同類
ミサイル攻撃によって格納庫を爆撃され、施設防衛のための戦力が大幅に削られたアウルローゼだったが、実は一機だけ爆撃を免れた〈インパルスフレーム〉があった。
その機体こそアメリア・ヒューリス中尉の機体、〈ベガルタ〉である。
格納庫内ではなく運搬用のトレーラー内に収容されていた〈ベガルタ〉は爆撃の影響を受けず、無事だったのだ。
格納スペースが足りなかったという理由で格納庫内に入れられなかったが、恐らくそれは建て前と言うやつだろう。
――馬鹿な奴らね。嫌がらせのつもりがなんて様。
アリシアの嘲笑を含んだ声が脳内に反響する。
〈ベガルタ〉のコクピットの中で私は機体のシステムを立ち上げつつ苦笑した。
そう、嫌がらせだ。私以外のパイロットが申し出たのか、それとも整備クルーの意思なのかは知らないが、わざと格納庫には収容せず、出撃時に整備の遅れを理由に出撃を遅らせるつもりだったのだろう。
しかし、今のこの状況ではそうもいかない。何せ動けるのはこの〈ベガルタ〉だけであり、その出撃を妨害するということはここで死にますと言っているようなものだ。
さすがにそれは他の士官たちもわきまえているようで整備を急いでくれている。
『ヒューリス中尉』
古臭い有線通信による通信。その声から相手がミサカ准尉だと分かる。
『ベガルタは動けそうですか?』
「……エナジーパックの装着が、あと少しかかる」
『了解です。終わり次第、連絡をください。トレーラーの上部ハッチを開けます』
「……了解」
通信の向こう、ミサカ准尉がくすりと笑ったのが聞こえた。
「……どうしたの?」
「いえ、ざまあないなと思って。きっと中尉に嫌がらせした罰が当たったんですよ」
「そう、かもね……」
「絶対そうですって」
愉快そうに笑ってみせる准尉。少年のように笑う彼のことを少しだけ羨ましく思いつつサブモニターに目を向ける。燃料の残量表示を確認、どうやら整備は終了したようだ。
メインスクリーンの端で整備クルーが完了の合図を出しているのを確認して通信を入れる。
「准尉、いいよ」
『了解です。ハッチ開けます』
直後に重い金属音、ゆっくりとハッチが開き、差し込んだ明るい日の光が機体のダークグレーとモスグリーンの装甲を照らす。
「先程アウルローゼ敷地内に所属不明機を確認したようです。中尉、くれぐれもお気をつけて。俺もすぐに追います」
「うん」
「それと……」
言いかけてミサカ准尉は言い淀む。通信越しに聞こえる微かな呼吸音。
「俺はまだ貴方の味方のつもりです。困ったときはいつでも頼ってください」
「……うん」
小さく返事をして、私は左右に一つずつある操縦桿を握った。〈RAGE〉は既に起動済みだ。
ゆっくりと深呼吸。いつになってもこの瞬間は少し緊張する。
「アメリア・ヒューリス。ベガルタ、出ます」
*
アウルローゼ敷地外へ出て、戦闘域の離脱を急ぐ〈ラーグルフ〉。
収容されている獣たちを解放するというアウルローゼでの目的はすでに達成され、残るは現地点から離脱。それが完了すれば作戦は完遂される。
そのはずだった。
突如飛来した特殊貫徹弾が〈ラーグルフ〉の進路を妨害する。
元から被弾させるつもりは無かったのか、砲弾は機体のすぐ近くの砂地に着弾し、砂漠特有の粒子の微細な砂粒が大量に宙を舞った。
「……ッ?!」
直前の警告でそれを知った僕は〈ラーグルフ〉を急停止、機体をアウルローゼの方へと振り返らせる。
メインスクリーンには所々から煙の立ち上るアウルローゼが映る。一瞬のロードの後、機体のセンサーが捉えた映像がメインスクリーンの端にポップアップ表示される。
アウルローゼ敷地外の砂地に膝立ち状態でロングレンジライフルを構えるモスグリーンとダークグレーの〈インパルスフレーム〉。
一目で長距離狙撃型と分かるその機体の頭部、バイザーのような特殊装甲が上にスライドし、隠れていた二つのカメラアイとそれを覆うクリアグリーンの保護装甲が露出する。
「……驚いた。まだ動ける機体があったなんて」
再び敵機の頭部のバイザー型の装甲が下方へスライド。ロングレンジライフルを構える。
砲声。
再度飛来してきた貫徹弾を〈ラーグルフ〉が回避。
再装填と思われる時間を置いて、またも砲声。
しかし……。
〈ラーグルフ〉が回避動作を行うまでもなく、その砲弾はラーグルフの傍らを抜けて後方の大地を抉った。
「……当てるつもりがない、のか?」
僕は画面に映るその機体を見つめ、眉を寄せる。
当然、こんな殺る気のない戦い方を彼が許すはずがない。
「テメェッ!そんな半端な根性で……!」
案の定、レイが僕から身体を奪い取りスクリーンに映る機体を睨みつける。
同時に〈ラーグルフ〉が右手でバックパックにマウントしていた漆黒の刀を抜いた。
「戦場に出てきてんじゃねぇ!」
レイが吼え、操縦桿を前進位置に叩き込んだ。
〈ラーグルフ〉が急加速。瞬く間にアウルローゼへと舞い戻り、狙撃型の〈インパルスフレーム〉へ向けて刀を振るう。
敵機が上半身を仰け反る。あと少し接近していれば、あるいは刀の刀身が半ばで折れていなければ届いたであろう刃は虚しく空を切った。
相手の機体が全身のスラスターを起動させて跳躍、距離を取る。
「待ちやがれッ!」
後を追う〈ラーグルフ〉。
――レイ。そいつに構ってる暇はない。撤退だ。
「るせぇ、黙ってろ!オレはヤツに一発かますまでは退かねぇ!」
相手がロングレンジライフルを構えるその前にその間合いの中へ滑り込む。
振るった刃はまたも躱された。
――なんだ……?
僕はメインスクリーンに映る狙撃型の〈インパルスフレーム〉見やって思う。
――相手の動きが妙にいいな。
必要最小限の動きで振るわれる刃を躱してみせる敵機。
その動きは他でもない〈ラーグルフ〉とよく似ていた。
――まるで生身の人間のような滑らかな動き。これは……。
答えはすぐに見つかった。
「コイツ、RAGE持ちかッ!」
同じ結論に至ったらしいレイがメインスクリーンに映る〈インパルスフレーム〉を睨みつけたまま言う。
――狙撃型のIF、そしてRAGE……。
少し考えて思い至る。
かつて共に戦っていた彼女の控えめな笑みが脳裏を過った。
――まさか……!
「ロイ、やっぱお前もそう思うか?」
――ああ。
即答する。
薄く笑ったレイ。〈ラーグルフ〉が刃先の無い刀でに突きの構えを取る。
一瞬、相手がたじろいだ。
そして今までとは異なり、大きく右に回避。
その瞬間に僕は、おそらくはレイもその機体のパイロットが誰かを確信する。
突き。それは元々接近戦が得意ではなかった彼女が回避を最も苦手としていた構え。相手に突きの予兆が見えたその瞬間に大きく右へ回避するのは昔からの彼女の癖だ。そして回避したその後に機体を大きく飛び退らせるのもまた、彼女の癖。
突きを回避した長距離狙撃型が大きく後ろへ飛び退く。
その進路を予想していた僕たちは直線距離でその機体へと接近する。手にしていた刀をバックパックにマウントし、彼女の機体の手を掴んだ。
「間違いねぇ。テメェ、リアだろ!」




