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第六十二話:固執の理由

お久しぶりの投降。屋敷の中での話が続きます。

赤い眼の影に会ったら、訊きたいことがあった。お前は本当に御鶴城を殺したのか。そして、お前は誰なんだ、と。影だと主張するが、お前は本当に影なのか。ただ影の中に住み着いているだけの、本当は名もない存在ではないのか。そんなことを訊きたいのに。

「……くそっ、」

殴られたのであろう頭がまだズキンズキンと鈍く痛む。足が萎えて、言うことをきかない。

「いい加減汚いこの手を離せよ、マゾ女」

影は不敵に言い放つと、遊子の腕に触れた。

「!?」

たったそれだけでじゅうっ、と何かが焦げるような音と臭いがして、影以外の人間が眼を見張った。

「文字通り俺に触れたら火傷するぜ状態だな」

軽口を叩き、遊子の腕から逃れる。驚いていた遊子だが、すぐに余裕を取り戻してふぅん、と感嘆の声を上げた。

「凄いね、人の体に穴開けるだけじゃなくて、燃やすことも出来るんだ」

その言葉に反応したのは、影本人ではなく、日向だった。体をビクッと震わせ、影を見る。赤い眼が細まって、自分を見ているのが分かるとえもしれぬ恐怖が沸き上がってきて、日向は弟から視線を逸らした。影が一瞬顔を歪めるが、それには気付けなかった。

「そうか、日向のほうはいまだに影が御鶴城を殺したことを信じきれてないんだね?」

舌舐めずりせんばかりの勢いで遊子が言い、活路を見い出したかのように日向に焦点を結んだ。

「!日向には手を出すなって言っただろ!」

遊子の目論見に気付いたらしく、影が怒鳴る。遊子はそれに対して、

「それはお前が私に素直に従った場合に了承したことだ」

と都合の良いことを口にした。影がいきり立つ。

「っ、てめえ、狡いと思わねぇのか!!」

「思わないさ。自分の目的成就のためには何だってする……それだけだからね」

呆れた奈緒も眉を顰めて遊子を睨む。

「それに、お前がやけに日向に拘ることも気になってね……兄弟云々以外の何かがある気がするんだよねぇ」

思わせ振りな発言に、日向は影を再び見遣った。影は憤怒の表情で遊子を睨み付け、どう動くか思案しているように見えた。つまり、遊子から日向を守るため、こちらに来ようか迷っているのだと。

「……あったとしてもてめえには関係ないだろ、」

「大有りだ。お姉さんは楽しいことが大好きなんだ」

「自分でお姉さんっていう奴ほど痛い奴はいねぇよ」

「痛くて結構。生きたいように生きて、したいようにするさ」

ああ言えばこう言う状態の遊子に、影は呆れを通り越して感心すらする。

「素直に教えてよ。君が日向にそんなに拘る理由は何?兄貴だから大事にしたいってのはあるだろうけどさ、それ以外に」

日向がじっと自分を見ていることに、影は気付く。

「理由はそれだけだ・・・他には何も、」

「嘘だね」

はっきりと断定されて、影は詰まる。遊子がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。

「そう言うことで、私の興味が日向に行かないようにしたいんだろう?残念、そうは問屋が卸さないよ」

「・・・・・・どうしても日向に手を出す気か」

「それはお前の出方次第だよ。あんたが素直に私に身を任せてくれるなら、手は出さない。それは約束する」

影はギュッと拳を握り、何かを決意したかのような顔になる。それに気付き、日向は慌てて声を上げていた。

「影!!」

ビクッと影の体が震える。他者の体に穴を開けることが出来、人の体を燃やす力を持っている人間が、無力な少年の呼びかけに怯えている。

「・・・・・・・何」

「影、お前変な事考えてないよな?」

「・・・・・・・・」

沈黙が答えだった。日向はぐらつく頭を押さえ、ふら付く足で立ち尽くす影に近付いて行く。だが影の前に立った瞬間に、眩暈を感じて蹲ってしまった。

「日向っ・・・・・」

自分もしゃがみこんで、倒れそうになる日向を抱える。腕の中で、日向が呻くように低い声で言う。

「・・・俺のために自分を犠牲にするなんて言い出したらお前でもぶん殴るぞ」

「・・・・・・・・!」

「お前が何なのか、俺もよく分からない。でもな、その体は影のなんだ!俺の大事なたった一人の弟の、影の体なんだ!!粗末に扱ったら絶対に許さないからなっ・・・・・・・・・!」



影は呆然と、日向の声を聞いていた。自分の中の“影”が、胸を震わせているのを感じる。

「・・・俺の安全なんか、気にしなくて良い。俺は、影が無事ならそれで良いから」

「日向、お前・・・・・」

どれだけ弟煩悩兄貴なんだよ、と小声で毒づく。けれど、日向がそうまで“自分”を思ってくれていることが何故か気恥ずかしい。

「昔っからだ。放っとけ」

そう苦笑すると、疲れたのか日向は影の腕の中でぐったりと頭を垂れてしまった。遊子に殴られた辺りが熱を持っている。

「・・・・・・と、いうわけ。俺はこの体を粗末に扱っちゃいけないんだと」

影は遊子を睨みつけ、言う。

「だからさっさと此処から帰らせてもらう。蓮本奈緒も、ちゃんとついて来いよ」

今まで置いてけぼりを食らっていた奈緒は、慌てて頷く。今日はとことん自分のペースが乱される日だ、と思いながら。

「玲治はどうするの」

「・・・・・・・あんたも分かってるだろ。そいつは兄貴と離れて過ごすことは出来なくなってるって。この屋敷から出て行くことが出来なくなってるって」

「それは、」

「最低暴力を受けるとしても、最悪殺されることは無いだろうしな」

影も気付いているようだ。玲治は遊子にとって重要な“駒”なのだと。殺してはいけない。とことん使ってやるのだと。

「そうね。・・・今はあんたたち兄弟の安全が最優先だわ」

「そういうこと」

影は遊子を見ると、

「というわけで、俺たちは此処から一端おさらばするぜ。・・・変なことして俺を怒らせるなよ?」

鋭い口調で言う。

影と日向のやり取りを見ているだけだった遊子は、ええ〜?と眉を寄せる。

「気色悪い声を出すな・・・・・・気持ち悪い」

「失礼な子どもだぁ。・・・・・・私が嫌だって言ったらどうするの?」

「決まってる。そこにいる“駒”の兄弟の体に穴を空けて使い物にならなくしてやるよ」

今の影ならやりかねない。奈緒は思った。

「う〜ん、それは困るかな。あの二つは私が手塩にかけて育てた“機械”だからねぇ。壊させるわけにはいかないな」

遊子は仕方ない、と呟くとずっと控えていた笹原を呼んだ。

「お呼びですか、遊子様」

「このお三方を丁重にお返ししてくれ」

笹原は一瞬憮然とした顔になったが、すぐに、

「・・・・・・・はい」

と頭を下げたのだった。









はっきりとした理由はまたいずれ語ります。三人は何とか屋敷から出ることが出来そうです。

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