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1-5-2 ファーストコンタクト その2

甲斐甲斐しく少女の世話を続けていると俄かに扉の向こうが騒がしくなる。

これまで少女の治療で手一杯だった為、後回しにしていたがゴブリン共の処遇は死刑一択である。本来であれば食物連鎖の中に組み込まれているなら互いに生きるために殺し合いもするだろう。仕方のない犠牲と百歩譲って割り切れない事もない。だが嬲り者にされ、目を背けたくなるような傷を負わされた少女の痛々しい姿を見た後では全ては世迷言である。

駆逐し排除する以外の選択肢は存在しない。倉庫に入ってくるようなら即刻行動するが、動けない少女を守りながらでは殲滅は難しい。せめて少女が隠れ潜む事が出来る程度には回復を待つつもりであった。臨戦態勢を整えながら状況を見守っていると扉が開き二つの塊が投げ込まれる。一つは頭がつぶされた男の死体ともう一つは白の貫頭衣姿の女だった。年の頃は20歳前後くらいだろうか、白い髪をしているせいなのか幸薄そうな顔をしている。女の方には目立った外傷は無く意識を失っているだけの様だ。女の方は少女の横に寝かせるが男の方はすでに頭部が柘榴のようになっているので常に視界に入る部分に放置するわけにも行かず死骸の山に運び積み上げておく。今までなら死体に触れる事も躊躇われたはずなのに今となっては気にもしなくなった。現代の生活からは考えられない変化に戸惑い恐怖する。知らず知らずの内に心まで人ではなくなっているのかもしれない。やはり孤独に魔物を相手にし続けるのは精神的影響が大き過ぎる。ここで人に出会えたことは僥倖だ。何としても守り切り共に迷宮を脱出必要がある。脱出した後も貴重な情報源となり得る。打算もあるが対策を練る為にも女の方には出来るだけ早く目を覚ましてもらわなくては。


女の頬を優しく叩きながら覚醒を促す。しばらく続けていると目をぱちくりさせながら目を覚ます。


「大丈夫か?」


「ここは?」

女は体を起こしキョロキョロと辺りを見回しながら尋ねてくる。頭が痛むのだろうか片手で押さえている


「ゴブリン共の保存庫だ。」


女は息をのむと信じられないと言わんばかりに首を振り両手で顔を塞ぎ嗚咽を漏らし始める。しばらくしても治まる様子は無く痺れを切らし女の両腕を掴み無理やりに落ち着かせる。ボロボロと零れる涙はそのままだが顔だけはこちらを向かせ、ここに来た経緯を問いただす。喋り始めると嗚咽で聞き取り難い事この上なかったが要約するに。


自分の名前はサーシャで18歳。最近まで教会で修道女になるべく修行していたが先輩の苛めに耐え兼ね脱走し食うに困り仕方が無く冒険者の道に入ったのだという。一緒にいた男は冒険者の先輩であり前衛職で自分は回復援護役のヒーラーとの事。冒険者のイロハを指導されている最中でまだ駆け出しなのだそうだ。一般的に回復役は需要が高く冒険者に重宝され駆け出しでも良いと依頼に誘われやすい。付近の街道でゴブリン襲撃の被害が増えた為、2人は商人から商品運搬の依頼を受けたのだと言う。本来ゴブリン程度なら先輩一人でも依頼を十分に完了できる筈だった。街道沿いにまで出てくる集団と言っても5.6匹の小集団が常であり今回襲ってきた集団は20匹以上の大集団で異常らしく最後には数の暴力に蹂躙され今に至るとの事だった。


未だに泣き続けるサーシャに告げるのは気が進まないが泣き止んでまた泣きだされるのも面倒と思い先輩の現在の居場所を教えてやる。涙の量が2倍になったようだが声を上げる事はこらえることが出来たようだ。


「回復が出来るのなら亜人の子の治療を頼めないだろうか?」

未だにぶつぶつ独り言を呟くサーシャは、こちらの話を聞いているのか不思議そうな顔をする。


「今更治療したって苦しみが長引くだけじゃないですか、いっそ楽にしてあげた方が・・・。どうせゴブリンに犯された挙句、苗床にされて最後には食べられちゃうんですよ。そんなの・・・。私だって出来れば苦しまずに・・・。」


また盛大に泣き出す始末。まぁ生け捕りにされている段階で利用できることは最大限利用しようって魂胆なんだろうけど質が悪いな。


「死なないし、苗床にもならない。この子を助けてくれるならサーシャの安全は俺が保証してやるよ。」

俺は見栄でも虚勢でもなく冷静にただ事実を告げる。


「巣まで連れてこられちゃってるんですよ。何匹いるか分かんないし、巣ってことはリーダーだっているんです・・・。あなたは何者なんですか?」

泣きじゃくりながらも希望を口にする男をサーシャは見つめ続けた。




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