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絶望の果て

 ところでロイとアメリア、二人が病室で談笑していたその頃、ユウキ・ミサカもまた第九八番天蓋区画内の総合軍病院を訪れていた。

 と言っても今回は想いを寄せる上官に会いに来たのではなく自身の健康診断のためである。

 もちろん病院に来たからには上官に挨拶ぐらいはしていきたいと思ってはいるが、それはあくまでついでだ。

 採血の検査を終え、病院の廊下を歩いていると見覚えのある車椅子がある部屋の前に置かれているのを見つけた。

 部屋の前にぽつんと置かれた型の古い車椅子は間違いなく彼女のものであるはずだが、当の本人はそこに腰掛けてはいない。俺は首を傾げた。


「なんで、こんな所にあるんだ?」


 思わず歩み寄る。

 この車椅子の主は両足が動かせない。だから、車椅子だけがこんなところに放置されているというのは不可解だ。


「……一〇三番……区画でラー……フに……いたのは、ロイ?」


 部屋の中から漏れてきた彼女の声を聴いたのはそんな時だった。

 思わず病室の出入り口の方へ視線を向ける。複数の入院患者の相部屋となっているその部屋の扉は空いていて、けれど展開された特殊ホログラムに遮られて中の患者の様子は見えない。

 続いて病室の部屋番号と共に記載されている入院者リストに目を向ける。

 記載された四人の名前の中に一人だけ知った名前があった。


――ロイ、グロードベント……?


 確かアウルローゼでの戦闘で捕獲した純白の機体のパイロットの名だ。

 治癒カプセルによる治療が最近完了したとは聞いていたが……。

 気づけば俺はその会話の内容に聞き入ってしまっていた。

 そして俺は知ってしまったのだ。

 まず彼女、アメリア・ヒューリスとロイ・グロードベントがかつて英雄と称されていた上限越えの勇者たち(オーバーブレイブス)の生き残りで、かつての仲間であること。

 かつての仲間であるなら、以前第一〇三番天蓋区画での戦闘で彼女が純白の機体を撃てなかったその理由に納得がいく。

 次に、彼女が秘密裏にグロードベントへの支援砲撃を行っていたこと。

 この事実を上層部が知れば無論黙ってはいないだろう。

 そして最後に、ロイ・グロードベントが俺が密かに憧れを抱いていた明けの明星(ルシフェル)本人であるらしいということ。


「……嘘、だろ……」


 思わず絶句した。心に風穴でも開けられた気分だった。

 俺が一方的に憧れを抱いていただけだと分かってはいるけれど……。

 それでも、今まで自分が憧れとしてきた人と戦っていたのだと思うと絶望を隠し切れない。

 俺が知っている明けの明星(ルシフェル)は故郷を救った英雄で、弱き者たちのために剣を振るう絵に描いたような正義の味方だ。決して軍に反逆をするような人ではない。

 だからこそ俺は彼に憧れて軍人にまでなったというのに……。

 考えれば考えるほど絶望が怒りへと転じてゆくのが分かる。


「……なんでだよ」


 きつく歯噛みする。

 その理由は原因は憧れだった人物に裏切られたような喪失感ともう一つ。

 ロイと話をする彼女の声がいつもと違ったのだ。

 控えめながらも抑揚があり、話し手の感情が伝わってくるような声音。

 俺と話す時はそんな感情のこもった声で話してくれたことなど一度もなくて、俺はそんな抜け殻のような彼女が心配で、一人彼女の味方であり続けようと決めた。

 それなのに今、別の男と話している彼女の声は聞いていて分かるほどに嬉しそうなのだ。

 俺はそれが悔しくて仕方なかった。

 正体不明の敗北感が俺を支配してゆくのが分かる。

 彼女と出会ってから一年以上もの月日が流れ、確実に彼女に近づけていると、そう自分では思っていた。

 けれど、どうやら俺が積み上げてきた程度のものじゃ、彼女の心を開くには至らなかったらしい。


「……ロイ・グロードベント」


 胸の奥底から湧き上がる黒い感情とともに吐き捨てる。

 あの男が彼女を狂わせたのだ。

 あの男がいなければ、きっと彼女は”仲間殺し”などという汚名を着せられずに済んだのだ。

 あの男が、いなければ彼女がこんなに傷つくこともなかったはずだ。


「お前さえ……」


 そうだ、あの男さえいなければ俺は彼女と一緒になれたはずなのに……。


「お前さえいなければ……!」


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