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太陽の貴公子番外編  作者: みずっち
8/14

2015年11月上旬

例の発言の話

気温が下がり、そろそろ秋から冬の支度に切り替わる時節。

早苗の腕時計は午後5時過ぎを差していた。

さっき会社に連絡を入れ、出先から直帰する事を伝えていたので、このまま帰っても問題は無い。

問題は無いのだが、彼女はこのまま帰るつもりは無かった。

何故なら――


(陽輔と舞じゃねーか!何だよ、学校帰りにデートかやったぜ!)


そう、人ごみの向こうに、見知った制服のカップルを捕捉したのだ。

早苗は渋谷の、数千人が行きかうビル群の片隅、と言うか歩道の真ん中でスキップをした。

周囲の人たちの白い目を物ともせず尾行を開始する。

そもそもこの人ごみの中、特定の二人を見つける事自体が不可能に近い筈だが、どういう理屈か、早苗はそれをやってのけている。

そして実は、会社に直帰を伝えたのも、これ(尾行)が理由である。

突然の連絡だったが、会社の同僚は慣れた様子(苦笑い)だったので早苗としては問題無かろう。

ただし、会社の方は心配無いとは言え、わざわざ立て看板や電柱に身を隠す辺り、完全に不審者である。


(おっ、マルキューか…)


早苗は二人を見失わない程度に離れ、巨大なビルの一つに入って行った。

二人に気付かれないよう物陰に隠れ、後を付ける。

子供たちに指を差され、親たちがそれを引き剥がすが、当の本人はお構いなしに尾行を続けた。早苗に取って今重要なのは世間体(他人の目)では無い。

アパレルショップに入り、次は喫茶店で一休み、今度はゲームセンターに入ってプリクラ…早苗はその全てを見届けた。

この後は電車に乗って帰るらしい。

どうやら早苗の見守り尾行(ストーキング)もここまでのようだ。

時計を見るともうすぐ午後8時になろうとしている。

そろそろ腹も減って来た。

何処か居酒屋に入って晩飯でも食うか。


「おや、早苗さんじゃありませんか?」

「んぁ?」


聞き覚えの有る声に振り返ると、見慣れた人物がスーツにネクタイを締めた姿で立っていた。

不思議そうにこちらを見つめる顔は、勝手知ったる間柄と早苗が常々思っている朝香(先輩)のご子息だった。


「よぅ、康介じゃねーか!」


満面の笑みになった早苗が手を振りながら歩み寄る。


「何をなさっているんですか、こんな所で?」

「おう?只の会社帰りだよ。おめーこそこんなとこで何してんだ?病院は?あ、もしかしてサボりかぁ?」


早苗にバシンと強めに胸板を叩かれ、康介は苦笑いしながらそこを撫でた。


「げほっ…違いますよ、私もこれから帰宅です」

「ふぅん。じゃあどっか食いに行くか」

「あぁ…そうですね、軽くならお付き合いしますよ」

「よっしゃ、じゃあバーでも行くか」


頷く康介を従え、早苗は夜の街に繰り出した――。




~午後8時20分頃~




店のカウンターに、二人で座る。

傍からはどう見えているだろうか。

尤も早苗自身はそんな事気にしない。

現に、早速カクテルをかっくらっていた。

雰囲気も何も有ったものでは無い。


「くあー!やっぱ酒うめーなぁ!」


まぁ、テンション全開(関西の法師相手)になると縦横無尽に大暴れするから、これでも大人しい方だろう。

康介は苦笑しながらノンアルコールに口を付ける。

そう言えば、とふと思う。

早苗は件の法師の事をどう思っているのだろうか。

いつも法師だけを狙い撃ちにして酒を飲ませる。

まさか好きな相手を虐めたくなる心理でも有るのだろうか。


「あの、早苗さん…ちょっとお聞きしたい事が有るのですが…」

「んぁ?何だ康介?」


おずおずと切り出した康介に、早苗がおつまみを頬張りながら聞き返す。


「以前から疑問に思っていたんですが…」

「おう」

「レオ丸法師の事はどう思ってらっしゃるんですか?」


意を決して聞いてみた。

たとえそう言う気持ちが有ったとしても、持つ事自体は構わない。

もしそうなら、ちゃんと伝えるべきだと、康介はそう言おうと思っていたのだが。


「オモチャ」

「…はっ?」

「奴隷、下僕、サンドバッグ、くそハゲ」


質問から一秒足らずで、すらすらと回答が返って来た。

更に聞くと、酒の席では、と但し書きが付いてきた。


「あの野郎、ゲームだと口煩い癖に酒の席だと付き合い(わり)ぃからよぅ、あたしが飲ませてやってんだよ」

「えっ…」

「飲ませるとよ、反応がおもしれーんだよ、いやー、アレ見ると酒が進むな」


けっけっけ、と嗤う早苗に、康介は二の句が継げない。

固まる康介に構わず、早苗はグラスを呷った。


「にしてもアイツよぉ、『ゲコゲコ』うっせーな。何であんなに蛙みたいな事言うんだろうな」

「いや、あの、早苗さん、『下戸』って言葉、ご存知無いですか…?」


康介が慌てながらフォローを開始する。


「知ってんよ、酒飲めねえって意味だろ?だったら飲み会来なきゃいいだろが。来るって事は飲むってこったろ」


次のグラスを呷りながら早苗が愚痴を零した。

身も蓋も無いとはこの事か。


「わざわざ来るって事は飲むって事だろ。じゃあ飲まなきゃダメだろうが」


頭が痛い。眩暈がする。

康介はその暴論に黙り込んだ。

何をどうしたらそんな結論に至るのか、訳が分からない。


「ん?康介どうした?顔色悪いぞ?」

「…い、いえ…何でも、有りません…」

「そうか?ならいいけどよ。医者の不養生なんてシャレになんねえから気を付けろよ」


一体誰の所為だと思っているのか。

早苗はその原因に気付かず、出てきた料理に手を伸ばした。

数十分後、康介の財布から、福沢諭吉が二枚ほど等価交換された。

幾ばくかの小銭になって――。





――数日後、風見邸にて――


「母さん、ちょっとお話が有るのですが…」

「む?康介どうしたんだ改まって…」

早苗

「飲み会っつったらアレだろ、『飲む会』だろ?だったら飲まなきゃもったいねーだろ」


だそうです

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