第十八話:教師
嫌な奴に見つかった、と日向は顔をしかめる。その嫌な奴、御鶴城研吾はまるで日向が無断で早退するのが分かっていたかのように裏門に突っ立っていた。
「おう、九連日向様、お早いお帰りで」
まだ二十代半ばの御鶴城は細い眼を笑みの形に歪ませて、顔全体にニヤニヤと品のない笑みを浮かべていた。「まだ二時間目になってもないのに何してるんだ?ん?」
「…早退です」
学年主任でも担任でもないくせに煩い奴だ、と日向は苛つく。
「許可は取ったのか?」
「あんたには関係ないだろ」
「先生に対してあんたか。弟と違い口が悪い兄貴だな。あ?」
また影のことかよ、と日向は思う。御鶴城は影を見る時、いやらしい目付きなことがある。以前、影が御鶴城に言い寄られていたという噂もあったが、あれは本当だったのか。
「……」
こうなりゃあっさり無視だ、と日向が教師を無視して足を踏み出したときー
「例外はないからな」
という言葉に、思わず足を止めた。
「弟から聞いたんだろ?不審者対策の風紀委員見回りの件」
「……」
「お前俺に言いたいことあるんだろ?影にそんな危ないことさせるな、とか何とかさ」
御鶴城が自分を怒らせようとしているのを犇々と感じる。御鶴城はやけに日向と影に突っかかる。理由は知らないが。
「あんたに言うことは何もない」
「あ?」
日向はため息とともに繰り返す。
「俺からあんたに言うことは何もない、って言ったんだよ」
「ふ〜ん、そう」
悔しそうな顔をするかと思いきや、御鶴城は何故かニヤリと笑った。嫌な予感が日向を襲う。
「おい、」
「それを聞いて安心したよ。例外を作るのは色々大変だしな。助かる助かる」
「お前、影に何かするつもりじゃないだろうな」
「さてね、どうだろう」
「っ、てめえ」
思わず手を出そうとして、日向は慌てて自制する。
「どうした、弟大好き人間君」
「…っ、」こんな奴に構っていたくない。日向は殴りつけたい衝動を堪えながら、御鶴城に背を向けた。
「気ぃつけて帰れよ」
「……」
日向は一言も発っさず、裏門をくぐった。