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青色の滑走路  作者: 遼介
2/17

第1話-2 2年3組、有平 瞬。

 数学の問題を解いていると何故か没頭できる。まさに「没頭」という言葉を映したように、面白く感じた。

 父さんは普通の会社員。別に有名大学を出たわけじゃないけど、東京の私立大学を一発で卒業したらしい。学部は経済学部。

 母さんは音大を出てから小学校の音楽教諭をしていた。姉貴が生まれて仕事は寿退社。その後は専業主婦。今はばあちゃんと畑仕事をしている。

 姉貴は母さんに引っ張られてバンドをやっているが、ゆくゆくは地元の公立大だろう。父さんと同じように経済学部なら……まぁ入れるかも。


 でも俺は数学が好きだ。理系の家系じゃないのに俺だけは数学が好き。中学の頃までは絶対文系だと思ってたけど、高校に入って数学の時間が楽しく感じた。

 だから数学の教員とか目指してもいいかなぁなんて思っている。母さんも教員だったわけだしそれなりに向いているのかもしれない。でも絶対姉貴に知られたらバカにされるから、就職するその日まで絶対黙ってようと心に決めている。

 そしてたまに不安になる。一つ年上の女怪獣に太刀打ちできるか怪しいのに、四十人のクラスをまとめることが出来るだろうか、と。


「瞬、お風呂入っちゃってー」

 母さんが階段下から言った。

「わかったー」

 とりあえず、家族にはまだ秘密にする。



 ◆



 風呂上がり、リビングでスマホをいじるのは例の女怪獣。髪がボサボサだけど女子なのかよ。

「瞬~アイスとって~」

「は。嫌です」

 冷凍庫を開けてガリガリ君のソーダ味を取る。

「――え、ちょっと! なにそれ自分だけ食べるとか!!」

「あーおいしいわー。アイス。姉ちゃんも食べればいいのに」

 きっと傍から見れば平和な姉弟なのかもしれない。いや、むしろ「兄弟」でいいのかもしれない。けど当人達はそんな融和なつもりなどない。

 軽いジャブ代わりの喧嘩を済ませてからまた部屋へと戻った。



 時刻は22時30分を過ぎている。そろそろ寝ようかと考えながら、カレンダーをみて改めて四月だと思う。

 そして、寝る前にもう一度だけ、机に向かった。


 小学生の頃から使っているから色々なところが傷だらけだ。椅子がぶつかってけずれた正面の引き出しや鉛筆の芯で真っ黒になっているブックスタンド。

 そしてサイドテーブルの引き出しには、一本の万年筆がある。

 元々はじいちゃんの遺品だ。昔新聞記者だったじいちゃんは、この万年筆で最終原稿を書いていたらしい。ばあちゃんの又聞きだけど。

 葬式が終わり遺産相続もトラブル無く終わったとき、最後にやったのが遺品整理だ。じいちゃんが亡くなったのは俺が小さい頃でその様子は正直よく覚えていない。ただ、父さんがこの万年筆を「これだけは瞬に渡したい」とばあちゃんに頼んだという。そして折れていたペン先を直し、ニスを塗ってから俺に渡してくれた。「これがまんねんひつだよ」と言って。


 そして俺は高二になる今、これをたまに使っている。

 箱から取り出し、インクを吸わせる。ところどころ指の当たる部分が剥がれ落ちて白くなっている黒の万年筆。

 そしてケースの下にしまってある便箋を取り出し、ペンを走らせた。


 【久しぶり。高校生活は――】


 宛先は東京都 羽田空港郵便局留め。

 顔も知らない、会ったこともないその人に向けて、久しぶりの手紙を書いた。


 時刻は23時を回っていた。

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