第四十七話:生じ始める亀裂
騙し騙しの友情を築いてきた二人に転換期が……。
奈緒は駅前まで来てようやく足を止めた。
「はっ、はっ、はあっ…。しんど……」
日頃の喫煙が祟ったのか、息切れが激しい。奈緒は壁にもたれて息を整えた。
(……ったく、なんで警察ってあぁも融通が利かないのよ)
影の鞄を見ながら、思う。影は昨日早退という扱いにはなっておらず、学校から消えたことになっている。事実を知る奈緒からしたら影がそうならざるを得なかったと思うが、内実を知らない者にとったら影が否応なしに怪しいと思うだろう。
(…実際問題、影の“体”が殺したことに違いはないんだものね……)
そう言えば九連にも事情説明しないといけないんだった、と奈緒は憂鬱な気持ちになる。面会時間はさすがにまだだから、一回家に戻ろう。 奈緒はそう決めて立ち上がった。と、
「奈緒?」
「ま、麻理花」
山城麻理花が私服姿で立っていた。
「あれ、奈緒、制服?」
「あ…あぁ、昨日学校飛び出したまま戻らなくて、その…」
思わずしどろもどろになる友人を気にした風もなく、麻理花はあぁ、と頷いた。
「事件のこと、知らなかったんだ?」
「そ、そう。学校行ったら警察がいてびっくりした…のよ。そこで事情聞いて、休校って言われて、」
「そっかぁ。私は野暮用があって、隣町に行くとこなの」
「そ、そう」
「あ、奈緒」
「な、なに?」
「昨日九連君の家に行った後、どうなったの?」
当然というば当然の問いに、奈緒は内心でびくついた。だが、そんなことはおくびにも出さず、さらりと嘘を言って退けた。
「ああ、九連いなかったのよ」
いつの間にこんなに嘘をつくのが得意になってしまったのだろう、と少し虚しくなる。
「そうなの?」
「そっ。だからあたしはすごすごと帰宅した訳」
「なぁんだ。てっきり九連君と一緒だったのかと思ってたよ」
全くの間違いじゃないわ、と奈緒は心中で思う。麻理花は見た目ほんわかしているが、意外と鋭いことを奈緒は知っている。
「あ、電車来ちゃう。奈緒、またね」
「ん。気をつけて」
満面の笑みで奈緒に応え、麻理花は構内に消えていく。
(…不審に思われてる…って訳でもなさそうね)
奈緒は内心で安堵のため息をつき、歩き出した。
奈緒は構内に消えたと思っていたが、麻理花は再び構内から出てきた。
「嘘は駄目だって大人に教わらなかったのかな」
侮蔑に満ちた眼で、麻理花は遠ざかっていく奈緒の背中を見送る。
「…私の九連君に手を出したら、殺してやるからな」
誰にも聞こえないくらいの小声で呟き、麻理花は今度こそ本当に構内へ消えた。
この時この瞬間から、奈緒と麻理花の間には少しずつ亀裂が生じ始めていたーーー。