地面に突き刺さったままだったタクティカルバイターを回収する。


「リアァ!今のお前ならこれくらい余裕で受け止めれるよなァ!」


 大地を強く踏み込む。両手で構えたタクティカルバイターを横に振った。

 本来の彼女であればまず間違いなく回避を選ぶ場面だが、レイの言った通り今回は違った。

 〈ベガルタ〉は手にした銃剣二本を駆使して斬撃を受け止め、即座に脚部の駐鋤(スペード)を展開、その場に踏みとどまる。


「いい加減に目ぇ覚ませよ。なぁ!」

『……不可解。私は眠っていない』

「そういう意味じゃ、ねぇッ!」


 〈ラーグルフ〉が無理やりに大剣を振り抜こうとする。力負けした銃剣に罅が入り、それが瞬く間に大きくなって砕けた。


『……ッ?!』


 焦りの混じったアメリアの吐息が一瞬聞こえ、〈ベガルタ〉が後退する。


「逃がすわけねえだろォッ」


 すかさず追撃に出ようとするが、〈ベガルタ〉の左肩に装着されたショルダーシールドの装甲がずれ動いていることに気づいて踏み止まる。

 ショルダーシールドからマイクロミサイルが発射。弾数は少ないが高い爆発力を有するそれらを〈RAGE〉の反応速度でもって回避する。


「チッ。機体に色々と小細工してやがるな。しかも案外と隙がねぇ。こりゃあ骨が折れそうだ」


――レイ。


「なんだよ」


――リアの目を覚まさせるのは僕がやる。


「……できんのかよ。今のあいつは別人みてぇなもんなんだぜ」


――違うよレイ。別人みたいなものじゃなくて本当に別人なんだ。


「あぁ?そいつはどういう……」


――確証なんてない。だけど多分、聞けば分かる。


 一瞬の沈黙。

 その後に身体のコントロールが戻ってくる感覚がある。


――いいぜ。好きにしな。


「助かる」


 僕は少し距離を置いて立つアメリアの機体を見つめる。

 丁度折れた銃剣を廃棄して予備と交換していたようで、両手のショートバレルライフルを一度腰部のウェポンコンテナへ戻してから再度引き抜くと、それにはすでに新しい銃剣が装備されていた。

 続いて銃剣の替えが無くなったらしいウェポンコンテナを分離(パージ)

 それとほぼ同時に〈ラーグルフ〉がタクティカルバイターを構え直す。


「行くぞ、リア」


 再び〈ラーグルフ〉が前進。手にした大剣を大きく振りかぶって叩きつけるように振り下ろす。

 〈ベガルタ〉がそれを回避。相手は先ほどの鍔迫り合いで銃剣の刃を破損している。必ず避けてくると確信できた。

 相手の動きを確信できるということは必然的に次の行動も読みやすくなる。

 そして回避際に相手が取り得る行動は一つしかなかった。

 相手がショートバレルライフルの砲口をこちらに向ける。


「ライフルでの牽制射撃」

「分かりやすいったらありゃしねぇなぁ!」


 僕に代わってレイが吠えた。

 〈ラーグルフ〉の左前腕裏に設けられた装甲がずれ動いて開く。短い駆動音と共に格納されていたフォールディングエッジが射出され、それを左手で掴み取って折り畳み式の刃を展開する。

 本来折り畳み式の投げナイフとして装備されているそれを突き出して向けられた砲口にねじ込んだ。

 砲声。

 詰まりを起こした砲口に阻まれて砲弾が発射されず、〈ベガルタ〉が右手に握っていたショートバレルライフルが内部から爆散。

 生じた煙を避けようとバックステップを踏む〈ベガルタ〉と、迷わず追撃に出る〈ラーグルフ〉。

 恐らく余っている方のショートバレルライフルではこちらを撃ってこない。

 なぜなら相手は……。


「右利き。戦い方を見てれば分かるよ。右手の武器が無くなったときは必ず待ち換える」


 黒煙を抜ける。

 案の定、左手に握った銃剣を右手に持ち替えようとしている相手の姿が見えた。

 手にした大剣を構える〈ラーグルフ〉。〈ベガルタ〉が左肩のショルダーシールドを展開する。

 ふ、と僕は思わず失笑してしまった。本当のアメリアなら多分、僕相手に盾は使わない。

 彼女ならきっと僕やレイが盾ごと相手を叩き潰すと知っているから。


「ようやく確信が持てたよ」


 操縦桿の上部にある切り替えスイッチを操作。同時にタクティカルバイターの構えを突きの動作を目的としたものに変える。


「君は、リアじゃない!」


 タクティカルバイターの刀身が割れる。噛み切る者(バイター)という名の通り、鰐の口のような凹凸のある刃が現れ、大剣は鋏と姿を変えた。

 〈ラーグルフ〉が手にした巨大な鋏を突き出す。熱で金属を切断するために高温化した刃が丁度相手の機体とショルダーシールドを繋ぐマウントアームを捕らえた。

 アームを捕らえたまま、タクティカルバイターを大きく振る。マウントアームに引かれてシールドもろとも〈ベガルタ〉が地面に叩きつけられる。

 すぐさま相手の右手に握られていたショートバレルライフルを踏みつけて破壊、右手でタクティカルバイターを抑えつつ左腕で脹脛のサーベルラックからヒートダガーを抜き放ち、刃先を〈ベガルタ〉の胸部に向ける。


「君は、誰だ?」


 長い沈黙。


「君は誰だと聞いているんだ」

『……わ、わた、わたし、は……』


 さらに数秒の時間を置いて返答が返る。分かりやすいほどに震えた声。聞くだけで相手が混乱していると分かる。


『わたしは、アメリア……』

「違うだろ?」

『……』

「その名前は彼女のものだ。間違っても、君じゃない」


 普段話す時よりも僅かに低い声で、僕はアメリアに取り憑いているその()()へと言い放つ。


「アメリアを返せ」

『わたし、わたしは……』


 そう言った声はか細く、明らかに自信が欠損していた。


「わた、し、ワタシハ、ダレ……?」


 自分自身を探し求めるその問いに、答える者は誰もいない。

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