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第二十八話:危機(2)

自宅を飛び出した日向は、急いで自転車に跨がった。嫌な予感は徐々に加速する。赤い眼がちらつくが、無視してペダルを漕ぐ足に神経を集中させる。

(…影、待ってろよ!)



「兄さん…?」

日向の声がした気がして、影は御鶴城から思わず注意を逸らす。それが御鶴城は更に気に食わなかったらしい。ちっ、と舌打ちをして影を壁に押し付ける。

「っ、せんせっ…」

今回ばかりは影は必死に抵抗していた。腕を突っ張り、御鶴城の顔を一定距離以上近づけさせない。しかし御鶴城が本気を出せばあっさり組み敷かれてしまうのは分かっていた。影の必死な抵抗を嘲笑っているだけなのだ。誰かが助けに来てくれるまで、御鶴城が本気を出さなければ良いと影は願った。

「先生、止めてくださいっ…!」

「何だよ、前はあんなに気持ち良さそうにしてたじゃないか」

「し、してませんっ。あれは先生がむ、無理矢理」

「無理矢理…か。それにしては良さそうにしてたが」

影は必死に否定する。

「してな…っあ」

御鶴城の片手が影の唇に触れる。

「嫌だっ!!」

影はありったけの力を込めて、御鶴城を押し退けた。

「っと、」

体勢を崩した御鶴城の腕から逃れ、影はまたノブにすがった。

「おねがっ、お願いだから開けてっ、開けてっ…」

「無駄だって。学習しない奴だな」

「痛いっ…!」

御鶴城に髪を加減なく引っ張られ、影は叫んだ。

「ぎゃあぎゃあうるさいなぁ」

呆れ声で呟き、御鶴城はズボンのポケットからキラリと光るナイフを取り出した。ひっ、と影が悲鳴を上げる。

「髪を引っ張られることより痛いこと、してやろうか?」

陶酔者の笑みに、全身が凍る。身動ぎ一つ出来ない。

「兄さん…」

力が抜けて、その場に尻餅を着く。御鶴城が彼の首筋に刃先を突き付け、いたぶるように影が震える様を眺める。

「…っ」

とうとう泣き出してしまう。怖い。

「痛いのが嫌なら黙って俺の言うことを、」

「御鶴城先生」

「なんだ」

ドアの外から、影を拉致した少年の声がする。「自転車に乗った男子生徒が近づいています。恐らく九連日向ではないかと。校門に自転車を置きました。特別棟に近づいてきます」

抑揚のない機械のような声だ。影は思わず兄を呼ぶ。

「兄さんっ…」

「ちっ、お早いお着きだな」

苛立たしげに呟き、御鶴城は少年に指示を出す。

「俺が行為を済ませるまで、お相手してやれ。ただの人間だから、適当になぶっておけば良いからな。殺すなよ」

「了解」

会議室の前から消える気配。影は涙の浮いた眼で御鶴城を睨む。

「に、兄さんに何する気ですか?」

「ふん。邪魔できないように適当に痛め付けるだけだ」

「そんなこと…あっ」

油断した。影はあっさり御鶴城に押し倒される。

「やっ」

「さぁ、お楽しみの始まりだ」

影の絶叫が会議室に響き渡った。

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