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第四十六話:奈緒vs警部

「やっぱりか」

奈緒は八時過ぎにもかかわらず学校近辺に生徒の姿がないのでもしかして…と思っていたが、

「…まあ普通休校にはなるわね」

だが影の荷物がある。奈緒は校門で見張りに立っている若い警察官に声をかけてみた。パトカーは見えないが、住人を不安にさせないために離れたところに駐車しているのだろうか。

「あのすみません」

「…今日は休校です」

ニベもない。奈緒は思わず何も言ってない、と吐き捨てる。

「見たら分かる。少し構内に用がある」

「だめです。例外はありません」

若い外見だが意外と年増か?と奈緒は小さく舌打ちをする。「別に現場を漁るって言ってるわけじゃないんだよ。荷物を取りに行くだけなんだ」

「駄目です。お引き取りください」

(うう、聞き分けのない男!!)

この場合警官は自分の職務を全うしているだけなので彼を責めるのは間違いなのだが。

「ならあんたが付いてくれば?あたしが変なことしないように見張ってたら良いじゃない」

こうなりゃ何としても構内に入って影の鞄を手にしなければ。「おい桜宮、どうした」

嗄れ声がして、桜宮と呼ばれた警官がハッと後ろを振り返る。

「お、大崎警部」

ごま塩頭の小柄な中年男性がじろじろと不躾な視線で奈緒を走査してくる。

「何だ、この嬢ちゃん」

「ここの生徒さんみたいなんですが、どうしても構内に入りたいと仰られまして、」

「何じろじろ見てんの」

まだ自分を見てくる大崎に、奈緒は臆面もなくガンを飛ばす。

「で、学生さんはなんで構内に入りたいんだ?」

「荷物を昨日忘れたの。貴重品が入ってるから、取りたいだけよ」

「ふうん。場所を教えてくれるか」

「何で」

「譲歩だよ。あんたを構内に入れる訳にはいかんのだよ」

「良いじゃない。何もしないっつってんだから」

大崎がため息をはく。

「悪いが信用はできんよ。する理由もないし」

奈緒は口元を歪める。「ケチ」

「…駄目なものは駄目なんだ。で、何処だ?」

「……二年D組。多分明らかに通学鞄って分かると思う。…紺色の肩掛けタイプ」

「あぁ、分かった。取ってくるから待ってろ」

大崎はそう言って、手をヒラヒラと振りながら構内へ入って行く。奈緒はその背中を睨みつけながら見送り、彼の姿が完全に見えなくなると、桜宮という若い警官を見遣った。桜宮は既に自分の出番は済んだとでも思っているのか、またもとの能面のような表情になって直立不動の姿勢を取っていた。奈緒は大人しく大崎の帰りを待つことにした。




やがて五分経つか経たないかの内に、大崎が片手に紺色の鞄を持って戻って来た。間違いない、影の鞄だと奈緒は確認する。

「待たせた。これで合ってるか?」

奈緒はとりあえず軽く辞儀をして鞄を取ろうとしたが、大崎に避けられた。ムッとして大崎を睨みつけると、彼は肩を竦めて、

「こいつはお前さんの鞄じゃねえな。・・・持ち物の一つに名前があった。クレンカゲって読むのか?」

「・・・勝手に中を見たって訳?」

いい気持ちはしない。何の権限があってそんなことをする、と奈緒は内心で気色ばむ。

「これが本当にあんたのかどうか確認をさ」

「本人に了承を取る前にすること?」

「名前が女の子のものなら余り深く考えなかったとは思うが、クレンカゲって恐らく男の名前だろう?あんたの兄弟か何か?」

奈緒はさっさとこの場を立ち去りたかった。だが大崎の眼はじっと奈緒を捕らえて放さない。さすがに自分を御鶴城を殺した犯人だとは思っていないだろうが。

「あたしが盗もうとしたと思ってるの?ならあんたに持ってきてもらうのを断るでしょう、普通」

「・・・九連影。昨日の軽い聴取で聞いたんだが、こいつって昨日急に姿を消したんだってな」

ピクッと奈緒は片頬を引きつらせた。

「確か授業中に呼び出しがあって教室を出たって話だ。だが呼び出したといわれてる事務室の職員に訊いたら、九連君を呼び出したことはない・・・って言われてね」

「ふうん、」

「その九連影君は一体何処に行ってしまったんだろうね。・・・彼の鞄を取りに来るくらいだから、嬢ちゃんは九連影君と仲がよいんだろう?何か知らんかね」

(何時の間にか聴取に持ち込まれてる・・・・・食えないオッサンね)

「何も知りませんよ、あたしは」

大崎から鞄を引っ手繰るようにして奪い取る。

「あ、こら!」

「九連影とは知り合いだから、大丈夫です。なんなら誰か呼びましょうか?あたしと影が親しい事を知ってる人間を」

「しかし親しいってだけであんたがその九連影に頼まれて鞄を取りに来たっていう証拠にはならんだろう?」

「…そんなの知りません」

「じゃあなんで君は九連影君の鞄を取りに来たんだね。九連君に頼まれたんじゃないのか?」

影は容疑者にされているのか、と奈緒は唇を噛む。どう言えば煙にまけるかと考えた奈緒だったが、

「大崎警部!」

「あ?」

大崎が部下らしい刑事に呼ばれ、彼の注意が奈緒から逸れた。

(チャンス!)

「警部さんありがと!」

礼儀で言い、奈緒は脱兎の如く駆け出した。

「あ、こらっ」

「さよなら!」

大崎はぽかん、と見送るだけで奈緒を追って来ることはなかった。





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