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折れた翼

 アウルローゼ周辺で一連の襲撃犯である純白の機体を取り囲むように展開する第◯六治安維持機甲隊。

 その隊員の一人であるヴァッサー・シュパイヤーは自身の機体である〈エストック〉のコクピットの中、メインスクリーンに映る二機の〈インパルスフレーム〉を睨みつける。

 一機は片腕を失い、全身の装甲にも傷が目立つ襲撃犯の機体。そしてもう一機はアメリアヒューリス中尉の乗るモスグリーンとダークグレーの装甲を纏った狙撃型の機体。

 両機は先程から互いに組み合ったまま動かない。

 今なら敵機は的も同然だ。

 強く握った操縦桿を操作。

 〈エストック〉が三七ミリ機関砲を構え、メインスクリーンにレティクルが表示。

 ロックオンしようとするが……。


「チッ、野郎、あの女を盾にしてやがるな」


 純白の機体は上手くヒューリス機を盾にしているようで、この位置からは狙えない。

 引き金に掛けた指を離そうとして、ふと思った。

 はたしてあの女は仲間なのだろうかと。

 彼女は仲間を平気で撃ち殺し、部隊の作戦に大きな混乱をもたらした。

 部隊の中には今でもその恐怖を拭えていない者も多い。

 彼女がこの部隊にいる限り、俺たちは前の敵だけでなく後ろにも警戒をしなければならないのだ。

 それならいっそ……。

 俺は口の端を吊り上げて笑った。

 直後、レティクルがロックオンを示す緑色に変化。

 狙うのは敵機である純白の機体だが、そのレティクルの中心に映るのは()()()()の背中だ。

 原因不明の電波妨害(ジャミング)のおかげで相手の機体にはロックオンアラートも響くまい。


「悪く思うなよ。仲間殺しが仲間に撃たれて死ぬ。当然のことだろ……」


 俺は口元に浮かべた笑みを崩さず、低く嗤いながら言った。


「むしろ仲間の手で逝かせてやるだけ上等さ。お前なんかには砲弾がもったいねぇくれぇだ」


 ロックオンを示したレティクルが時間経過によって点滅を開始。


「死んじまえよッ! 仲間殺しがッ!」


 俺は引き金を引いた。


 *


 突然の砲声。

 それが目の前のアメリアの機体を狙っていると分かった瞬間、ロイの身体は勝手に動いた。


「リアッ!」


 回避は間に合わない。だとすれば取るべき行動は一つだ。

 僕の操作に応えるように〈ラーグルフ〉が動く。

 狙われていたアメリア機と飛来する砲弾の間に機体を滑り込ませ、〈ラーグルフ〉自体を盾にする。

 着弾。


「ぐっ……!」


 コクピットを揺さぶるような衝撃と鼓膜を揺らす被弾警告の音。

 右腕のスモールシールドが砕け、継ぎ接ぎだらけだった装甲が小爆発とともに剥がれる。

 やがて爆発による煙が晴れるとすぐに僕は砲撃を行った機体の方へと視線を向けた。

 メインスクリーンの中央に映るメネア連邦軍の量産型〈インパルスフレーム〉である〈エストック〉。


「味方ごと敵を撃つのかっ?!」


 僕は驚きを隠せない。

 いくらレイが言うように軍パイロットの練度が低いとはいえ、後ろから仲間を撃つなどという過ちを犯すとは思っていなかった。

 正確に背後からリアクター部分を撃ち抜くように合わせられた照準。被弾していればアメリア機は一瞬で爆散していたことだろう。


「いや、まさか……」


 僕はある一つの結論へと辿り着き、一度両の瞳を瞬く。


「最初からそのつもりで……!」


 メインスクリーンに映る敵機を睨む。

 相手が何故アメリアを殺そうとしたのか、その理由は分からない。

 しかし、理由はどうあれそんな非道が許されるはずがない。

 少なくとも僕は許すつもりは無かった。


「これが、民を守る立場の人間がやることかっ!」


 湧き上がった怒りに反応するようにもう一人の自分が嗤う気配。


――いいぜロイ! ()っちまえよっ!


 レイの声に押され、左右の操縦桿を前進位置へと傾ける。


「絶対に、許さない!」


 直後、〈ラーグルフ〉が急加速した。


 *



「庇った?!」


 〈エストック〉のコクピットの中でヴァッサーは驚嘆にも似た声を上げる。

 仲間殺しの機体を狙って撃ったはずの砲弾は、狙っていた相手には当たらなかった。

 敵であるはずの純白の〈インパルスフレーム〉があの女の機体を庇って、代わりに砲弾を受けたのだ。

 思わず舌打ち。狭いコクピットの中、それはよく響いた。

 砲弾を受け切った敵機がこちらを見据える。

 その凍てつくような蒼の瞳に俺は一瞬、怖気ににも似た何かを感じた。

 相手が急接近。咄嗟に操縦桿を後退位置へ引き込む。

 〈エストック〉が後退し、振るわれた敵機の刀が機関砲を掠めて空気を切る。

 弾倉(マガジン)部分を切られた機関砲を放り捨て、すぐさま腰部の鞘から長剣を抜く。

 機関砲が爆散し、立ち込める黒煙を突き抜けて純白の機体が距離を詰めてくる。


「くそったれがッ!」


 俺は〈エストック〉に突きの構えを取らせる。

 相手の武器である刀は刀身が半ばから折れている。単純なリーチの長さではこちらが上だ。

 長剣を突き出す。しかし、あっさりと刀で受け流された。

 漆黒の刀が振るわれる。

 膝の間あたりのサブモニターに映る機体図の右肩からその下が赤色に点滅。

 それは即ち、自機の右腕が切り飛ばされたことを示している。

 続けざまに先の折れた刀を突き出してくる敵機。


「チィッ!」


 咄嗟に後方へ跳躍して回避しようとするが、間に合わない。

 漆黒の刀の先端が〈エストック〉の腹部装甲を押し潰すかのように強引に突き刺さり、コクピットブロックのへと届いた。

 一瞬の間。そして喉の奥から熱いものが込み上げてくる。


「……がはッ……!」


 吐き出された粘性のある緋い液体がひび割れたサブモニターを緋色に染め上げる。

 視線を下方に向けるとコクピットブロックがひしゃげ、巻き込まれた自分の下半身がプレス機にかけられたように潰れていた。

 潰れた肉体から溢れ出た鮮血が歪んだコクピット内を赤く彩っている。

 助からないとその場で悟った。


――ハハッ、あの女を()ろうとして、その末路がこれかよ……。


 震える手で必死に操縦桿を動かす。


「だがな、俺もただでは、死んでやらないぜ……」


 罅割れたメインスクリーンになおも映り続けている純白の機体、こちらに突き出された相手の腕を〈エストック〉の左腕が鷲掴みにして固定した。


「……捉えたぞ」


 罅の入ったサブモニター。コクピットがひしゃげた影響で所定の位置から大きくずれてしまっているもののまだ動く。

 俺は画面に特定のコマンドを入力すると確認文とともに指紋認証画面が表示された。

 薄く嗤う。


「死なば諸共ってな……!」


 サブモニターに自身の手を押し付ける。

 指紋を読み取ったことを示す電子音が鳴った。


 *



『……捉えたぞ』


 辛うじて生きていたらしい相手パイロットの声を〈ラーグルフ〉のコクピットの中で聞いた。

 それと同時に目の前の〈エストック〉の左腕が突き出されたままの〈ラーグルフ〉の右腕を掴む。


「なっ……?!」


 咄嗟に操縦桿を操作、掴まれた腕を振り解こうとするが、先程の被弾の影響か腕部の関節の出力が落ちていてそれが出来ない。

 メインスクリーンに映る〈エストック〉へと目を向ける。

 〈ラーグルフ〉の突き出した刀はその機体の胴を貫き、その刃は間違いなくコクピットブロックへと届いているはずだ。

 この状況では相手のパイロットが生き絶えるのも時間の問題だろう。

 そこまで考えて相手の取り得る手段にたどり着く。


「……こいつ、自爆する気か!」

「させねぇッ!」


 レイがサブモニターに触れる。モニターに機体図の右腕が切り離されるモーションが表示。

 続いて実際の機体の右腕がパージされて、束縛から解放された〈ラーグルフ〉が下がろうとする。


 爆発。


 一瞬でコクピット内の全てのスクリーン画面が消灯、そして割れ飛ぶ。


「ぐああああっ!」


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