第三話:揺らぎの片鱗
「そういえば風紀委員会は何だって?」影は2年D組において風紀委員に所属しており、今日は急遽委員会が開催され影はそれに出席していたのである。
「何か最近学校の周りに不審者が出るんだって。そのことで」
日向は不穏な単語に眉を寄せる。
「不審者?」
「そう。小学生の子が何人か声かけられたんだって。刃物で切りつけられた子もいるって」
影が不安そうに目を伏せる。華奢なせいかそうする影は酷く儚い印象を与える。
「それで、多分明日ちゃんと説明があると思うんだけど、」
影が酷く言いにくそうに口ごもる。
「まさか風紀委員が見回りするとかいう話じゃないだろうな」
「…!」
ビクッと影が肩を震わす。
「う、」
「そうなんだな」
二人の視線の先に、徳丸スーパーが見えてきた。だが日向が足を止めたので、影もそれに倣う。
「影」
「う、うん。三人一組だから、」
「駄目だ」
日向はにべもない。吐き捨てられ、影は喉を詰まらせる。
「で、でも」
「お前は精神的なものが体に影響しやすい。危ないって最初から分かってることをやらせるわけないだろうが」
「だけど、みんなが」
「みんなは関係ない。お前はお前。同じ委員会だからって負う責任まで同じにする必要ないだろ」
「兄さん、」
「他の委員だってそうだ。不審者がいるって言われてるとこを見回りさせるなんて親が聞いたら大問題だろ?」
何だって生徒が見回りなどしないといけないんだ。日向は心底そう思う。
「誰だ、そんなこと言い出したのは」
「み、御鶴城先生」
日向がよく思っていない教員の名前を言う影は声を震わせている。
「御鶴城?くそ、面倒なことを」
日向は唇を噛む。何故か日向と御鶴城はことごとく衝突している。自分のせいだよね、と影は思う。体調をしょっちゅう崩している影は、先生によっては目をつけられている。曰く、弛んでいるからだ・兄貴の背中に隠れているからだ、とか。御鶴城もその一人だ。だから日向とも衝突するのだろう。
「とにかく駄目だ。御鶴城が何と言おうと駄目からな。お前が行くくらいなら俺が行く」
強い口調で言い、日向は歩き出す。影はうん、とか細い声で応え、兄に続いた。