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第四十四話:惑い

翌朝。日向は影の病室で眼を覚ました。

「いっ、」

不自然な体勢で寝ていたためか、全身が痛い。癖毛がふわふわしているのはいつも通りで、日向ははぁと吐息する。

「……」

影は穏やかな寝顔でまだ眠り続けている。このまま目覚めないのではないかという不吉な想像が浮かび、日向は慌てて首を左右に振った。

「今何時だ…」

誰も入院していなかった病室に急遽入れて貰ったのだから時計の用意は成されていない。影の腕時計は、とキョロキョロすれば、

(そういえば影の鞄って学校なんじゃなかったか)

ということに思い当たる。貴重品も鞄の中のはず。


(クラスに盗む奴はいないだろうけど…)

他クラスの生徒のことまでは分からないが。学校は大変なことになっているだろう。赤い眼の影曰く、影が御鶴城を殺した…と。

「…っ、」

赤い眼の影が殺したとは言え、影の手で殺したことには間違いない。

(違う。俺は信じないっ…!!)

日向はハッと気付く。御鶴城がどうなったか知っていそうな人間を思い付いたのである。

(蓮本なら知ってるかもしれない…!)

奈緒の番号は携帯に登録してある。携帯は確か自分の病室の棚の中だったはず。

「ちょっと席外すな」

眠っている影を起こさぬようにそう言い、日向は影の病室を出た。




携帯が着信を告げた時、奈緒は寝起きの一服を味わっていた。誰よ朝っぱらからと眉をしかめながらもディスプレイを見れば、

(……九連?)

日向から電話が来るのは珍しい。

「もしもし?」

「あ、俺、九連」

「おはよう。影に何かあった?」

それくらいしか日向が今電話してくる理由はないように思えた。

「あの、蓮本に訊きたいことがあるんだけど…」

歯切れが悪い。奈緒は眼を細め、煙草を揉み消す。

「何」

「あ、あのさ…御鶴城は、どうなった?」

「…え?」

「昨日の夜、赤い眼の影と会ったんだ。少し…話した」

「何だって?」


「…影が、御鶴城を殺したって」

今にも消え入りそうな声で日向が言う。奈緒は動揺を表に出さないよう留意しながら、

「九連はそれを信じるの?」

「どうしていいか分からないんだ…!一昨日から色んなことがありすぎて、どうしていいか、全然っ」

迷い子のような日向の物言いに、どう反応してよいか分からない。

「九連」

「影が人殺ししたなんて思いたくないっ!でも、素直に信じられない。家族なのに…!」

「九連落ち着いて!そこは病院なんだからね」

「わ、分かってるよ」

「分かってない!今影のことしか考えてないっ」

「それは…」

図星だったようだ。電話の向こうで日向の荒い息が聞こえて来る。

「影、今は?」

「……寝てる」

「九連は何もされてない?赤い眼のやつに」

「昨日、少し話しただけ」

「そう。…あんた、今日は学校休むんだよ。影も」

「……じゃあ頼みが二つある」

「…何?」

「多分影の鞄が学校に置きっぱなしになってるから、帰りに持ってきてくれるか。あと…昨日会議室で何があったか、教えてくれ」

奈緒は一瞬躊躇したが、頷いた。話すしかあるまい。

「…分かった。学校が終わる前に今日も病院で過ごすかどうかメールしといてよ」

「分かった」

「切るよ…じゃあね」

「ああ。早くに…ごめん」

奈緒は鬱々とした表情で電話を切った。ズル休みしようと思ってたのにできなくなったなぁ、とぼやいた。日向の苦しげな声を去来させないために。




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