間章 不吉な予感
「……ロイさん……?」
獣たちが住処としている場所を取り囲みむように広がる大森林、生い茂る木々の中でも一際大きく、獣が“神木”として崇める大樹の下で祈りを捧げていたリンはふと顔を上げた。
乾いた風が頬を撫でる。遥か頭上、大樹の葉が擦れ、葉の間から差す木漏れ日が瞬く。
正しく着込んだ獣の伝統衣装の胸元から感じた違和感の原因とも言える首飾りを引っ張り出してみる。
細いチェーンの先、木漏れ日を受けて鈍く輝く流線型の飾り、翼をモチーフにしたというそれは元々同じ二つの物がついになっていたが、その片方は現在彼が持っている。
霊魂を宿し、互いに引き合っているその首飾りだが、その反応が一瞬強くなって、そしてすぐに極端に弱くなったのを確かに私は感じ取った。
「……嫌な、感じがします」
ぽつりと呟く。
普段あまり目立った反応を示さない首飾りが妙な反応をしたことが、私が元から抱いていた不安に拍車を掛けてくる。
本当は今すぐにでも彼を探しに行きたいけれど……。
少し迷ってから首を横に振る。
「探しに戻るなんて、駄目ですよね……」
そう、彼は私を逃すために命を掛けて戦ってくれたのだ。今私が彼を探しに行ったとして、逆に人間に捕まってしまうようなことがあれば彼の覚悟と決意が全て無駄になってしまう。それだけは絶対にあってはならないことだ。
では彼を探す以外の方法で自分に出来ることは何か。考えてみるけれど答えは見つからない。
途端に何もできない自分がどうしようもなく悔しくなった。
「ロイさん……」
両の掌を合わせ、指を交差させて握る。錫杖を持ち合わせていないときの祈りの作法だ。
神木の葉を揺らす一陣の風が吹き抜けた。
「私は貴方に何をしてあげられるのでしょうか……?」
その言葉は静寂に包まれた森によく響いたが、彼に届くことはなかった。