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第二十六話:日向と奈緒

何度も執拗に鳴るチャイムの音で、日向は眼を覚ました。

(ん、俺いつの間にか寝てたんだな…)

それにしても絶え間なく続くチャイムの音に、日向は苛ついてくる。

「だあぁっ、うっさいな誰だよ!」

何も考えずに玄関に行き、開錠する。

「どちらさ…ま」

そこには鬼のように憤怒の表情をした、くわえ煙草の女子高生がいた。蓮本奈緒、その人である。

「は、蓮本」

色んな意味で吃驚する日向である。

「こんにちは、暫しその面貸していただける?」

「あ、おいっ」

家主の返事も聞かず、奈緒はずかずかと家に上がり込む。

「な、何のようだよ!てか学校は!?」

どかっとソファに座った奈緒は、じろりと日向を睨み上げる。

「二時間目からふけたあんたに言われたくないな」

最もな言い分に、日向はピクッと頬を引きつらせる。奈緒は携帯灰皿に煙草の長くなった灰を落として、

「命令。学校に行って影と話しな。で、見回りは止めるよう言いな。影、危ないと思うよ」

素っ気ない口調で言う台詞ではないな、と日向はため息をつく。

「危ないって何が。不審者に刺されるとでも?」

「気づいてないふりか?御鶴城だよ、御鶴城」

「……」

「あいつは影を狙ってる。多分、あんたも想像している理由でね」

「……」

「あいつは今日必ず影を襲うはずだよ。あんたっていう邪魔者もいないわけだし。しかも邪魔者とターゲットは喧嘩中。あいつにとって最高の状態」

日向は拳を握り締めるが、動きそうな気配はない。

「…こうまで言っても動かないのか。昨日までのあんたは一体何処に行ったんだろうね」

「…っ、」

脳裏を過る赤い眼をした影。振り上げられた拳。泣いている影。

(俺は、影の重荷になってる。そう思ってるだけなのに、)

「昨日、影と何かあったの?そんな顔してる」

奈緒が鋭く指摘してくる。言うべきか言わざるべきか。日向の心は揺れた。真摯な瞳から眼を逸らせない。

「九連」

そう呼ばれた瞬間、日向は昨晩の出来事を奈緒に話し始めた。




「…マジで?」

話を聞き終えた奈緒は、あんぐりと口を開けた。二本目の煙草は既に灰になっている。

「やっぱ信じられないよな…」

日向が自嘲気味に笑って眼を伏せた。

「信じがたいけど、九連がそんな嘘つく理由ないしねぇ」

「え、」

「てかそんな嘘思い付けるとは思えないし」

「……うるせぇ」

奈緒は苦笑し、すぐ真顔に戻る。赤い眼か、と小さく呟く。

「で、あんたはその赤い眼をした影に、お前のせいで本当の自分を出せないとか言われたのね?」

「…あぁ」

「その言葉が気になって、突き放している、と」

「突き放してるっていうか、俺が影の重荷になってるかも…とか思い出したら、いちいち影のこと口に出すのが憚られて、」

「ふぅん、あんたは赤い眼の言うこと、信じたんだ。訳の分からない存在を」

「し、仕方ないだろ。影の顔してるんだから」

拗ねたように唇を尖らせる日向を、奈緒は呆れたと言わんばかりの眼で見ている。三本目の煙草に火を点け、うまそうに一服する。

「ま、その赤い眼だの、痣?痣だとかは取り敢えず後回し。今はあんたが思ってることを影に伝えることが大事」

「俺が…思ってること」

「あたしの主観だけど、影はあんたを重荷だなんて思ってないと思うよ。…ま、所詮は憶測だけどさ」

「……」

「あんたが影を大事に思うように、あっちだって九連を慕ってると思うよ。自分の半身なんだから、もっと大事にしてやったら?」

奈緒がこんなにも長々と言葉を重ねるのを、日向は殆んど初めて見た。しかも日向と影のことで。

「何よ、何が可笑しいのよ九連」

「いや。…蓮本って掴めないなって」

「はぁ?」

眉を寄せる奈緒に、気にするなと言い日向は立ち上がる。

「影と話してみるよ」

「そ。あたしも行こうか?」

「一人で大丈夫」

日向の返事に奈緒は微笑んだ。

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