その距離、500ml
ゴトン、と宝物の落ちる音は嫌いじゃない。はやる心を抑えながら前かがみで手を伸ばすと、体温の上昇をなだめる冷たさが指先にひたっと伝わった。後ろが気になる。普段より短めのスカートだって分かっていた。ポニーテールは揺れる。俯瞰するもう1人の自分。
「当たった」
「へ?」
何が何が何が。意識していたことにほんのわずかの後ろめたさを背負いながら振り向いた。
「ほら当たりだって。すげえ。もう一本もらえるやつ」
そんなこと杞憂だと突き放すように間の抜けたいつものトーン、彼の指差す先で赤い7がきれいに4つ揃っている。そうだよな、お前はそういうやつだった。
「うっわ、これほんとに当たるんだ。初めて見た」
「俺も」
「なんか飲めば? もらっときなよ」
「え、ああ、そっか……」
人差し指がふらふらと右往左往すると、重い音がして彼は膝を抱え込むようにしゃがんだ。同時に聞こえるか聞こえないかくらいの小さなため息。
「2本も出てこなくていいのにな、よりによってさ」
「え? 何て?」
「何でもないです」
「てか別に同じのにしなくてもよかったじゃん、お茶」
「待てよ、違うのにすればまだ可能性あったじゃん……バカだ俺……」
「ごめん聞こえない、さっきから何言ってんの?」
「いや、あのだから、その」
緑茶。いつものやつ。まろやかな甘みのあと舌の裏で渋みが負けじと主張する。勢いよく流し込むと喉が潤って少し満足した。
「そろそろみんなのとこ戻らなきゃ。付き合ってくれてありがとね」
「あ、んん」
ごくりごくりと喉を鳴らす彼を置いて歩き出した。
なんでだよ。このタイミングで当たりとかそういう気遣いいらないから、ポンコツ自販機め。逆に空気読め。
だいたい一番悪いのはこいつ。いつもそうだ。言いたいことははっきり言いなよ。そうやってわざと聞かせるような、ずるい言い方をするとこが嫌い。期待してたのはこっちだって同じなのに。せめて違うジュースでも選んでくれればまだ自然にできたはずなのに。交換。気づけよ。
ちらりと振り返ると、わざとなのか距離を置いた私に見えないとでも思ったのか、分かりやすいくらいに眉尻を下げた彼が見えた。無性に腹が立って情けなくて馬鹿らしくてよく分かんない感情がごちゃごちゃになって、無意識に彼が手に持つものをひったくっていた。
「あーなんなのもう、貸して!」
「えっ、どしたの、あるじゃんお茶」
蓋を開けるまでの過程ももどかしいし、そんなに目丸くしてこっち見んなバカ。口をつけてから、普段は使わない色つきのリップクリームを塗ってたんだと思い出したけどもう知らない。一口だけ口に含むと、味のしない液体が名残惜しそうにゆっくりこくんと喉を通っていった。
「えっ、同じやつ、ど、どし」
「味見したかったの、悪い?」
だから嫌いなんだ。私は唇を結ぶ。




