3話 鉄板の東
鉄板の東と呼ばれるようになった話をしよう。
ある日の下校中、東は武器が欲しいと言い出した。
不良は武器を持つのが鉄則らしい。
いや、鉄則ではないと思うが。
むしろダサい気がするのだが。
坊主のキャシー北村はうんうんと大きく頷きながら、東の武器についての話を聞いていた。
あっという間にどんな武器がいいのかという話題になった。
「まぁ刀か木刀しかないよな。」
北村の武器の知識は底が知れているようだ。
「カバンに入るサイズのものがいい。”ポリ”に見つかるからさ。」
警察のことをポリって呼ぶのはダサすぎる。
「それ先に言ってくれねえと!そうなると銃とかスタンガンしかないよな?」
きっと他にもある。物騒なものしか出ない。
「なんかねえかなあ。」
ふと玉田が呟いた。
「昔の不良はカバンに鉄板を入れていたらしい。」
カバンを武器にするってやつは聞いたことがある。
しかし、カバンに合うような鉄板がないとも聞いたことがある。
東は玉田とがっちり握手をかわし、走ってどこかへ行った。
玉田は制服のズボンで握手した手を拭いていた。
翌日、教室で東がテンション高めの挨拶をしてきた。
「おいっす!!!!」
この前のけだるい挨拶はなくなったらしい。
「聞いてくれ。カバンに鉄板入れて来たぜ。」
「まじかよ!まじ不良じゃねえかよ!」
坊主のキャシーは嬉しそうに答えた。
「おうよ、これで誰にも負けねえぜ。」
東は鋭い目つきで呟いた。
玉田も小さく腕を組みながら頷いている。
東よ、お前そもそも、
リュックじゃん。
昔の不良は革製のクラッチバッグのようなカバンに、
鉄板を入れていたんだぞ。
すぐに戦える利点がウリのような武器だぞ。
お前のそれは重い鉄板を背負っているだけだ。
しかも鉄板じゃなくてフライパン入れてるのかよ。
昔の不良はカバンにぴったりの鉄板を入れていたんだぞ。
お前のそれは料理の旅でもしてるだけの人だぞ。
そんな人いないと思うが。
こうして、彼は鉄板の東と呼ばれるようになった。