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第三十一話:赤い眼と壊れかけの心

意識を失って崩折れている九連日向を、碧石玲治は無感動な眼で見下ろしていた。

「さて、御鶴城先生のほうはうまく行ってるかな」

そう呟く玲治の耳に、2つの足音が響いていた。



「触るなよ、気色悪りぃな。変態親父」

御鶴城の、影の胸を触ろうとした手がピタリと停止する。

「あ?」

涙の残る顔を俯けている少年の発っした言葉に、御鶴城は顔をしかめた。ぐっ、と影の冷たい手に手首を掴まれる。

「へし折ってやろうか、あ?」

御鶴城は見た。影の両眼が血のように真っ赤にそまっているのを。

「誰だ、…お前」

思わず呟いた御鶴城に、影が愉快気に唇を吊り上げる。

「お前もあいつみたいなことを言う」

「あいつ?」

「九連日向、俺の兄貴だよ!!」

「……」

「昨日、俺を見てお前は誰だ、だとよ。可笑しくて仕方がなかったよ!見たら分かるだろ、俺が誰かなんてさ!!九連影に決まってるだろ!!!」

きゃはは、と一人狂ったように笑う影を、御鶴城はぽかんと呆けた顔で見つめていた。

「何だ、その間抜け面。そんなに衝撃的な出会いだったか?」

御鶴城の手を放し、影は立ち上がって衣服の乱れを直しながら腕や頬に走る切り傷を確認していく。

「さっさと俺に切り替わっとけば傷は少なくて済んだのに。バカな野郎だ」

小さくひとりごち、影は御鶴城を上目遣いで睨み付ける。

「さてオッサン。大人しくしてたらいい気になってくれやがったな。覚悟、出来てる?」

「え、」

「じゃ、さいなら」

影がパチン、と高らかに指を鳴らした。



玲治の足元に踞る人物に気付き、奈緒は肝が冷える思いだった。「九連っ!?」

日向は意識を失ってはいるようだが、息はしていた。取り敢えずはそれにホッとする。

「玲治、九連に何をしたの」

「……」

玲治は答えず、立ちすくんで一人の少女を見つめていた。少女も眼を見開いたままで立ちすくんでいる。

「玲治…」

「あ…ず、っ」

少女の名前を云いかけた途端、玲治は頭痛に襲われる。彼に近寄ろうとした少女ー梓だが、奈緒の鋭い声に立ち止まる。

「梓さん、駄目!」

「え、」

玲治が梓に飛びかかり、彼女を地面に押し倒すと首に手をかけた。

「れ…いじっ!?」

「玲治、止めなさいっ!」

奈緒が後ろから玲治を羽交い締めにしようとするが、振り払われて日向の横に尻餅を着く。

「いっ、」

「蓮本…さん、」

ぎりぎり、と不穏な音が首から響く。視界が霞んで来る。

「っあ、」

霞む視界の中、自分の首を絞めてくる玲治が泣いているように見えて梓は胸に痛みを覚えた。

「お前が、お前がいるから。俺は…」

「っ、」

ぽたっ、と玲治の瞳から落ちた雫が梓の頬に落ちる。

「良いよ」

「……」

「れ…いじが私を殺して自由になれる…なら、」

「…さ、」

「殺して…良いよ」

玲治の光のない眼に明らかな動揺が走る。手から力が抜ける。

「玲治が…笑えるなら。玲治が嬉しいなら…、私もうれ…しいから」

「あ、」

玲治が梓の首から手を放す。

「お…れは、何を」

梓は苦しい息の下で、どうにか微笑む。

「よか…った、玲治にもど…ったんだ、ね…」

「梓…、俺は梓を、殺そう…と」

震える体。頭の中がごちゃごちゃになって何も考えられない。俺は何をしていた?確か学校を早退して、その途中で捕まって…、

玲治は情報の処理が追い付かず、加えて恋人である梓を手にかけようとした事実に耐えきれず、悲痛な叫び声を上げた。

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