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1-12 ギルド支部を目指して

出発当日、世話になった村人たちに声を掛け挨拶を済ませた3人は餞別にもらった外套を身にまとい村を出た。目立った武器もなく旅に出る事を村人には心配されたが武器屋すら存在しない村では調達も難しく、かと言って鍬や鎌で武装するわけもいかないので結果的に村に来た時と同じく丸腰での出発となった。サーシャ曰く武器を携帯することは示威行為にもなり少なからず盗賊や野盗といった輩から獲物になる確率を減らすとのことだが無いものは無いので仕方がない。盗賊からしてみれば男一人に女二人が丸腰で歩いていたなら格好の獲物と映るだろう。少しでも危険を避けるためにサーシャに連れられ街道を進むことにするがさすが辺境の地。知らなければ道かどうかすらも分からない、少々踏み固められていて雑草が少ない程度のモノである。歩きでの移動に慣れていないアッシュは早々に景色を眺める事にも飽き不平を溢し始める。アッシュは嫌味をたっぷり乗せた言葉で抗議する。


「ところでサーシャさん。目的の街にはどのくらいで着く予定なのかな?」


「歩きだと2週間位かしら。」


サーシャの衝撃の返答にアッシュの足が止まる。


「食料と水は4日分しか用意しなかったよな?」


「そうね。でも節約すれば1週間は行けるわね。」


「それでも1週間も足りないじゃないか。途中に補給できるような場所があったりするのか?」


「1週間ぐらい歩いた場所には小さな宿場町があった気がするけど、どうやって補給する気なのかしら?立ち止まるより前に進んだ方が早く休めるわよ。」


促され渋々歩き出すが言われると無一文の現実に気付かされる。それでも無謀とも言える行程に文句が出ないはずがない。無一文の旅など本来あって良いものではないが食料や水すらも現地調達などアッシュの感覚としてはありえない。サーシャやフォウの感覚の方が異常なんじゃないかと感じながら迷宮で味わった地獄の行程を思い出していた。街道では魔物こそ出ないが、その日の食事を得る為に逆に魔物や動物を求めて探して歩くといった寄り道の頻度が高くなる。朝から日暮れ前まで歩けるだけ歩き、日が沈む前に近くを散策しその日の食糧を得る。見つからない日は持参した食料を僅かばかり口に入れ体力を温存するために見張りを残し交代で眠るといった日々が5日ほど続いた。内燃機関の恩恵に存分に依存してきたアッシュにとってはウンザリするのには十分すぎる日数だった。平原から丘陵地帯に景色が変わってきた頃。懐具合に余裕が出たなら、馬や馬車などの移動手段を最優先に手に入れようと心に誓うアッシュの前に招かれざる客が現れる。前方から現れた同じく旅の一行と思われる風体の4人組を警戒しつつ、距離を取ってすれ違おうとした時に背後から出てきた2人組に退路を塞がれる。2人組は小型のナイフに4人組の方は中世で使用されていたような両刃の剣を手にして獲物を逃がさないよう身構えている。


「金目の物を置いてきな。素直にしてれば男だけは逃がしてやるぜ。女は逃がさねぇけどよ。」


「無理。」


「嫌です。」


サーシャとフォウは相手が言い終えるのを待つことなく即答しアッシュの背後に隠れる。

ヒャッハーと叫びが続きそうなセリフではあるが世紀末的なモノに出てくる奴も然り何処の世界でも雑魚キャラ的な奴はセリフも似たようなものになるのだろうかと思案しつつ一応、説得も無理だろうなと思いつつも試みる。


「俺たちは無一文だし、連れを差し出すつもりもない。金目のものも持ってない事だし他を当たってくれないか?」


「ふざけた事を抜かす奴だ。馬に括り付けて死ぬまで擦り下ろしてやろうかぁ」

唾をまき散らしながら叫ぶゴロツキにアッシュはにやりと笑いかける。


「馬、持ってるんだ。」

アッシュがぼそりと呟いた直後、外套の中で準備されていた十歩を取り出し背後のナイフを持った二人組に火炎放射を浴びせる。魔物相手でも無い為、あまり力は込めてはないが炎で薙がれた二人は全身火だるまとなり転げまわる。逆に力を込めて一瞬で炭化させてやった方が楽に死ねたかもしれないと反省しながら前方の4人組に向き直る。


「キサマ、魔術師か汚ねぇぞ。殺してやる。」


襲ってきた連中に汚いとか言われる筋はないと不服を表情に出しながら剣を振りかぶり突進してくる4人に対して獲物を狩る際に使用している石をまとめて投げつける。道中、程よい大きさの石を拾って用意しておいたものだ。晩飯の獲物の場合はミンチにするわけにはいかないので加減をするが、今回の相手はこちらを獲物として襲ってきた連中であり加減などする必要もない。ボスッ、ボシュッと嫌な音を立てながらゴロツキ共の体を貫通して石が飛んでいく。背後にいたものは前にいた仲間の液体やら個体を被る羽目となる。一度の投石で2人が沈んだ。何が起こったのか理解できない2人のゴロツキは腰を抜かして自身の体を汚しているものを見て放心状態になっていた。


「丁度二人残ったってことでクイズ大会でもしようか。正解者にはご褒美はないが回答が遅い者や嘘つきにはペナルティがつくぞ。それぞれ死なないように健闘するように。逃げようとしたらバーベキューかミンチの2択だから。」


にこやかな顔をしながら告げるアッシュにサーシャとフォウが苦言を呈する。


「アッシュ、こいつら出来るだけ無傷じゃないとお金にならないわよ。できれば売ってお金にするつもりなんだから無茶しないでよね。」


「マスター。なんだか私たち悪者に見えてる気がするんですけど、大丈夫ですよね。」


何処からどう見ても野盗との立ち位置が逆になった様な気がするが、こちらも必要なものを手に入れる為に手を抜くことは出来ない。アッシュのクイズ大会はアジトの位置や野盗の人数、見張りの有無まで事細かに出題されたのであった。



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