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第五十四話:完璧な演技

麻理花の本性だだもれの回です……。

「?」

病院を出て真っ直ぐ帰宅した山城麻理花だったが、自宅前に一人の男が立っているので眉を寄せた。

(あれは…刑事?)

御鶴城の死体の第一発見者である麻理花に聴取した刑事ではないが、確か構内を警官とうろついていたはずだ。背の低いごま塩頭の中年。

「あの、うちに何か」

「あ、君が山城麻理花さん?」

なかなかにハスキーボイスで、外見と似合わないな、と麻理花は失礼なことを思う。

「そう、です」

「そうか、どこかで聞いたような名前だと思ってたけど、君は御鶴城先生を見つけてくれた人だよね?」

何だ、御鶴城の件で聴取に来たわけではないのか、と麻理花は心中で拍子抜けする。

「そうです…けど」

「そんなに警戒しないで…。今日は、九連日向君・影君のことについて訊きたいだけなんだ」

(!?九連君?)

「君がその二人と親しいと聞いてね」

「親しい…。まぁそうなのかな」

親しいというより麻理花が日向に恋慕を抱いているだけなのだが。一体刑事が彼らに何の用なんだろう。

「九連君たちが、何か?御鶴城先生のことで疑われてるんですか?」

「疑ってはいないよ。ただ先生が殺された日にいきなり学校からいなくなってるのが彼なんだ。だから理由を知らないかなって」

途端、麻理花の中で凶暴な感情が芽吹く。あいつか、と思う。

(普段から九連君に迷惑かけてるくせに、こんなときまで…っ!)

「早退…でなくてですか?」

影なら御鶴城に会議室で襲われて裸にひんむかれそうになってましたよ?と言いたかった。だから逆上して腹に穴を開けて殺してましたよ。だから逮捕して、ブタ箱にぶちこんでやって下さい。そうしたら、きっと九連君は私だけを見てくれるから……。

「届けが出てなくてね…。それに午後の授業中に放送で呼び出しがあって、それがみんなが影君を見た最後だった。放送は事務の人の声だったらしいが、影君を呼び出すような放送はしていないと言う。影君は放送を聞いて何処へ行ってしまったんだろう?」

(だから会議室だよ!この無能刑事!!)

心中で刑事を罵りながら、麻理花は軽く小首を傾げた。

「わ、私は知らないですけど……」

演技は昔から得意だ。麻理花はあっさりと嘘をつく。刑事が信じたかどうかは分からないが、

「そうか」

とあっさり引き下がる。

「九連君たちを探してるんですか?」「探している…というより、いや探していると言った方が良いのか……」

煮えきらない態度に、麻理花は苛立つ。表面的には不安げな顔を崩さない。

「…昨日、影君は確かに放送で呼び出されてましたけど、それから何処に行ったのかは分からないです……。すみません」

飽くまで殊勝に。

「い、いやそんなことはないよ。すまんね」

狙い通り、刑事が慌てる。勘は鋭そうだが、どうも情に弱そうだ。だが油断はできない。目の前の男は狸だ、と麻理花の勘が囁く。

「刑事さん…は影君が御鶴城先生を殺したって言いたいんですか?」

「そこまでは思ってないけどね。その放送と呼び出された影君が何処に行ったのか不思議だから、念のために訊いてるだけなんだ」

「……九連君を探してるのは何故ですか?」

影が捕まろうがどうでもいい。心配なのは、日向のこと。彼が捕まるようなことがあれば、麻理花は自分がどうなるか分からない。

「九連君は早退してましたよ」

「そうか。……そうだ、蓮本奈緒さんとも仲が良いって聞いたんだけど」

今度は奈緒か、と麻理花は内心でため息をはく。

「奈緒?はい、友達ですけど……奈緒も何か?」

「今朝、学校に来た時に会ってね。影君の鞄を取りに来ていたんだ」

影の鞄…?そう言えば駅で会ったときに自分のものではない鞄を持っていたが……。あれは影のだったのか。

「奈緒が影君の鞄を……ですか。何でかな」

意外そうに呟く。意外…ではあるが、

(奈緒が自分から取りに来るとは考えられない。つまり影か九連君に頼まれた可能性が高いな…)

詰まらない。奈緒が日向に頼られていると考えるだけで怒りが沸々とわいてくる。

(どうして私に言ってくれないの、九連君……)

日向のためなら何だってするのに。奈緒なんかより、もっとずっと献身的に。

「奈緒が、影君の鞄を……。刑事さんは、影君が奈緒に頼んだと思ってるんですか?」

「その線が濃厚だとは思ってる。そしてそれが当たってるなら、蓮本さんは昨日の影君の動向を知っていることになる」

「……それで奈緒から直接話を聞きたいと、そういうことですか?」

友人を疑われて気分を害したような口調にする。勿論演技で、本当は思いきり疑ってくれと思っている。

「朝会ったときに、彼女はかなり警戒心が高そうだった。だから友人の君から口添えしてもらえないだろうかと思って」

簡単に民間人を頼るなぁ、と呆れながら麻理花は頷いていた。奈緒が困惑し、ボロを出すのを期待して。

「私が協力して奈緒や影君の力になれるのなら」

相変わらず素晴らしい演技だ。刑事は私をどう思っているだろうか。私の演技を、見破れる?ねぇ、九連君?





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