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第四十二話:暴露

「蓮本…?」

奈緒に呼ばれた気がして、日向は俯けていた顔を上げた。影が寝入って30分も経過している。日向も眠りかけていたようだ。

(まさかな…)

日向はそっと影の手を放す。病室での付き添いはするが、ずっと手を握って同じ体勢でいるのは辛いものがあるからだ。

(っ)

ズキッと左腕が痛んだ。日向は眼を眇めて痛みに耐えた。

(影の心の痛みに比べたら、これくらい)

椅子に座り、日向は一息つく。

(…俺に、何が出来る?)

御鶴城の顔が浮かんで、日向は唇を噛む。

(御鶴城の野郎、絶対に許さない)

「今はこの世にいなくてもか?」

「!?」

ギョッ、と顔を上げればいつの間にか前に立っていた影の笑みに迎えられた。指で顎をすくわれる。

「おまっ、」

「よう」

赤い眼に体が硬直する。

「驚いた顔も良いな」

「ふ、ふざけるなっ」

指を払うと、不敵に微笑む。

「何慌ててんの?俺、影だぜ?」

「お前なんか影な訳あるか…!」

「傷つくなあ、僕」

「…っ」

顔や体は影のままなので、どうにも相対しにくい。

「気持ち悪い声を出すなよ」

「ふん」

鼻を鳴らし、影はベッドに腰掛ける。

「…どういう意味だ」

「あ?」

「この世にいなくても?って訊いただろ、俺に」

「あぁ、まんまの意味さ。お前は御鶴城を憎んでるみたいだけど御鶴城が死んでても、その憎しみは継続すんなのかな、と」


「…何だと?」

虚を突かれて眼を見開く日向に、いきなり影が手を伸ばして来た。反応が遅れる。

「なにす、」

「この間のお返し」

服の上から右側の肋骨あたりを撫でる。

「さわ…るな!」

嫌悪感に、影の手を払う。影が笑う。

「日向でもそんな不安そうな顔するんだ」

「影の顔で言うな!」

「何度言わせる気だ?俺は影だって言ってるだろ」

「……っ」

「御鶴城、殺しといたから」

軽い口調でサラリと言われ、日向は何かの冗談かと思った。

「……何?」

「だから、俺を汚そうとした御鶴城を殺したって言ってんの。学校は阿鼻叫喚だったろうね」

「ころ…した?」

「そう。この手でね」

「なっ…」

目眩がするかと思った。

「嬉しくないわけ?最愛の双子の弟を汚そうとした奴を殺したんだぜ?」

日向は最早言葉を紡ぐことができず、その場にへたり込んだ。

「ふうん、」

影は赤い眼を細め、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。日向の前にしゃがみこみ、彼の頭を鷲掴みにする。それでも日向は身動ぎ一つしない。ぶつぶつと呟いているらしいが、内容までは影には聞き取れない。

「そんなに俺…いや、僕が大事か」


襟首を掴む。

「なら、弟みたいに犯してあげようか?」

一緒にしてあげよう、と影が無防備な襟元に手を差し入れようとしたー

「ちっ、時間か」

不機嫌そうに呟くと、影の眼が黒くなっていく。不敵な笑みは気弱げな顔になり、

「…にい、さん……?」

自分の手が兄のシャツの襟元にかかっていることに驚き、パッと放す。

「ぼ、僕は…」

「か、げ…?」

「に…っ!」

ズキンッ、と胸に激痛が走り過呼吸に陥る。

「影っ!!」

崩れそうになる細い体を、日向は慌てて支える。影は熱があるのか、体が熱い。

「影、大丈夫か!?」

「っ、だい…じょうぶ。いつもの発作、だと思うから」

「せ、先生呼んだほうが…」

影は弱々しくはあるが、しっかり首を横に振った。

「本当にいい…から、」

「わ、分かった。ベッドに運ぶから」

こくり、と頷く影を、日向はベッドに運ぶ。赤い眼の影の言葉を、脳裏にまとわりつかせたまま。




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