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想いの具現

 レイ・グロードベントは舌打ちした。

 ここはアウルローゼの屋上。

 段々と登りつつある太陽の日差しが灰色のコンクリートの床を照らす。

 オレが一歩二歩と後退するとすぐに屋上階の端であること知らせるように転落防止用の柵に背がぶつかった。

 目の前にはスラビア共和国とメネア連邦、両国の兵士たちがオレを取り囲むようにアサルトライフルを構え、射撃体勢でこちらに向けている。低く見積もっても十人以上はいるだろうか。

 とりあえず共和国の腑抜けた女を殺し損ねたことには目を瞑るとして、何故こんなことになってしまったのか。

 本当ならば暗闇に紛れて退くつもりだったのだが、降りようとした階段の下方から別動隊が来てしまったために降りることができず、屋上階へ逃げた結果がこれだ。


――すまない。僕があの獣と話し込んだから……。

――うるせぇ。黙ってろ。


 謝り倒してくる相棒を黙らせて、オレは必死に思考を巡らせる。


――この高さから飛び降りるのは論外……正面突破をするにても……。


 こちらに向けられたアサルトライフルの銃口を睨みつける。

 銃弾を避けて突破するには数が多すぎる。いくつかは避けられたとしても階下にたどり着く前にミンチにされるのがオチだ。


――ここを切り抜けるのは、やっぱり厳しそうだね。

――うるせぇ。今考えてんだ。黙ってろ。


 口を挟んできた相棒を黙らせてもう一度状況確認。けれどもやはり、今の状況を打破する手立ては思いつかない。


――なぁ、ロイ。一つ聞くが、お前、ここで死ねるか?

――まさか、そんなことできるわけないだろ。


 即答。危機的状況だというのに意志だけは立派なものだとオレは思わず嗤ってしまった。


「ハハッ。なら、行くしかねぇよなァ……」


 たとえ無理だと分かっていても、そうするしかない時はある。

 手にした拳銃を軽く握り直し、両足に力を込める。


「オレ達はこんな所で、死ねねぇッ!」


そして踏み出した一歩。熱を持った風が何かを訴えかけるように頬を撫で、そして()()()


 *



――ここで死ねるか?


 ところで声にはならなかったはずのその言葉を聞いている者たちがいた。

 光を纏った彼らは互いに仲間を集い、アウルローゼ付近の密林のある場所に集まる。

 光学迷彩の外套を羽織ったまま膝を折って静かに佇む純白の〈インパルスフレーム〉。その周囲が光を纏った彼らに照らされる。


――まさか、そんなことできるわけないだろ。


 声にならないその言葉に彼らは、()()たちは強く反応する。

 その輝きは次第に増していき、そして次の瞬間に何事もなかったかのように消えた。

 一瞬の静寂。

 唐突に短い駆動音を上げ、スリープ状態だった不朽駆動炉が稼働。パイロットの乗っていない無人の状態にもかかわらず、機体がゆっくりと立ち上がる。


「こんな所で、死ねねぇッ!」


 その言葉に呼応するように機体の頭部、昏かった二つの瞳が蒼く輝く。

 左腕の失われた機体は残った右腕でその身に纏っていた光学迷彩を脱ぎ捨てるとともに、両膝を屈曲させ、勢いよく蒼天へと舞い上がる。

 自身の主の声に応えるために……。


 *



「なんだ……あれ」


 アサルトライフルを構えたまま僕を取り囲む兵士の一人が唐突にそう言った。

 ロイは前へと踏み出そうとしていた足を止め、彼らが指差す群青の空へと目を向ける。

 損傷の激しい〈インパルスフレーム〉が一機、蒼天を舞いながらこちらへと降下してきている。

 太陽光を受けて眩しく輝く純白の装甲。僕は思わず目を丸くした。

 そして僕を取り囲む兵士達もまた、驚きを露わにする。


「IF?なんであんなに高く飛べるんだ?!」

「こ、こっちに来るぞ!」

「全員、退避ー!」


 衝撃。

 兵士たちの悲鳴。舞い上がる土煙に僕は反射的に身構えた。

 吹く風が土煙を払った頃合いを見計らって、ゆっくりと瞼を上げる。

 罅割れたコンクリートの屋上、舞い降りてきた()()の下敷きになって潰れた数人の兵士の残骸、運良く生き残った者たちも後方で顔を引き攣らせている。

 低い駆動音とともにそれが前のめりになっていた身を起こし、青白く光る二つの瞳が真っ直ぐにこちらを見つめた。


「ラー、グルフ」


 目の前のその機体は答えず、無言で右の掌をこちらに差し出してくる。

 声は無い。けれど確かに“乗れ”という意図が読み取れた。

 小さく頷き、そして差し伸べられた鋼鉄の掌に乗る。僕を乗せた掌が動き、機体の胸の手前まで来て停止、胸部の装甲がスライドし、コクピットへと通ずる入り口が開く。

 搭乗者はいなかった。


「どうして……?」


 やはり、返る声は無い。その代わりに下方からの銃声が耳に飛び込んでくる。

 ちらりと視線を向ければ、生き残った兵士の数名がアサルトライフルをこちらに向け、その引き金を引いている。

 普段壁の中に引きこもり、平和に浸かりきっている彼らだが、いざという時に引き金を引けるだけの胆力は持ち合わせているらしい。

 僕は頭の中で渦巻いている疑問を一旦放棄し、〈ラーグルフ〉のコクピットに滑り込む。

 既にシステムは立ち上がっていたので簡単な操作でコクピットハッチを閉じ、操縦桿を握る。


「ラーグルフ。何故パイロット無しにここまで来れたのか僕には分からない。けれどただ一つ分かることがあるとしたらそれは……」


 一度軽く息を吐いて呼吸を整えた。


「僕はまだ、リンを探せる」


 足元のペダルを強く踏み込み、左右の操縦桿を前進位置へと移動。

 〈ラーグルフ〉が大きく前へと跳躍した。

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