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青色の滑走路  作者: 遼介
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第1話-6 2年3組、有平 瞬。

 体育館の横にある体育研究室の前広場に新入部員が集められた。部長をはじめ先輩からやることを聞いてるっぽい。一年の顔が青ざめていく。

 そんな中、俺と後藤は体育研究室の屋根の上にいた。


「おまえぜってー許さないからな」

「いーじゃんいーじゃん。バレー部員憧れのマネと付き合ってるんだし」

「なんの関係があるんだよ」

「んー、部員全員のウラミ?」

「おまえなぁ!!」

「しー!! 瞬うるさい! 気付かれるから静かにしろ」

「――おぼえとけよ」


 とにもかくにも、作戦がスタートした。

 一年全員であっちむいてほいをやりましょうといわれた阿久津の顔は「今年もきたか」という顔だった。隠れてみている二年と三年はそれを見るのも笑いが堪えられない。

 そして一人目の一年は負け(一人目は安堵の表情だった)、二人目が勝ったとき(二人目は泣きそうだった)、強烈なビンタが炸裂した。高一とはいえ腕の振りぬきは十分速い。乾いた音が響く。

 そして耳が割れるほどの怒号が研究室前に響き渡った。


 何事かと駆け寄る生徒もいる。一年は半べそをかいてるやつもいる。だがしっかりとバレー部の二、三年だけは爆笑していた。

 まあ阿久津もバカじゃない。ある程度怒ったらフォローに回り始めた。一年は何がなんだかわからない表情。もう怒られてないのに涙が出てくる感じ、わかるわかる。

 その後、ニヤッと笑う阿久津に一年が礼をしてその場を立ち去ろうとする。


 そこで瞬の携帯に『いけ』のメッセージ。下から見てる二年からの合図だ。

 そのメッセージを確認した俺と後藤は、思い切りありったけのボールを転がす。屋根を伝い、ボールはピンポイントで阿久津の頭上直撃コースだ。


ピンポーン


 あれ? またメッセージ?



『やめろすとっぷ』



 見れば阿久津がおもむろに深々とお辞儀をしている。近づく人影は見覚えのある顔だ。


 そう、その人はさっき体育館でご高話を話されていた――校長だった。


 大量のボールが屋根の縁を離れていく。自由落下運動。昨日物理の教科書で見た。物が重力だけを受けて加速していく運動。屋根の上から地面まで何秒かかるか求めよ――



(――あっ……終わった――――)




一瞬の静寂が訪れ、そして――







「っごおおおおとおおおおおおおおおおううううううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!ぁぁぁあああありぃぃいひらぁあああああ!!!!!!!!!!」





 二、三年だけが大爆笑していた。 



 ◆



 体育館。とても広々とした体育館。その中にたった三人の姿があった。


 仁王立ちして、短髪の髪の毛をそれでも逆立てて、目尻の血管が漫画のように浮き出ている阿久津 剛。

 その前に正座している、俺と後藤。


「――お前ら」

「「はい」」

「――どういうつもりだ」

「あの……まあ新学期ですし……その……なぁ」

 目を合わせる俺たち。

「黙れぇえええ!!!!!!!」


 体育館に響き渡る阿久津のエコーは鳴り止まない。

 エコーの中に微かだが笑い声が聞こえる。どうも外には大勢のギャラリーが来てるようだ。


「――お前たちは毎度毎度、何回怒られれば気が済むんだ」

「「……はい」」

 そりゃ「はい」くらいしか言えない。あの後藤でさえ口答えしてないレベルだ。

「二年になって落ち着くかと思えばこれだ。一年のときも散々怒ったよな? あ? 忘れたか?」

「「……いえ」」


 救いの手が差し出されたのはそれから一時間後のことだった。

 部長ら三年の先輩が入ってきて阿久津をなだめてくれた。怒りも忘れるほど大声を出した阿久津は、校長の笑って済ませようという態度も相まって俺たちを解放した。

 ビリビリになった両足。他の部員の肩を借りながら体育館を出た。

 そして時計を見ると17時30分を指している。体育館を出たところに仁美が待っていた。


「おう、吉村」

「お疲れ様です部長」

 仁美は部長に挨拶を済ませると俺と後藤を横目で睨んだ。

「なんか……悪かったな(笑)二人とも(笑)」

「部長!!もっと早く助けてくださいよ!!!」

 後藤の悲痛な叫びに激しく同感。

「なんで来てくれなかったんですか!」

「っいやーなんか外で聞いてたらさ、みんなでもう少しこのまま見てたいってなってさ(笑) なぁ!」

 部員がうなづく。お前ら、二年は許さんからな。

「まあともあれ、めでたくバレー部の新入部員も入ったことだし、近々新歓コンパやっぞ!」

「「おー!!!!」」

 山際に夕陽が沈みかけている。夕焼けは次第に黒くなっていった。

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