第二十話:苦しみと決意
泣き疲れてしまったのか、眠りに落ちた玲治のくせのない髪を梓は指ですいた。さらりと柔らかに流れる髪。梓は微かな息をつく。
「玲治……」
寝ているときは穏やかな顔なのに、起きている彼が穏やかなのを見た記憶が最近はほとんどない。泣くか、苦しむか。何かを押し殺したような顔。
「痛いよね…」
真っ白な手の甲に浮かぶ痣。見ているだけで心が砕かれそうになる。
(…あの女の、芦原のせいだ。玲治がこんなに苦しんでるのは)
そして、
(たった一人の肉親なのに、どうしてこんなことができるの…!!)
碧石佳那汰。彼の、玲治に対する憎しみ生半可なものではない。ただその理由を梓は知らない。知りたくない…といえば嘘になるが。梓は迷っていた。
「…さい」
「?」
玲治の声。起きたのか。
「玲治?」
「ごめんなさい」
「…!」
「…兄さん、ごめんなさい」
「玲治、」そして玲治は衝撃的なことを口にする。
「みんなを…みんなを壊して、ごめんなさい…」
「っ!?」
皆を壊した?不穏な言葉に、梓は頭が真っ白になる。(壊したって…。殺した、ということ?)
飛躍しすぎだろうか。精神を崩壊させたのか。
「……」
玲治の寝言が止む。久しぶりに見た穏やかな顔は、敢えなく苦しげに歪められてしまう。
(どうして寝ているときまでこんなに苦しまないといけないの)
このままでは、本当に玲治は壊れてしまう。
(…そんなこと、絶対させない)
唇を噛み締め、梓は決意を新たにしたのだった。
もう二十話です。全く進んでいる気がしませんね…(汗)