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第三十四話:混沌への序曲

奈緒が遊子と再会を果たし、九連兄弟は遊子と初めて会います。兄のほうは意識ないですが(汗)

姉の臨終の姿が走馬灯のように過る。

ー大切な人と、生きてね。奈緒。

「久しぶりだね、奈緒。美緒が死んで以来か」

長い間会えなかった友人同士が交わすかのような口調で遊子は言った。奈緒は答えず、日向に眼を遣る。早く病院に連れていかないといけないのに、と焦る。左腕を早く固定しないと。

「あぁ、この子が心配なんだね。うん」

遊子が日向に触れようとする。触るな、と怒鳴ろうとしたが先手を取ったものがいた。

「そいつに触るんじゃねぇっ!!!」

奈緒の傍らにいた影である。先程までの余裕さは鳴りを潜め、噛みつかんばかりの剣幕で遊子を睨み付けている。

「君か。御鶴城が犯したいと言っていた相手は」

「!?」

「…にしては変だな。御鶴城は君のことを、いつも震えてる子犬とかいう気持ち悪い表現で示していたがな。えぇっと、確か名前は九連影…だったか」

影が歯を剥き出しにして怒鳴る。

「今回のことは貴様の差し金かっ!!」

遊子は少し困ったように首を傾げ、

「差し金…ねぇ。まあ御鶴城に協力はしたけど、君を犯すから力を貸せって言ってきたのはあいつだし」

「じゃあ止めさせりゃあ良いだろ!」

「あたしらの世界にも色々あるんだよ」

「っ」

「…君、面白いね。眼は真っ赤だし、何より“中”で膝を抱えてる君が透けて見えるよ。“中”にいるのが本来の九連影君かな?」

「何だと、」

「面白い。君にすごく興味が湧いてきたよ」



まずい、と奈緒は臍を噛む。遊子は、“面白い”ものには眼がない。何をしてでも、手に入れようとする…。遊子が玲治を背負ったまま、ゆっくりと影に歩み寄っていく。先程人を殺したばかりの影はー何故か硬直して立ち尽くしているだけだ。奈緒は影に怒鳴る。

「何ぼうっとしてるのっ!!行くわよ!」

影の細い腕を掴み、奈緒は遊子から距離を取るために走り出す。影は抵抗しなかった。遊子が笑い追いかけようとした瞬間、



ぱちんっ!!



と何かが弾けるような音がした。

「あ、」

遊子が声を上げ、残念そうに柳眉を下げる。

「あらら、玲治の人払いが切れちゃったか」

奈緒は遊子の言葉で、彼女が今は影を諦めたことを知った。立ち止まり、しかし遊子の動向を確と見据える。

「残念時間切れだよ。今日は帰るけど、近い内また会いに来るからね」

そう言い置き、遊子は玲治を背負ったまま、軽い足取りで去っていった。

「救急車…」

恐らくもう電話は繋がるはずだ。救急車を呼んで、日向を病院に運んでもらわなければ。予想通り電話は繋がった。一台頼み通話を終えると、奈緒は携帯を仕舞った。「影?」

「……」

「こら、影っ!!」

赤い眼の不遜な影に対する接し方で奈緒は乱暴に横にいる影の腕を掴んだのだが、

「痛っ…」

気弱そうな声が返って来たので、焦る必要もないのに焦ってしまった。

「え、あんた、戻ったの?」

「蓮本…さん?僕は、一体、」

(御鶴城に襲われたこと、やっぱり覚えてる…わよね)

それに、白い肌のあちらこちらにある切り傷が自分に何かが起こったのだと知らしめるだろう。

「あ、ちょっと影っ!」

ふっ、と意識を失って崩折れる影の体を慌てて支えるがー

「軽っ…」

軽過ぎて、奈緒は瞠目する。ちゃんと食べているのか不安になる。

「しかし、」

奈緒は日向が言っていた“赤い眼の影”と対面したのではあるが、

(…この胸騒ぎは一体、何…?)

嫌な予感が頭の中で渦巻いて、奈緒は顔を目一杯しかめたのだった。

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