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青色の滑走路  作者: 遼介
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第1話-5 2年3組、有平 瞬。

 どの部活動にも新入生を歓迎する――いや、洗礼を受けさせる「しきたり」があるだろう。

 バレーボール部の伝統は単純で、「顧問にいたずらをする」だ。


 たちが悪いのは、バレー部の顧問が阿久津あくつ たけしという筋肉バカの体育教師だということ。現代であそこまでの強面こわもてで、しかも殴りかかってきそうな男は日本でもそういないと思う。

 ただ、この伝統が続いてる理由は簡単で、阿久津には弱点がある。毎回試合になると応援にくる小学生の娘だ。娘の前ではとてもやさしいパパになる。部員になめられてる阿久津。そんなことを一年坊主は知らない。先輩にやれといわれてやらされる、その恐怖心たるや。

 あれの打ち合わせとはいたずらの内容を二、三年が決める、それだけのことだ。



 とはいえ、13時までまだ時間もあるし腹も減る。

「宗孝、今日って購買きてる?」

「ああ、来るっていってた」

「じゃあ俺も行く~」


 ゼロ棟の昇降口前では毎日お昼に購買が来てパンや弁当を売っている。そのパン屋こそ何を隠そう宗孝の両親がやってる店。

「久しぶりじゃないの、ゴットと瞬君! さあさあ買った買った!」

「ありがとうございます。お母さん」

 親もゴットって呼んでるんだな。

 俺は毎日ここでパンを買う常連。だから多少昼休みダッシュが遅れても袋に入れて取り置きしてくれる特典付き。

「瞬君はこれね。はいよー、200円」

「あざっす!」

「あれお母さん、焼きそばはもう無いの?」

「あら、焼きそばは瞬君のが最後だったのよ。ゴットにおすすめは新商品なんだけどこれ」

 後藤の焼きそばパンはタマゴポークサンドになった。

「まぁいいやあとで瞬とジャンケンします!」

「なんでだよ。焼きそばは俺の特注だから」

 じゃれあいながら俺たちは部室棟へとのろのろ歩いた。



 ◆



 部室棟。いろんな部活の部室がひとまとまりになってるアパートみたいな建物。

 屋根の無い非常階段を上がって二階へ。三つめのドアがバレー部の部室だ。ドアの前にはすでに空気の抜けたバレーボールや月刊誌のバレーボール雑誌、そして誰のかわからない教科書が散乱している。

 部室棟は鍵が開いていた。多分部長が朝開けたんだろう。俺たちは部室で飯を食いながら先輩たちが来るのを待った。

 飯を食い終わるとバレー部ではない宗孝は帰り支度をした。

「宗孝は帰り?」

「いや、生徒会の会計を手伝って欲しいらしくて。ちょっとだけ寄ってく」

「そっかーじゃなー」

「おうまたな」

 パン屋の手伝いがあるため毎朝早起きする宗孝は一年のときから帰宅部だ。あんなにタッパがあればバレーに向いてるのに、と何度思ったことか。




 そして13時。部員が集まったところで運命の会議が始まった。司会進行はもちろん部長だ。

「それじゃあみんな、儀式のアイデアがあれば聞くぞ」

「はい!!!」

 期待通りの後藤。お前しかいないよな。

「はい後藤」

「あのですね、さっき思ったんですけど毎度毎度のことで剛も慣れてると思うんです」

「確かに毎年やってるからな。阿久津ってもう何年目だっけ」

「五年じゃないすか? 確か」

 二年のメンバーからあやふやな答えが返ってきた。

「なーので! 今回は二重ドッキリはどうっすか!」

「「二重???」」

 全員が声をそろえて返す。

 二重ドッキリ。それは二度、ドッキリをしかけるというものらしい。この五年ドッキリを喰らい続けた阿久津は絶対に「どうせくる」と思ってる。ならばきたあとにまたくれば新鮮。そういう理論。

「なるほどな」

 部長は意外とノリノリにみえる。

「でも後藤、一年の負担が大きくないか? 特に二回目にドッキリをやるグループが」

 一度逆鱗に触れた後、もう一度逆鱗に触れるなど誰もやりたくない。当然だ。

「そうっすね確かに」

 後藤も考え直す。しばらくしてふとひらめいた顔をした。

「――あ、じゃあ、俺がやりますよ!」



 ◆



「だから、一度目のドッキリは一年にしてもらう。二度目は俺がやる。どうすか!」

「いや、どうすかってお前な。趣旨が変わってるだろ」

「いいじゃん! 阿久津ドッキリという目的に変わってきてるわけだし!」

 まあ確かに、という空気が徐々に作られていくのがわかった。

 そして部長が決心する。

「よし! 今年はそのアイデアを採用する。どうだ?」

「「うぃーっす!」」

「じゃあ後藤、具体的に何をするんだ」

「まずですね、一年にはあっちむいてほいをやってもらいます。んで、負けたら次の一年にバトンタッチ。勝った一年がほいのタイミングでビンタ! これでいいでしょう」

 それはドッキリなのか。ロシアンルーレット的なゲームみたい。

「まあ阿久津も恒例行事だしテキトーに怒って終わりでしょう。その後っす。頭上から大量のバレーボールを落とす。これでフィナーレってことで」

 それもドッキリなのか。ただ、三年は意外と乗り気に変わりない。

「なんだかよくわからんけどそれでいくか(笑)」

「さんせー」

「じゃあ一年呼びましょう! 俺と瞬で準備しときます」

 ――は?

「おいなに俺も巻き込んでんだよ! みてるけどやらねーよ」

「大量のバレーボールを一人で落とせるわけないだろ」

「俺が手伝う理由が無いだろ」

 ここは全力で阻止しないと絶対にまずい。


 しかし。

 バレー部は身長が高いやつの集合。その中で171センチは全然低い。

 十数名に囲まれた俺に、逃げ場は無かった。

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