1-4 ハイブリッド
極度の疲労を抱えそれなりの広さの空間で休息をとる事にした。片手にこぶし大の石を握りここまで突き進んできた。オ-クを見つけた時点で石を投擲し貫通させるといった遠距離攻撃を主体としながら。近距離での遭遇戦に至っては拳や蹴りで体を割くという方法でのゴリ押し作戦でここまで来た。最初の頃は肉を割く感触、骨を砕く感触に忌避感を覚え数回嘔吐したが、今となっては純粋に慣れである。思う事が全くないとは言わないが一度中身を被ってしまった以上に最悪な事は早々起こるもんじゃない。それに容姿の問題は大きく貢献していると言わざるを得ない。一概に豚の様な頭とは表現しているがこれが瓜坊のように体毛に覆われ愛くるしい姿をしていたなら精神的ダメージはとっくに限界値を振り切れていた事だろう。涎をまき散らしながらフゴフゴ行っているあの醜悪さと悪臭には若干の感謝を覚えつつも自分の体の変化についてじっくり考えてみる。ここに来るまで何度かは無機物有機物に問わず鑑定を行っていたが自分自身には一度も行っていなかったことに気が付き鑑定してみる事にした。
名称:名無し
種別:人族、魔族<ハイブリッド種>
状態:衰弱
技能:鑑定 火炎操作 回復<微> 思考加速<大>
情報:人族と魔族を内包しどちらの種としても識別可能。より上位種とのパスにより世界の理を知ることが出来る。理の楔より解き放たれし存在。交配により生まれる種族はすべて雌型の子供となる。繁殖力が低く、種族的には一代限りの変異種となる。etc.
ん?<ハイブリッド>体は魔族で核に人の魂が取り付いてるから?何だかいい加減な種別だ。ラバみたいなものなんだろうか?まぁ何にせよ、人の肉体では最初のエンカウントでゲームオーバー確定だったことは間違いないので良しとしよう。そして煙草の能力は個別能力として既にあるんだね。まぁ所謂嗜好品っことで良いのかな?もしくは重ね掛けってことに意味があるのかもしれないし。出来るだけ有効活用できるように使い道は後々考えて行こう。それにしても状態は衰弱か・・・・。これは仕方がないだろう。この状況が普通であるわけがないし精神的な影響も状態変化に含まれるのかもしれない。何しろ気が付いてから今まで水も食事も何も摂取していないのだ。必要は無いらしいが、ならどのような方法で活動するエネルギーを得るというのだろう?現状このままで消費が勝ってしまえばいつかは動けなくなる筈。そうなってしまう前に何か手段を考えないといけないだろう。今は乾きも飢えも感じていないが、いよいよ危険になれば何かしら欲求が沸き起こって来るのではないか。只そこまでになれば手遅れの可能性も否定できない以上何かしらの予防策を講じるべき筈だ。今度はエネルギー摂取を考えながら鑑定を自分に向けて行う。
名称:名無し
種別:人族、魔族<ハイブリッド種>
状態:衰弱
技能:鑑定 火炎操作 回復<微> 思考加速<大>
情報:魔族特性により大気中もしくは殺害した対象の魔素を取り込む。人族特性により食物<素材>に融け込んだ魔素を経口摂取により摂取可能。
「なんだかんだで便利過ぎだなこの体。」
でも魔族特性ってことは他の魔族も同様に脅威が無ければ死ぬことは無いってことになる。迷宮から出た後は今以上に苦労しそうだとぼやきながら。当座の心配がなくなったことで探索を開始する。ここに至るまでに幾度か火炎放射にて魔物を消し炭に変えたところ、急激な洞窟内の温度変化により僅かばかりの指針であった風の向きが分からなくなるという欠点が判明した為、火炎放射は封印し投石と肉弾戦にて探索を続行することにした。こちらに連れてこられた神に祈るつもりはさらさらないが他のモノだったら何でもいいので壁に手を付け
「少しばかりの幸運が欲しい」
と迷宮に願うのであった。