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青色の滑走路  作者: 遼介
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第1話-3 2年3組、有平 瞬。

 ピンポーン

 気持ちよく人が寝ていたところに鳴るLINEの着信音。

 カーテンの隙間から漏れる光はかなり明るい。これは晴れだ。

 何度か重いまばたきをしながら右手で頭上のスマホを探す。慣れた手つきで充電USBケーブルを片手ではずしたとき、手から滑って顔面へと落ちる。


「っっいっってぇえええええ!」


 爽やかな朝、最悪の目覚めだった。

 自分で自分にイライラしながら画面を見ると「後藤翔一」の文字。文面は、

『おっはー♪ 瞬、初日から遅刻するなよーーーーー』

 長音がくどい。昔のギャルみたいな音符マークもかなりくどい。とりあえず「うるさい」と返そうとすると追加でスタンプが送られてくる。

 あきれながら返信する。

『その鶏、流行ってんの?』



 時計を見ると6時。普通の高校生ならまだ寝てるかもしれないけど、俺はこれが普通。

 高校は県で二番目に大きい市内にあるが、俺が住んでるのはそこから四つ離れた小さな村。

 三十分に一本の電車に乗り、駅から歩いてようやく高校に着く。母さんの手前、俺と姉貴は中学時代に無理やり勉強をさせられておかげで偏差値そこそこの高校に通っている。めんどくさいとは思うが、良かったことは私服登校の高校だったこと。制服は意外とめんどくさい。

 6時だからこれで朝ごはん、着替えをして、最寄駅に着くのが7時。電車で向こうに着くのが7時40分。それから二十分歩いて学校に8時着。授業開始は8時40分。電車の遅れも保険に入れてこんな予定。朝練がある日はキツい。これが三十分早まる。


 カーテンを全部開けると窓の外に畑仕事をするばあちゃんが見える。毎朝、晴れている日は外で、雨の日はハウスの中で何かしらしている。夏になればプチトマトとかを朝ごはんに出してくれる。日の出とともに活動するからソーラーパワーかもしれない。

 母さんに怒られないように着替えを洗濯機に入れてからリビングへ。

「おはよ。あら、珍しい」

「鶏に起こされた」

「あれ、今朝鳴いてたっけ? とりあえず夏穂起こしてきてよ」

「えー」

しかし、目玉焼きの卵を割る手が一瞬止まったのを俺は見逃さなかった。



「姉ちゃーん」

応答が無い部屋の前に立ち二回呼ぶ。言葉を変えてみよう。

「おい起きろブス」

「――うっさい!」

かわいそうな俺。どうしろっていうの。まぁ返事があったのでリビングへ戻る。

「起きた?」

「あー」

「まぁいいわ。先に食べてなさい」

「いただきまーす」

 朝ごはんはたいていバラバラだ。ばあちゃんは畑仕事が一段落するまで食べないし、姉貴は朝に弱すぎる。母さんは滅多に朝食をとらない。味方がいない俺にとってはこれがちょっと嬉しい。

 さっきから同じニュースを繰り返しているテレビを見ながらトーストをかじる。天気予報が終わると食器を下げて歯を磨く。いつものルーティン。歯を磨いていると微妙にメイクを決めた姉貴が来る。これもルーティン。洗面所の取り合いになって俺が折れる。ここまでルーティン。


 始業式だけだしいいかと上にパーカーだけ羽織ってラフな格好にした。部活のユニフォームだけリュックに入れる。

「いってきます」

「いってらっしゃい」

 奥から母さんの声だけが聞こえてくる。畑の前を通るとき、タマネギを掘り起こすばあちゃんにも声を掛けて最寄り駅へと向かった。



 ◆



 制服がないのはある意味ラクだけど欠点もある。どこの高校の人かわからないことだ。とりわけ今朝は新入生っぽい子が改札に溢れている。多分誰かしらと待ち合わせして一緒に行くんだろう。

 俺は人の間をくぐり抜け、エキナカにある本屋に入った。

 今日は月曜日。今日発売の週刊誌をパラパラと捲っていると窓の外で手を振る姿が視界の外にちらついた。


「瞬おはよー」

「おはよ」

「すごい人だね、新入生かな」

「そうじゃね? 行こうぜ」

 吉村よしむら仁美ひとみ。バレー部MA(マネージャー)。去年の夏大会の後くらいから付き合い始めた。中学時代、アルトサックスのソロコンクールで賞を取ったらしく、たまに頼まれたときは吹部も兼部(というか協力?)してる。姉貴もバンドのサポートメンバーとしてたまに呼ぶくらいの腕前らしい。

 最初は大人しい子だと思ってたけど、時間が経つごとになんとなく雰囲気が姉貴に似てきた気がする。

「あ、そうだ。今日結局部活どうなったの?」

「んーわかんね。朝聞いてみる」

「なにそれ。私今日は吹部に顔出さなきゃいけないから、休みってみんなに伝えておいてね」

「おっけー」

 吹部は新学期早々に演奏会でもやるのか。


 信号待ちで適当に春休みの振り返りをしていると、後ろから突き飛ばされそうになった。

「よう!! お二人さん。さっそくラブラブだねぇ~」

「っばか、あぶねえだろ!」

「あ、後藤くん。おはよー」

「おっはよ!」

 後藤翔一。今朝のスマホ顔面事件の加害者。俺と同じバレー部、チャラチャラしてるイケメン。後藤が急に肩を組んで耳元でささやく。

「瞬さ、お前気をつけたほうがいいぞ。バレー部今年は新入部員かなりいるらしいから、仁美ちゃん狙われっぞ」

「――ほら青だぞいこ」

「あー! 話そらすなよ瞬!」

 仁美は相変わらず笑いながら後ろをついてくる。俺たちは長い坂道を登っていく。

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