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1-5 ファーストコンタクト その1

階層的に随分と登ってきた感覚がある。狭い通路を進んでいた洞窟に変化が現れた。まず通路の幅が広くなり天井までの高さも倍以上に高くなった。石筍や石柱が多くなり湿度がさらに増す。この雰囲気であれば付近に水場があるに違いない。環境の変化に空間の巨大化で魔物の種別にも変化が現れるかもしれないと警戒を強め慎重に進んでいると今までにはなかった新しい魔物と遭遇する。3匹ほどで通路を警戒しているようだ。体表が緑で大きさは0.8~1.2m。小さな小鬼のような姿にボロ切れを纏い、こん棒で武装している。鑑定をするまでもなく想像通りのゴブリンだが一応鑑定はしておく。


名称:名無し

種別:魔物<ゴブリン>

状態:良好

技能:群体

情報:下位種の魔物で食物連鎖の底辺に位置する。雑食性であり繁殖力も異常に強く他種族であろうと雌個体であれば種族は関係なく繁殖可能。知能は低いながら存在し、武器や罠などを利用して狩りをする。etc.



差し詰め下層のオークたちの主食ってことなのだろう。脅威にはならないだろうが少なからず知能があるなら意思の疎通の可能性を確認しておくことにする。慎重に驚かせぬよう声を掛ける。


「そこのゴブリン達よ、俺は下層からやってきた迷宮主だ。攻撃の意思は無い、出口を教えてくれないだろうか?」

両手の手の平を見せて小さな万歳のポーズで様子を見る。


「ギャ、ギャギャァ、ギャ」

ゴブリン達は相談するような仕草を見せ近づいてくるとそれぞれにズボンや腕を掴み

「ギャガヤ」

一鳴きして引っ張っていく。ゴブリンの言語なのだろうか?理解できないし鑑定でも反応がない。しばらく引っ張られながら連れていかれた先には巨大な空間が広がっており鍾乳洞を思わせるように窪みには水を湛えている。50匹程度のゴブリン集団の巣らしき場所だった。悪臭が立ち込める巣の中は乱雑に様々なものが転がっており鍬や鋤に鎌と言った農工具から食器などと言った日用品まで転がっている。どういう経緯でこの巣の中に持ち込まれたのかを考えると気が重くなるが、今は案内されるがままにしておく。俺の姿を見かけた巣の中のゴブリン達は様々な奇声を上げこちらを見つめるが近寄ってはこない。襲われないという事に気を良くし、魔物ながら最低限の意思の疎通は可能なのかもしれないと思って安心してしまった。

案内された巣の中の奥まった場所に簡素な扉が据え付けてある。押し込まれるようにして扉を潜らせられると背後で急に扉を閉められる。中はさらに暗くなっており臭気が立ち込めていた。口元を抑えながら先に進むとそこは小さな空間に繋がっていた。馬や羊などの家畜から木箱など雑多なものが置いてあり隅の方には動物の死体らしきものが山と積んであった。ここは主に倉庫兼食糧庫として使用されていることが窺える。先ほどのゴブリン達は洞窟内で新鮮な食料を見つけ倉庫に保管しに戻ってきただけという事になるのでは?出口に案内されていると思っていたのに保存食扱いされていたとはカルチャーショックの範疇を超えて怒りすら沸いてこない。まぁこの期に使えそうなものが無いか倉庫内を物色させてもらう事にする。近くにある布袋には記号の様なものが描かれている。記号を注視して鑑定すると


名称:人族共通語

種別:言語

品質:普通

情報:人族の共通言語


日用品と書かれているらしい。しかも一度鑑定済みの言語は修得済み扱いとなり日本語のように読めるようになっていた。便利過ぎる能力に感謝しつつ物色を続けると貧相な服であるが着替えることが出来そうな服を見つけることが出来た。さらに嬉しい事に革で作られた丈夫な背嚢も手に入れた。見た目は野暮ったいが機能さえ果たしてくれるのなら十分である。手に入れた背嚢に着替えを仕舞いつつ大きめの木箱に目をやる。側面に果実と焼き印が押してある。やっていることは完全に盗人だが、ゴブリン達も他から盗んできたに違いないし何より食料扱いされたのであるからこれくらいの事で罪悪感を抱く必要すらない。木箱の蓋を開けると中には林檎のような果実が詰まっていた。一応、鑑定能力で食べることが出来、尚且つ毒がない事も確認する。名前はアゴルの実と言うらしいが、さすがに悪臭が漂い死骸が累積されたような場所で食物を口にすることが躊躇われ非常食として背嚢に詰める事にする。他にも活用できるものが無いかと他の木箱に手を出そうとしていると視界の端に僅かな動きを捉える。死骸の山が動いた?本来であれば近づきたくもないが暗闇の中、動く死体と相席なんて冗談でもやめて欲しい。仕方がなく死骸の山に近づくとそこには家畜の死骸に混ざって人間のものと思われるちぎれた腕や脚も混ざっている。ここ数日でスプラッタに耐性が付いたと思っていたが、人間だったものが混ざると途端に耐性なんて吹き飛ぶ。こみ上げる嘔吐に耐えながら動きがあった筈のモノを探す。触るのも躊躇われるモノの山に恐る恐る声を掛ける。


「生きているのか?」

返答の代わりに足元にある手が動き宙を掴む。その小さな手を見た瞬間に無意識に死骸の山を掘り起こす。新しいものもあれば随分と放置され蛆のような虫が湧いているものまであるが今は目に入らない。躊躇することなく小さな手の主を死骸の山から救い出すと衣類の束を地面に敷きその上に寝かせる。着るものも与えられず痩せ衰え痛々しい姿に目を背けたくなる。年の頃は12.3歳といったところだろうか幼さの残る顔にも打撲痕や切り傷が多数できている。頭には柴犬の様な耳が生えているが髪の色と同じ黒色なので一見人間と見間違える。少女を手早く観察すると体中にはひどい傷があり出血が続いている。死骸に埋もれていたせいで出血箇所が特定できないくらいに血まみれになっている。特に腹と背中にある十字の傷が深い。子供ともとれる少女に対する仕打ちに腸が煮えくり返りそうになる。これは捕食と言った行為ではなく完全に嬲り者にされたものの姿だ。爆発しそうになる怒りを抑えつつ煙草を取り出し回復効果のある煙を集中的に患部に吹きかけていく。吹きかけては布で血を拭い綺麗にして傷の出血具合を確認する。背中と腹部の傷を癒した後に四肢や顔の傷を癒していく。傷口の治療をあらかた終え布切れを体にかけてやり、一息つき状態を鑑定で確認する。


名称:不明

種別:亜人族<犬種>

状態:衰弱<大> 奴隷<主人無>

技能:高周波感知 嗅覚強化

情報:亜人族は祖先の持つ特徴を体の一部分に強く顕現した種。純粋な人族に比べ平均能力が高く種族ごとの特殊能力を持つ。etc.


気になる部分は他にもあるが何とか状態が衰弱に留まっている。亜人種ってことになっているが基本的な外見は人と変わらない。ショートカットの女の子で犬耳があり尻尾が生えていた形跡もあるが無残にも切り取られてしまっている。まぁファンタジー世界の定番ってやつなのだろう。少女の事を考えながら箱の中からアゴルの実を取り出し口元で握りつぶし果汁を口の中に流し込む。弱々しくではあるが流し込まれた果汁をコクリと飲み込む。


「今はコレしかないがまだ飲めるか?」

極力刺激しないように優しい声音で語り掛けると小さく頷き涙を零した。





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