第二十二話:準備
時は過ぎ、昼休憩。日向が早退してしまったと聞いてから影はずっと悄気ていた。保健室から戻る際には会うのが怖いと思っていたくせに、実際にいないと悲しくなるなんて…と影は自嘲する。身勝手だと、笑う。
(図書室にでも行こう)
そう思い、影は今図書室に向かっている。図書室は授業の教室のある一般棟ではなく、職員室や事務室、音楽室などの特別室と呼ばれる部屋のある特別棟三階にある。図書室のスライド式のドアを開けようとしたとき、いきなり背後から肩を叩かれた。ビクッと震えて振り返ると、
「み、御鶴城先生…」
御鶴城研吾が今日もニヤニヤと不気味な笑みを浮かべて立っていた。影は思わず身を引くが、腕を掴まれる。
「せ、先生痛いです」
「今日から見回りするからな、放課後必ず会議室に来いよ。ばっくれたら、分かってるよな?」
何でも良いから腕を離して欲しかった。影は必死に何度も頷く。
「必ずだ」
乱暴に腕を離し、御鶴城は去る。今日は一段と影を見る眼が本気だった。影は身震いし、放課後を思うと憂鬱になった。だが他のみんなもいるから大丈夫だ、と自分に思い込ませてしまう。日向と同じにそれを後々後悔することになるとも知らずに。
「玲治、本当に平気?」
「うん、一人で帰れるから」
気分の優れない玲治は早退することにした。心配な梓が送るというのを辞退し、玲治は一人中学校を出た。
「……」
平日の真昼なので、周囲はまだ静かだ。玲治は住宅街をMP3を聴きながら歩く。体が嘘みたいに熱を持ち、熱い。頭がぼんやりし、足元がふらつく。
「!!」
だから背後からいきなり羽交い締めにされたときも咄嗟に反応出来なかった。
「ぐっ、」
刺激臭漂う布を口に押し付けられ、玲治の意識はあっさりと闇に沈んでしまった。