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第二話:出逢い

日向と影よりも一足先に学校を後にした奈緒は、然したる目的もなくただぼんやりと駅までの道を歩いていた。奈緒たちの通う公立月舘高等学校は、住宅街にあるため周囲は民家が立ち並ぶ。遊んだ帰りらしき小学生の少年たちがばたばたと奈緒の横を走り抜けていく。無性に煙草を吸いたくなる。

(こればっかはやめらんないわ)

自嘲しながらも、学校が見えなくなるまでは我慢しようと思う。

(あたしが肺癌か何かで死んだら、九連は悲しんでくれるのだろうか)

ふとそんな思いが浮かんで、奈緒は苦笑する。

(あたしにそんな資格はない。ー姉さんが死ぬのを黙って見ていたあたしに)

今でも夢に見る。視界一面に広がる雪化粧。その中に、両腕を切り落とされた姉がうつ伏せで倒れている。腕を切り落とされた肩からあふれだす血が、白に赤い花を咲かせていた。

『奈緒、あなたは生きてね。大事な人と、生きて…幸せに』

臨終の言葉は、まるで呪詛のように耳から離れない。

(大事な人…か)

さっきまで話していた少年のことを考える。

九連日向。彼とは、中学のときに出逢った。最初は全く興味などなかったのだが、いつのころからか自然と言葉を交わすようになった。きっかけは確か奈緒が上級生に目をつけられ、放課後に呼び出されたことだったと思う。それを知っていたのかはたまた偶然か、暴力を振るわれそうになった奈緒の前に日向が現れたのである。目には目を、歯には歯をの精神で上級生をぶちのめすかと思いかや、日向はめちゃくちゃに叩きのめされた。

『何でやり返さないの。もしかしてただのヘタレ?』

『そんなんじゃ、って痛っ…!』

『我慢しなさい。野郎でしょ』

『すげえ言い方』

『で、そんなんじゃないって?どんななの』

『影が怒るんだよ。喧嘩は駄目だって』

奈緒は思わず日向の頬をつねった。ちょうど切り傷の上だったものだから、日向が痛みに仰け反った。

『な、何すんだよ!』

『あんたが良く分からないこと言うからでしょ。何よ、影って。てか影が喋るかっての』

『喋るよ。人間ーてか弟なんだから』

『弟?影って人名なの?』

珍しい名前もあったものだ。奈緒は呆れる。

『中学生?』

『うん。俺ら双子だから』

奈緒につねられてヒリヒリする箇所を撫でながら、日向は頷く。

『双子ねぇ…。そういやまだ見掛けてないけど、何組なの?』

頬に絆創膏を貼る奈緒の手付きは荒々しい。

『だから痛いって…!』

『我慢しろってのよ』

手当てを終えて消毒液や包帯を片付け始める奈緒を恨めしげに見ながら、日向は奈緒の問いに答える。

『今は家にいるんだ。しばらく熱が下がらなくて』

『ふぅん、体弱いの?』

『俺と違ってね』

何処か自虐的に呟く日向。

(思えば九連は影の体が虚弱なのは自分のせいだと思ってる節がある。何でだろうか)

奈緒がふとそう思った時、携帯が震えた。誰だろう、とディスプレイを見ると、山城麻理花と表示されていた。

「もしもし、奈緒?」

ほんわかした声。知らず奈緒は苦笑していた。

「どうしたの、麻理花」

「今駅前のミスドにいるの。奈緒、一緒に食べない?今安いみたいだし」

「ん〜、分かった。行くわ。待ってて」

「うん。待ってる」

奈緒は携帯を閉じると、先程とは違って目的を持って歩き始めた。

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