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1-1 異世界初日

徐々に意識が覚醒していく。薄暗い世界はジメジメとして苔臭い。

先程までいた場所とはまるで違う。全体は見渡せないが洞窟の中らしい。天井を覆う苔がぼんやりと発光しているおかげで暗闇ではないが光源は十分とは言い難い。

気が付いたら洞窟の中なんて難易度高すぎなんじゃないだろうか。

今いる巨大であろう空間の大きさすら把握できないのに無事にここから脱出できる見通しが立たない。


「何の試練だよ。」


文句が自然と口から零れ出る。

それを合図にしたかのように、


「はっぴー!ばぁ~すでぇ~い!!まぁ蝋燭とケーキは準備できなかったけどさぁ~、とりあえずおめでとうだよね」


聞き覚えのある声が頭の中に響く。

という事は無事に異世界とやらに来ることが出来たのだろうか?なんの実感も湧かないし、そもそも情報を入れといてやるって言われた割には知識としては直前の世界にいた時とまるで変わってない。相変わらずムカつく口調とテンションだが子供を人質に取られているようなものなので必死で感情を抑えながら言葉を絞り出す。


「とりあえず説明して欲しいんだが。」


「んっ?何をぉ~!」


殺意がこみ上がって来る。


「相変わらず短気だねぇ~、まぁ順に説明してあげるよ。」


うざい声音のまま、さも億劫そうに会話を続ける。


「まずここは迷宮で、そして迷宮主の間だよ。」

さらっと聞き捨てならない事を喋っているがこちらの理解などお構いなしに説明は続いていく。


「転生してもらったこちらの世界は分かり易く言えば剣と魔法のファンタジーな世界ってわけ!どう?心躍っちゃわない?」


「純粋に諸手あげて喜べるわけねーだろ。」


「まぁ別に直ぐに全てを理解しろってわけでも無いから聞き流すだけでもいいよ。一応僕としてもある程度は説明義務を感じてるだけなのさ。」


「気持ちの問題が整理できてないだけだ。続けてくれていい」

出来るだけ感情を乗せないように答えるが全て読まれている気がしなくもない。


「それじゃぁ続けるねぇ~。この世界には大気中全てに、もちろん地中にも生命エネルギーともいえる魔法の大元「魔素」なるものが存在してるんだ。世界のありとあらゆる生命体には魔素なるものが循環している。そのエネルギーを使用して魔法なりを発現させるんだけれど、生命が少ない場所なんかには魔素がどんどん蓄積していく。そして魔力溜まりを形成するんだ。その魔力溜まりから魔物が産まれる。極端に高い魔力溜まりからは迷宮が産まれたりする。そして迷宮の最深部には迷宮の核と言われる魔核が形成される。その魔核を守護する為に魔核を取り込んで迷宮主が産まれるんだ。何の説明だって顔してるけど君に直接関係してるんだからね。肉体を持たずに異世界に渡ったんだから体が要るでしょ。だから生まれたばかりの迷宮の魔核を利用させてもらって君の器にした。生まれた体は君が無意識に自分の認識に合う形にしている筈だよ。」


言われてみれば欠損したはずの腕も元通りになっているし、手も長年見てきた自分の手の様だ。顔に関しては映すものがないので確認は出来ないが触った感触からは以前と変わりがないように思える。ただ中年太りだったはずのお腹はすっきりしている。


「見た目はちゃんと人間してるよ!まぁ中身は迷宮主なんだけどねw。それと全盛期の体になるように調整してるから少し若返ってるよ。まぁこの辺りが今の僕にできる限界かなぁ~。ちなみに注意事項として核の魔核が消失すればご臨終です。」


心臓や脳の代わりが魔核ってことね・・・・。

ここまではっきり言われると大事なものが壊れて行きそうになる。

知らず知らずのうちに顔が険しいものに変わっていた。


「何?種族に拘りでもあったの?魂が同じなんだから僕としては一緒なんだけどねぇ~。

それに人間の形をとっている以上、人間だった頃の概念と同じだと思ってもらっても良いよ。必要かどうかは別としてってことだけどね。」


「それは食事や睡眠が不要ってことか?」


「ん~必要ないね。でもやりたければ可能だよ。ちなみに生殖行動も可能だよぉ~。お楽しみも必要でしょ?旨い食事に良い女。人間の欲求は単純でいいねぇ~w」


「そんな無駄話はどうでもいい。あの子は無事なのか?」

弱みは見せたくないが一向に核心部分の説明をしてこない事に焦れてこちらから問いかける。


「ん?無事かどうかは君次第でしょ?こちらの世界での人類の生物重量を増やすって約束が果たせたなら大事な大事な君の子供は肉体から精神が剥離する前に僕の力で定着させるってことだったんじゃないかな?肉体的損傷の修復も踏まえて。」


「先に助けてはくれないのか?今更、こっちには逃げ道なんて存在しないし全力で取り組むしかないってことはお前ならば心が読めるんじゃないのか?」


「そうだね。別に疑ってるわけでも無いしそれでもいいかと思うんだけど、僕は君が遇った本体じゃないんだよ。いわば神が吐き捨てた唾程度の欠片でしかないから、いつまでもこうして自我を保ってもいられないしギフトの一部なんだよねぇ~。これから君にほとんど同化され、システム的に一部の情報が残るだけになる。まぁ神に唾つけられたってだけでも希少だから喜べばいいんじゃないかなw。それに報酬が嘘じゃない事だけは保証してあげるよ。時間もない事だからここからは必要な事を優先的に伝えていくよ。まず君の世界にはなかった概念、魔力だね。これはこちらの世界では全てを支えている何より大事な要素だよ。感知できる様にだけはしておいてあげるね。あと使い方は原理と仕組みさえ理解できていれば問題なく発現できると思うよ。まぁ実践あるのみ!」


目を閉じて周囲に気を配ると淡く控えめな光の粒子の様なものが感じられる。揺蕩っているようにも見えるが濃淡や流れのある場所もあるようだ。


「次に仕事にも役に立つし世界を生き残る上で大事な鑑定能力。これは僕の情報ライブラリを自由に閲覧可能な権能だから役立つでしょ。鑑定したいものに意識を集中すれば情報が自然と頭の中に流れ込んでくるって寸法さ。これで現在の人類の生物量なんかも把握して頑張ってみてよ。」


試しに地面に転がっている石ころを鑑定してみる。


名称:魔鉱石

種別:鉱石

品質:普通

情報:通常の石が長期間魔力を帯びる事によって変質したもの

   主に燃料などに使用される。


慣れない感覚に立ち眩みを覚えるが慣れれば問題ないのだろう。次に自分の体を鑑定するべく意識を集中しようとするが突然、体中が熱くなる。


「ぐぅう・・・・。灼ける。」

堪らずうめき声を漏らす。


「そろそろ僕が自我保っているのが限界みたいだ。僕が君に融け込むことによって本体とのパスもライブラリを通してつながる事になる。人類の数が増えればいつか僕本体との交信も可能になるかもしれないから頑張ってねぇ~。」


「ちょっと待て、まだわかんねー事だらけなんだよ。せめてここ出るまでいてくれよ」


答えは帰っては来なかった。体の灼ける様な痛みが徐々に治まって来る。

苦痛から解放はされたが残されたものは静寂しかなかった。薄暗い洞窟の中で一人きり。

癇に障るとはいえ会話が出来るだけ、まだましだったのではなかったかと独り言ちた。





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