第八話:拒絶
ー殺せ。
(嫌、)
ーお前と同じ存在は二つもいらない、お前の手で“あれ”を殺せ。
(嫌だ、嫌…)
ー殺せ。殺せ。殺すんだ!
(嫌だって言ってるじゃないかっ!!)
「っ!!」
影は飛び起きた。その拍子に寝汗がパッと飛び散る。
「はっ、はっ、…はぁ、」
酷く嫌な夢を見ていた気がする。
「…、僕は、」
部屋の中は真っ暗。ということは、今は夜か。どうして自分は布団の中にいるのか。
「…そうだ、確か僕は、」
倒れたんだ。知ってる仲の良い男の子が、殺されたって聞いて。ずっと前にもあった同じことも、思い出して…。
「うっ、」
激しい吐き気に襲われ、影は身を硬くする。口元を冷たすぎる手で押さえ、堪える。
「…兄、さん」
あの時も崩れそうになった影を支えてくれた。
ー何時だって僕は兄さんに迷惑をかけてる…。やっぱり僕なんて居ないほうが良いんだ…。そんな暗い想いにとらわれたとき、部屋のドアがゆっくりと開いた。
「影、起きたのか?」
「兄さん、」
ためらいがちに部屋を覗いた日向だったが、影が気持ち悪げにしているのを見て慌てた様子で部屋に入って来た。
「影、大丈夫か。気持ち悪いのか!?」
「…大丈夫、」
「大丈夫って…。こんなに震えてるのに、」
日向が気遣わしげに伸ばした手を、
「大丈夫だってば!!」
影は払い除けた。暗い部屋の中で、日向の顔が強張る。
「影、」
「大丈夫だから、ー放っておいてよ…」
日向の傷付いた顔を見るのが嫌で、影は顔を逸らした。闇の中で時が制止した感じ。「…悪い」
努めて平静でいようとしていることが明確に感じられる口調で日向は言う。
「飯食べれそうだったら、用意だけはしとくから」
日向が部屋から出ていく。それでも影は、立てた膝にうめている顔を上げようとはしなかった。