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第四十五話:小休止

「う…」

「ね、姉様!目覚められましたかっ!?」

「は、ハル?」

「よ、良かったぁ。心配したのですから」

梓はパチパチと眼を瞬かせる。実弟の幼顔が見える。

詩堂春哉。梓の三つ下の弟。

「フユちゃん!姉様が目覚めたよ!」

「ようやく起きましたか。お騒がせな」

呆れた声とともに近づいてくる軽い足音。

「……フユ、」

「姉様のせいでハルが動かないから大変だったのですよ」

詩堂冬架。春哉の双子の妹だが、春哉より数倍気が強い。

「だ、だって!」

「だ、だって…?笑止」

ビシッ、と細い指を春哉に突き付ける。

「ハル、フユ。喧嘩しない。…ハル、ごめんね」

起き上がり、春哉の華奢な体を抱き締める。

「心配させたね。……ごめんね」

「い、良いよっ。姉様が無事だったから、」

「私、姉様に進言いたしましたよね?」

冬架の鋭い声が春哉の言葉に割り込む。

「フユちゃんっ」

「良いよ、ハル。ーフユ、続けて」

冬架は遠慮なく、と笑い

「あの碧石玲治というのとは付き合わぬほうが良いと」

「…そう、だったわね」

「姉様が何を思ってあれと付き合い出したのかは想像に難くありませんでした。…しかし姉様は本気であれを好き始めた。その結果がこれです」

「フユちゃん、言い過ぎだよ!」

「ハル!良いから」

「ね、姉様」

冬架ははあ、とため息をはくと一つに結んでいた茶髪をといた。肩にぱさりとかかる。

「姉様、私たちの生きる意味は、芦原を潰すことです。芦原に連なる者と…いちゃつくことではありません」

「っ」

「それだけは、努々(ゆめゆめ)お忘れになりませんように」

冬架ははっきりそう言いきると、春哉に冷たい一瞥をくれて梓の居室を出て行く。

「あ、あの姉様、」

「大丈夫よ。フユの言ってることは本当だもの。ハルが泣きそうな顔することないから」

「……」

両親を殺され、一族のはみ出し者だった彼らの遺児を引き取るものは皆無だった。当然のように梓たちは施設に入れられた訳だが…。

「ハル、不安?」

「……え?」

「…何でもないわ。ハルといたら元気出てきた」

春哉がかああ、と赤面する。その素直さが玲治にも似通っていて、梓は胸が締め付けられる想いだった。

(…玲治はどうしてるだろうか)



「ん、」

ズキリ、という頭の痛みで玲治は眼を覚ました。頭と言わず、全てが痛い。心も、痛い。

(…兄さんは、どうなったんだろう)

夢に何度も微笑む兄の姿が現れた。

(それに、梓は……)

そっ、と両手を見る。この手が、昨日梓を殺そうとした。きっと、梓は自分を見捨てる。そんな予感があった。

「玲治坊、起きたかね」

「あ、風間先生…」

白衣を着た老医師が心配そうな顔で玲治を見ていた。全く気付かなかったが、恐らく玲治が目覚める前には部屋にいたのだろう。老医師ー風間厚彦は、気配を消すのが得意だという特技…のようなものを持っているのだと言う。

「昨日また酷くやられたもんじゃの。芦原のお嬢も手加減を知らん」


「いっ」

腫れた頬に触れられて、玲治は思わず呻く。

「痛いか」

こくり、と頷く玲治を風間が慈悲のこもった眼で見る。

「坊には無理をさせとるな。すまん」

「風間先生のせいではないですから」

俺のせいです、という呟きは風間の耳に届いたのかどうか。聞こえていたにしても、風間は触れないだろう。そういう人だと玲治は知っている。

「あの、兄さんには会いましたか?」

玲治の治療をしながら、風間が不思議そうな顔をする。

「佳那汰坊か?まだ会っとらんが、どうした?」

「あ、いえ…」

「坊は前から隠し事が下手だ。そして吐き出すことを知らん」


「………」

「すまん。そう悄気(しょげ)るな」

「…すみません」

「謝らないで良いよ」

治療を終え、風間は軽く玲治の頭を撫でる。

「か、風間先生っ。俺、もう子供じゃないよっ」

「坊は儂にとってはいつまでも七歳の坊のままよ」

風間は朗らかに笑うと、救急セットを持って部屋を出て行った。

「……」

玲治は絆創膏の巻かれた指で、髪に触れた。

(俺は、どうしたらいいんだろう)

兄と一刻も早く話したかったが、今は自室から出ることが出来そうにはなかった。




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