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翼の首飾り

 


 《明日、区画内を見て回りませんか。リン》



 置き手紙というものを初めて貰った。

 リンと言い合いをした日から一週間、僕は昨日いつの間にか部屋の机に置かれていた小さな紙に書かれた文面を見ながらそんなことを思う。

 肩の傷は今だに多少の痛みは残っているものの、既に傷は塞がり、順調に回復へと向かっている。

 それもシグルドの取り計らいで最新の治療を受けられているおかげだ。


 本来なら一週間という短期間に傷口を塞ぐことは不可能だが、最近の研究で負傷者自身の治癒能力を底上げする療法が確立されたことによりそれが可能となりつつある。

 もう一度、僕は手紙の文面に目を通した。

 ほとんどの連絡を電子端末におけるメールやチャットアプリで済ませてしまうこの世の中で、手紙という手段はかなり珍しいが、彼女は電子端末の扱いには慣れていないようだったからこちらの方が楽だったのかもしれない。


 私服の僕の横をアサルトライフルを担いだ兵士が不審げな眼差しで見つめながら通り過ぎる。続いて大型の軍用トレーラーが二台続けて通過。

 それもそのはずここは第一〇三番天蓋区画で最も大きい軍事基地の玄関口なのだ。

 何故かディーヴァルから昼前にここで待つように言い渡されたので、今まさに待っている最中なのだが、予定の時刻を過ぎても彼女が来る気配は無い。


「……やっぱり、嫌われてるなぁ……」


 小さく呟いた。

 分かっている。今回の喧嘩は自分が発端で彼女に嫌われているのは紛れもない事実。

 しかし、それでも、哀しいものは哀しい。

 電子端末の通知を知らせるバイブレーション音。すかさず取り出す。


「ディーヴァルからメッセージ?」


 指紋認証で端末のロックを解除し、文面を開く。

 僕は思わず顔を顰めた。


 《よぉロイ! 初デートはどうだ? 楽しんでるか? 俺はこれから任務だから手伝えねぇけどしっかり彼女をエスコートして……》


 途中で画面を消す。

 辺りを見回して彼女の姿が無いことを再認識。


「どういうことだ?」


 ゆっくりと息をつく。

 それから少し考えて、僕は基地の方へと歩きだした。


 *



「ここは、どこなのでしょうか?」


 ぽつりとリンはそんなことを呟いた。

 四方を見渡してみるものの、どこも同じような倉庫が並ぶばかりで、どちらへ向かうべきなのか、そもそも自分がどちらから来たのかさえも分からなくなってしまった。

 つまりは迷子である。

 霊魂に道を聞こうにも、隔離された天蓋区画の中は極端に霊魂が少なく、聞こえるのは天蓋区画の外からの声のみだ。

 深いため息。

 今日は耳と尾を隠すだけの簡単な術を用い、折角ディーヴァルの母君にデートとやらの正装を見繕ってもらったというのに……。


「ロイさん、もう帰ってしまったでしょうか……」


 罪悪感に胸を締め付けられる感覚。

 借り物であるスカートの裾をくしゃりと握りしめた。

 自分から呼び出しておいてこの様である。これでは尚のこと彼と顔を合わせることなど出来ないではないか。

 ショルダーバッグからろくに使わず、もはや時計代りとなっている電子端末を取り出し、時刻を確認。

 画面には予定より三十分後の時刻が映る。

 それでも、私はきりりと口を切り結んだ。


――まだです!


 諦めることは簡単であるが、そうすればもう彼とは顔も合わせられなくなるかもしれない。

 それだけは嫌だった。

 彼は私を信用して過去を打ち明けたはずなのに、私は何もできずにそのまま離れ離れになるなどあってなるものか。

 せめて、彼に会って一言。

 言えずにいる”ごめんね”を……。


「言わなくちゃ……!」


 慣れない靴で駆け出そうとしたその時だった。


「おい、お前!こんな所で何をしている!」

「ひゃうっ?!」


 一瞬で総毛立った。隠した耳と尾が飛び出してしまったのではと焦ったが、”術”が解けている様子はなく、私は胸を撫で下ろす。


「お前は誰だ?ここは関係者以外立ち入り禁止のはずだぞ!」


 そう言って荷物運搬用のトレーラーから降りてきたのは人間にしては年配の軍人だ。

 年齢は五十代くらいだろうか、日焼けかそれとも元からなのか濃ゆい肌色で白髪混じりの黒髪、軍服ではなく整備用の作業服を着ている様子から整備クルーだと予想がつく。


「いや、えっと、あの、私……」

「ここはガキがお遊び気分で来ていいところじゃあないんだぞ!不法侵入だ」

「ひ……!」


 太い眉が眉間に寄る様はまるで鬼の形相。私は自分でも分かる程に怯えきってしまった。

 ぐい、と強引に手首を掴まれる。


「来いっ!」

「あっ、ちょ……」

「待ってください」


 唐突に割り込んだ三人目の声。私の手首を掴む整備クルーの手を一人の青年が掴んでいた。

 私のよく知る黒髪緑眼の青年。思わず目を丸くした。


「ろ、ロイさん……!」

「あァ?誰だお前、というかお前もこんな所で何してやがる」


 整備クルーの威圧的な眼光にも彼はまったくひるむ様子を見せない。


「すみません。迷子になった彼女を探していたんです」


 流れるように私の手を握る彼。直接伝わってくる体温が固まっていた私の心をほぐす。


「まったく、近頃の若ぇ奴は、浮かれやがって、出口はこの先を右だ。早く行け」

「お騒がせしました。さぁ、行こう」


 彼は私の手を引いて、急ぎ足でその場を離れた。


 *


 通りすがりの整備クルーに不法侵入者と疑われていたリン。

 僕は助け出した彼女の手を引いてそのまま隠れるように倉庫の裏手へと回る。

 先程の彼が追ってきていないことを確認、そして大きく息をついた。

 整備クルーの鬼の如き鋭い眼光、出撃の度に無茶な戦いをして機体を壊し、その度に怒られていた僕にとって、整備をする者のあのような視線は恐怖の対象なのである。


「ろ、ロイさん……」

「やっと見つけた。まったく、誘ったのは君だろ?」

「それは……ごめんなさい」

「いや、別に謝ることでもないと思うんだけどさ……君、その格好はどうしたのさ」


 僕は彼女の容姿を足先から頭の上まで順に目で追って言った。

 白のブラウスに紺色のフレアスカート、さらにベージュのサンダルと服装が違うのはもちろんのこと、髪もしっかりと結い上げていて、何というか、慣れない。


「あっ! これですか? これはディーヴァルさんのお母様に貸していただいたのです。髪も結ってもらいました」


 彼女は一度微笑んで、それからあてもなく視線を彷徨わせると軽く頰を掻く。


「あ、あの、どうでしょうか?」

「どうと言われても……僕は女性のファッションに詳しいわけじゃないし、でも、ディーヴァルのお母さんが選んだ者なら間違いないんじゃないかな」


 彼女を不快にさせぬように慎重に言葉を選びつつ、正直な意見を述べたつもりだったのだが、思いの外彼女の表情が曇った。


「私はロイさんの意見を聞いたのですよ……」


 頰を膨らませて態とらしく捲れるリン。僕はファッションよりもそちらに心を打たれてしまった。


「……ま、まぁ、可愛いし、似合ってる」

「そうですか! よかったです。ほら、ちゃんと術を使って人間の耳も付けたんですよ」


 自身の髪を掻き分けて、自慢げに人間の耳を見せてくるリンはどこか子供のような、無垢な微笑みを浮かべる。

 確かに作り物にしてはその耳はよく出来ていた。

 少なくとも人間のそれと見紛うほどには。


「では、行きましょうか」


 機嫌を取り戻したらしいリン。そんなことを言いつつもと来た道を再び歩いて戻ろうとするのだから僕は溜め息を禁じ得ない。


「リン、基地の出口はこっちだけど?」


 リンの進もうとするその方向の逆を指差して言った。


「えぇ?!」


 段々と彼女の白い肌が朱に染まってゆく。


「う……ろ、ロイさんのいけずぅ……!」

「え、僕のせい……?」

「違います、けど……せめて、もう少し早めに教えてくださっても……」


 彼女は俯き、そう言う声もだんだんと小さくなる。

 僕は少し考える。そういえば第一◯七番天蓋区画でも迷子になっていたか……。

 ほんの少しだけ迷って、それから右手で彼女の左手を握った。


「ロイさん……?」


 リンの瞳が真っ直ぐに僕の顔を見つめる。

 恥ずかしくなった僕は目を逸らし、空いている左手で頬を掻いた。


「ほ、ほら、こうしてれば迷子にならないだろう?」


 彼女の表情が納得と歓喜を色を帯びたものへと変わる。

 もちろん彼女の表情に恥じらいの気配はない。それが何故だか少し不満で、けれどすぐに原因不明のそれを振り払う。


「それじゃ、行こうか」

「はい!ありがとうございます!」


 僕たちは並んで一歩を踏み出した。




 と、出だしは好調だったものの出発からさほど時間も経たずして沈黙は訪れた。

 僕も、彼女も何一つ言葉を口にすることなく石畳の歩道を歩く。

 多くの車が行き交う大通り、その中央には路面電車が通る。

 通りに面した洋風建築の店々からバーゲンセールを知らせる店員の声や商品の宣伝をする放送が聞こえる。


――平和だな。


 ここ第一◯三番天蓋区画は貴族も多く住まう場所である。

 故にここでは貴族から多額の融資がなされ、徹底した環境維持や街づくりが行われている。

 環境維持設備が次々と寿命を迎え、スモッグが多発している第一◯七番天蓋区画とは違うのだ。

 僕は隣を歩くリンの横顔をたまに窺いつつ、ずっと考えていた。

 何を、とは問われるまでもない。いつ彼女に謝るべきかを、だ。

 最初に謝罪をするべきだと思っていた。だからするつもりで待っていた。けれど、現実とは謝罪も思うようにできないほどに上手くいかないもので、僕は完全にタイミングを逃してしまっていた。

 そしてようやっと覚悟を決めて話を切り出そうとすると……。


「リン」

「ロイさん」


 声が重なる。

 ざまあ、と自分の中にいるもう一人が嗤ったのが聞こえた気がしたが無視した。


「リン、先いいよ」

「い、いえ、ロイさんからどうぞ」


 一瞬の間、その一瞬で呼吸を整えて僕は口を開く。


「この前は、悪かった。僕、生きる理由を探すことにした。無いなら探せって言われちゃったからさ」


 リンは目を丸くして数回瞬き、それからゆっくりと笑みを作った。


「そう、ですか。それは良かったです。じつは私も今から謝ろうとしてたんです。先日はごめんなさい」


 彼女はまたしても、学校での自己紹介の時と同様に異様に整ったお辞儀を返す。

 他人が行うのとはまるで違う、どこか品のある礼儀作法。


「あ、あの!」

「うん?」


 逡巡した様子でもじもじとしながら、上目遣いにこちらを見つめるリン。


「……痛く、なかったですか……?」


 思い至って、ああと息を漏らした。


「まぁ、痛く無かったって言ったら嘘になるな」

「わああっ!ごめんなさいごめんなさいっ!」


 謝り倒してくるリンともう一人、小さく笑う声が聞こえて僕は思わず声の主の方へと視線を向ける。

 商店の並ぶ歩道の端で女性が一人、こちらを見つめてくすくすと笑っていた。


「あら、ごめんなさいね。貴方達がとても面白いからつい」

「えと、貴女は……?」

「私?私はこの店の店員」


 そう言って大通りに面した少し古びた感のある金属細工の店を指差す。僕たちは丁度店の前に立っていた。


「み、見てたんですか?」

「そりゃあ勿論、結構目立ってたわよ貴方達」


 小悪魔めいた笑み。

 リンが頬を赤らめて俯き、僕が遠方に視線を逸らす。


「ねぇ、お似合いのお二人さん。うちの商品見ていかない?」


 流れるように女は続けた。

 なるほど、と頷く。

 いきなり話し掛けてきたのはそういうことか。

 女は商人、僕もリンも買い物の経験が少ないことぐらい予想済みだろう。

 だからこうして極一般的な商法で言い寄る。

 僕は首を横に振った。


「折角ですがお断りしますよ。行く所があるので」

「あらそう?残念ね。でも……」


 女は振り返る。後ろで一つに結ったプラチナブロンドの髪がふわりと靡いた。

 視線の先には彼女の店である金属細工店と興味有り気に店頭のガラス戸を覗き見るリンの姿。


「彼女さんの方は興味あるみたいよ?」

「…………」



 *


 知らぬ間に、引き寄せられるように私は金属細工店に歩を進めていた。

 理由は分からない。けれど、何となく()()()()()()気がするのだ。

 店頭のガラス戸を覗く。赤系統の光に照らされた木材をふんだんにあしらった店内、並べられたアンティークの棚やテーブルに所狭しと並べられた金属細工。

 その一つ一つから微かにではあるものの”彼ら”の気配を感じる。


――不思議です。箱庭の中に霊魂がいるなんて信じられません。


「お客さん」

「……ひゃあっ?!」


 いきなり耳元で囁かれて反射的に両の肩を跳ね上げた。

 すぐさま臀部に手を回して”術”が解けていないかの確認。そして安堵の息を吐くと無意識に両肩から力が抜けた。


「窓越しに眺めるよりも店入って直接見たほうがいいと思うわよ?」


 言いながら、店の扉を開けて入るように促すのはこの店の店員だという女性だ。


「あ、ええと……」


 ちらりと彼の方を見やる。

 彼は小さな嘆息とともにその翠玉の瞳をゆっくり瞬いて、


「付き合うよ。好きなだけ見ていくといい」

「本当ですか!ありがとうございます!」


 私は喜んで店の中に足を踏み入れた。

 後方から女性が彼に”付き合う”の意味を言及し、彼がそれに対して否定をする声を聞いたが、私はそもそものその言葉の深い意味を知らず、会話の理解が出来なかった。

 さほど広くはないその店に入るとまず中心のテーブルに並べられている小物やアクセサリーが目に入る。

 そしてやはりそれらからも”彼ら”の声が聞こえた。


「うちの店の商品は全部パパ、店主の手作りなの。だから、どれも世界に一つしかないものなのよ」


 柔和な笑みを浮かべつつ店員の女性は言う。


「なるほど、この価格は手作りが故のものなんだな」


 そう言ったのは棚に並んだ置物を見ていたロイだ。

 どうやら品物よりも値札の方に目が行くらしい。


「ちょっと君!こういうのは値段じゃなくて質でしょ、質!」

「いや、でも……」

「でもじゃないの!君も男の子ならアクセサリーの一つや二つ彼女ちゃんにプレゼントしたことあるでしょう?!」

「いや、ない……というか、そもそも僕たちは……」


 店員と彼の楽しげな会話を他所に”彼ら”の声のする奇妙な商品を眺めていた私だったが、その中のあるものに特別興味を惹かれた。

 思わず手に取って眺めてしまう程、それは私の中の何かに強く反応した。

 おそらく銀製の首飾りだと思う。細いチェーンの先に流線型の小さな飾り、それらがその性質である金属光沢でもって店の赤系統の光を反射している。

 首飾りは対になっていて今私が手に取って眺めているものと同じものがもう一つ並べられている。


 そこまでは良い。私が驚いたのはその首飾り同士が互いに引き合っていることに対してだ。

 それほど強い力ではない。

 例えるならばそう、力の弱い磁石と磁石を近づけたり離したりしているような、そんな感覚。

 勿論その首飾りからも声は聞こえる。

 共にいる、と……。

 二つの首飾りに憑いた”霊魂”たちが互いにそう言い合っている。

 首飾りが引き合っているこの現象もこれが原因なのだろう。

 そしていつの間にか私はその首飾りに見惚れていた。

 共にいたいと互いに望むその在り方が何故だかとても心を和ませてくれる気がして……。


「店員さん、これ一つください?」


 唐突に響いた彼の声で私は我に還る。

 見れば彼の指が真っ直ぐ首飾りを差している。


「え、あ、ちょっ、ロイさ……」

「お客さん、そのネックレスは二つで一セットの商品よ」


 女性店員の悪戯っぽい微笑み。


「はい……?」

「ペアルックを目的とした商品だもの、当然でしょ」


 それにほら、と女性は未だテーブルの上にあったもう一つの首飾りを持ち上げて言う。


「これ、何に見える?」

「えーと、ブーメラン?」

「…………。彼女ちゃんは分かるわよね?」

「え……つ、翼ですか?」

「正解!流石ね!貴女の彼、目が節穴みたいだから大変そう……」


 くすり、と笑い。態とらしく女は言う。

 彼が少し眉を寄せたのが分かった。


「なんて失礼な店員だ」

「いいかね君!これは翼よ。翼は二つないと、片翼だけじゃ飛べないでしょう?」

「それは、そうですけど……」


 歯切れの悪い彼の返事。


「はい、まいどっ!」

「えっ?!」


 結局彼はその首飾りを買った。


 *


 あるカップルがネックレスを買って行った。

 その二人が出ていったのを確認して、店の奥の工房から出てきた男がいる。


「行ったか?」

「あ、パパ。うん、さっきのお客さんは行ったよ。ペアルックのネックレス買ってった」


 娘である店員が明るい笑みと共に行った。


「……そうか」


 父たる店主がゆっくりと頷く。二人の間に沈黙が落ちた。


「で、どう思う?」


 娘はタイミングを見計らって言った。


「どう、とは……?」

「見てたんでしょ?彼らのこと。私、半分ママの血が流れてるから完全に把握するのは無理だけど、それでも何となくあの二人のどちらかに違和感があるのは分かった」


 娘の言葉に父は小さく吐息を零した。

 そして再びゆっくりと頷く。なるほど、娘の言っていることは正しい。

 娘の父たる彼は人間と共に暮らすことを選び箱庭の中へと越してきた珍しい”獣”である。

 箱庭の中で暮らし、人間と契りを交わし、そして娘を授かった。

 故に今来た者がたとえ人間に化けていたとしても把握は出来る。

 きっと()()も同じなのだろう。

 なにせ店主である男の渾身の作品を選んで買っていったのだから……。


「お前の違和感とやらは当たっているな。あれは間違いなく獣。漆黒の髪と黄玉色の瞳。しかも、金属細工に憑いた小さな霊魂の声すらも聞けるとなれば……」


 少なくとも男が思い当たる者は彼女だけだった。



「……姫様……」




 *


 買った(と言っても半ば買わされたに近いが)ネックレスを袋ごと彼女に渡した。

 気が利かないと言われればその通りだが、僕にはこういう渡し方しか出来なかった。

 リンはというと早速それを紙製の袋から取り出して人口照明の光に翳している。

 彼女の瞳はまるで子供のように輝いていて、それを見れただけでも僕はこの買い物に意味があったのだと思えた。


「よほどそれが気に入ったんだね」

「はい!……でも、良いのですか?買って頂いて……」

「いいさ、手痛い出費なのは認めるけど、せっかく二人でここまで来たんだ。贈り物ぐらいあってもいいだろう」


 笑い混じりに僕は言う。

 リンは袋から対となるもう片方ネックレスを取り出して、迷わずそれを僕に差し出した。


「はい、どうぞ。これはロイさんの物です」


 優しく微笑む彼女。

 決してその笑顔に見惚れていた訳ではない。けれどその微笑みに言葉を返すことはできなくて、気づけばネックレスの片割れが自分の手の中で眩い光沢を放っていた。

 流線型の小さな飾り。なるほど、よく見ると確かにブーメランなどではなく翼だ。


「以前ミレイナさんから聞いたのですけど、ペアルックってお揃いという意味だそうですね」


 彼女は自分のそれのチェーンを摘んでこちらに掲げて見せる。


「ですからこれは私とロイさんのペアルックです」


 それからリンはくすりと再び微笑む。

 それは決して他意を感じさせないとても無垢なものだった。

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