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第四十三話:侵食する真実

遊子に散々と痛め付けられた玲治は、ぐったりと床に倒れ伏していた。殴られて腫れた箇所が熱を持っているが、ひんやりと冷たいコンクリ製の床がそれにあたって心地よい。

(ごめんなさい、陽さん、奈緒さん。陽さんの携帯、壊されちゃいました…)

遊子に踏み砕かれた携帯電話が無様に玲治の鼻先に転がっている。

ーどうして貴様が陽の携帯を持っている。

抵抗する力も気力も残っていない玲治の胸ぐらを掴みながらその質問を放った遊子の眼の真剣さに、玲治はただ震えているしかできなかった。

(この携帯は、奈緒さんにまた会えたときに渡そうと思ってたのにな……)

陽と奈緒がなんからの理由で道を違えたのであろうことは、奈緒が“屋敷”を出ていったことからも想像はついた。でもそれでも奈緒が番号を変えていなかったのは……。

「いっ、」

腹が痛んだ。ヒールの踵で何度も踏みつけられたからだ。へたをしたら内出血しているかもしれない。

「兄さんは…、」

遊子に連れ去られる直前に見せてくれた、久しぶりの優しい笑顔が玲治を苛む。どうしてこんなことになったのだろう。いくら考えても、玲治には分からなかった。




「全く、とんだじゃじゃ馬だわ」

遊子は長い黒髪を鬱陶しげに払い除けながら愚痴を零した。目線の先には、椅子に縛り付けられた佳那汰の姿がある。

「人の記憶というものを侮り過ぎていたようだ」

やれやれ、と肩を竦める。

「…玲治は、どうしたんですか?」

「おいたが過ぎるから、少しお仕置きしてきたよ」

「……」

佳那汰が遊子を睨み付ける。

「お前もか」

はあ、と呆れを示すため息をつき、

「今更弟想いの良いお兄さんのふりかい」

佳那汰の首を冷たい手で握り締める。

「ぐっ…!」

佳那汰は呻くが、強い光の宿した眼で遊子を見据え続ける。

「気に入らないな。…でも私は貴様がどうしても欲しかった」

「僕が欲しいなら、こんなやり方は止めてください。玲治を、あの子を解放してください」

「……」

「本来あの子は関係ないはずです。だから」

「その弟を散々いたぶり突き放したのは何処の誰だ?」

遊子の意地悪な問いに、佳那汰は息を詰まらせた。指先が震える。

「そ、それは…」

「私が貴様の記憶を改竄したから?確かにそれもあるだろう。だがお前は感じていたはずだ。玲治への憎しみ、憧れ、」

「違う……」

「私の“力”は確かに他者の記憶を改竄する。だが全く、望まない方向には改竄されないんだよ…悲しいかな、これが私の“力”の限界でもあるわけだが」

「……っ」

「つまりお前は、お前の望んだ形の記憶を、私に改竄させたんだ。それが何を意味するか、分からん貴様ではあるまい?」

「つまり、」

「両親や妹を死に至らしめた人間は玲治などではなく貴様だったということだな」

「………っ!!」


「貴様はその事実を隠し、肉親殺しの罪を玲治に背負わせたかった。玲治を苦しめたかった」

遊子の言葉が佳那汰を侵食する。全身がかたかたと(おこり)のように震え、寒気すらしてきた。

「……」

「玲治もある程度記憶に齟齬があるが、貴様ほどではないだろうな」

遊子の陰鬱な笑い声が、佳那汰の心をひどく揺さぶった。





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